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第1059話 『タラー邸』



 話を終えて酒場を出ると、早速明日勝負をする事になった、モラッタさんの屋敷へと向かった。理由は、ルールに関して早速確かめなければならない事があったから。


 モラッタ・タラーの屋敷は、王都内にあるという。その場所をカミュウが知っていたので、案内してもらった。


 到着すると、ルキアが声をあげた。



「うわーー、大きな屋敷ですねーー」


「そうね。モラッタさんは、タラー伯爵の娘らしいから。つまり貴族令嬢ってことね」



 ルシエルが首を傾げる。



「なるほど。要はお嬢様って事かー。でもそう言えば、貴族って言っても伯爵ってそんなに凄かったっけ? なかなかのデカさの屋敷だぜ、これ」


「まあ爵位の中じゃ、上から三番目かな。下から順番に、準男爵、男爵、子爵、伯爵、侯爵、公爵だから」


「よっ、流石はクランベルト王国第二王女! 博識じゃねーか、まるでマリンみてーだぞ」


「茶化さないでよ。これでも一応、王族の端くれだからね。お(かみ)に携わっている人なら、爵位とかそういうのは誰でも知っている事よ」


「お、お上って言い方! ぷぷぷ」



 ここまで来ておいて、ドヤドヤとついうっかり全員で押し掛けて来てしまった事に気づいた。


 でもまあいいか。もしこれで少しでも困らせたり、圧をかけられるなら明日勝負をする相手に対して、いい事には違いないからね。うん、これも戦略の一つ。そう、私達の対決が決定した時点で、勝負はもう始まっているんだからね。


 全員で屋敷の門の前まで行くと、入口にいた門番2人が私達に警戒を示した。



「な、なんお前達!? ドヤドヤとなんの用だ!! ここは、タラー伯爵の屋敷だぞ!!」



 訳を説明し、モラッタさんを呼んでもらおうとしたら、カミュウが前に出た。フードをとって門番に顔を見せる。



「カミュウだ。モラッタに用があって来た」


「カミュ……カミュウ殿下!?」



 当然のリアクション。目の前の可愛い少女が、実は男の子でしかもこの国の第四王子と知った門番2人は、血相を変えて直ぐにその場に跪いた。



「カ、カミュウ様!! まさか、どうしてこのような……」


「よい、話せば長くなる。それに今はお忍びなのだ。僕がカミュウだと他の者に知られたくはない。跪かずに話を聞いて欲しい」



 パスキア王国第四王子にそう言われた門番2人は、困惑したまま立ち上がった。



「それで、ご用はなんでしょうか?」


「モラッタはいるかな。彼女に会いに来た」


「モラッタ様はいらっしゃいますが、タラー伯爵は今は不在でして……」


「よい。用があるにのは、モラッタの方だ」


「も、もしかして明日の対決の件でありますか? って……まさか、するとこちらはクラインベルトのアテナ王女!!」



 そう言って門番2人は、まじまじとルシエルを見る。



「オレはルシエル・アルディノアっていうしがない冒険者だ! よろしくな! アテナは、こっちこっち!」



 ルシエルは、ニヒヒと笑って私の方を指さした。門番2人は、今度は私の方をまじまじと見る。


 うーーん、やっぱりルシエルの方が金髪だし、スラっとしているし王女様に見えるんだなー……なんてほんのちょっとだけ、卑屈になってみる。


 でも確かに黙ってれば、ルシエルってほんと絶世の美女って言ってもいい位の女の子なんだよね。自分の事をオレとかゆーし、言葉使いもその辺のチンピラレベルだし、あぐらはかくは、スカートがめくれあがってパンツ見えても、周りは女だけだからってぜんぜん気にもしないし。


 だけど持っている素材は一級品だから、初めて見るルシエルの事を知らない人は皆、彼女に目を奪われる。そしてルシエルが、キシャシャシャって笑うと幻滅するわけで……フフフ、でも正直言うと、私はいつものルシエルが好きなんだけどね。



「わ、解りました! それでは怖れながら少々お待ちください。直ぐにモラッタ様をお呼びします」



 門番はそう言って、屋敷へと駆けて行った。暫くして、執事っぽい人がこちらにやってきて、屋敷の中へと私達を案内してくれた。


 客間に通される。


 ルシエルがキョロキョロと部屋の中を見回しては、金目のものを見つけて私に報告してくるので、「やめなさい!」って言って怒ったりしていると、彼女が部屋に入ってきた。


 モラッタ・タラー。タラー伯爵の娘で、他の2人のお姫様と同じくカミュウとの結婚を望んでいる。


 モラッタさんは、部屋に入ってくるなり、まずカミュウに跪いた。



「これは殿下。このような所にお越しくださいまして、ありがとうございます」


「う、うん」


「ですが……」



 モラッタさんの目が厳しいものに変わると、私を睨みつける。



「アテナ王女と同行されているのですね。これはどういう事でしょうか? 明日の勝負でわたくし達かアテナ王女、どちらが殿下の妻……いえ、少し気が早かったですね。どちらが縁談相手に相応しいか、それを決めるというものであったはず。それなのに、その前から殿下はアテナ王女と行動を共にされて……これでは、わたくし達はとても不利です。可哀そすぎませんこと」



 不利? 可哀そすぎる? 対決方法もあなた達が決めているし、場所もあなた達のホーム。なのに不利って、どの口が言っているんだろうかって思った。だけど今はそれを口にはしない。ややこしくなるしね、我慢我慢。



「ごめんね、モラッタ」


「ああ……殿下。なんと、美しいお顔」



 カミュウがそう言ってモラッタを見つめると、モラッタはクラリとよろめきその場に倒れかけた。咄嗟に近くにいた執事とルシエルが、彼女をささえる。なぜ、ルシエルが……って思ったけど、もう面倒くさいから突っ込まない。モラッタは、ありがとうと言って、私達が腰をかけている向かいのソファーに座った。



「今日、僕がここに来たのは明日行われる勝負のルールを再確認する為だよ。アテナにも内容を伝えなくてはならないから、一緒に君の屋敷を訪ねたんだよ」


「そ、そうでしたか。それじゃ、わたくし……早とちりをしておりましたね」



 顔がどんどん赤くなるモラッタさん。そして、カミュウを前にしてもじもじし始める。


 うーーん、なるほど。単に利権や政治だけでなく、モラッタさんはカミュウの事が本当に好きなんだ。


 もしそうだとしたら、私なんかよりモラッタさんの方がよっぽど、カミュウの縁談相手として相応しいんじゃ……

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