第1058話 『気になる勝負内容』
ルシエルのせいで、話が大きく脱線しちゃったけど、ここらで話を本題に戻さないとね。
皆の視線が再びカミュウに集まった。そしてノエルが言った。
「カミュウ王子は……」
「誰かに聞かれているかもしれないから、カミュウでいい」
「王子様を呼び捨てでもいいのか? それに名前を言っちまっているけど」
「構わない。カミュウって名前は別に他にもいるだろうし、それに男でも女でも通用する名前だから」
ルシエルがケラケラと笑う。
「それなら、様とか殿とかつければいいんじゃねーか。カミュウっちーとか、そういうあだ名的な奴でもいいよねー。因みにオレの事は、親しみを込めてルシエルちゅわんって呼んでくんろ」
全員無視。でもルキアが、両手を合わせて目を輝かせている。
「わ、私それなら、カミュウちゃんって呼ばせて頂きます。立場を考えると、恐れ多いですけど、今はカミュウ……ちゃん、女の子ですし……だから、ノエルもカミュウちゃんって呼べばいいんじゃないですか?」
「よし、それじゃあたしは、遠慮なくカミュウって呼ばせてもらう事にする」
「なんじゃ、そりゃ。意味ねー」
ズッコケるルシエル。ルキアじゃなくて、それを横で聞いていたルシエルがズッコケるっていうのが、いかにもって感じでクスっと笑ってしまう。
「それでカミュウは、いいのか? あたしらはこう見えても一応は冒険者だ。依頼を受けて達成する事を、常に心がけている。それは勝負事に関しても同じだ。あたしらがアテナの助っ人に立てば、全力でアテナが勝つようにサポートする事になるぞ」
「うん、構わない。だけど……」
カミュウは一度俯いたのちに、私を見つめて言った。
「正直言うと、僕はアテナに心を惹かれ始めているんだ」
!!!!
カミュウのいきなりの言葉に、私自身が驚いたのは言うまでもない事なんだけれど、ルシエルやルキアも跳び上がるように驚いていた。ううん、ちょっと跳び上がってる!
ノエルは平静を装っているようだけど、少し眉と口角がピクついている。ルシエルが私を睨んだ。
「やっぱりじゃないかーー!! アテナ、こりゃどういう事だーー!! わーーーん、もしかしてパスキアに嫁いで、オレ達をここでポイってするつもりだなーー!!」
「だーかーらー、ちょっと騒がないで!! それに私は、前にも言ったでしょ!!」
カミュウと向き直る。
「カミュウ……もう解っていると思うけど、私はあなたの気持ちは受け入れられない」
「そ、それは知っている! でもそれは、アテナが冒険者として……まだまだ色々な場所を旅して、キャンプとかしたいから言っているんでしょ! たった一夜だけど、キャンプの楽しさが僕にも解ったよ。確かにアテナと2人でキャンプ、凄く楽しかった」
「キャキャキャ、キャンプー!? きさんら2人でキャンプを……しかも一夜だけって、お、おまーー!! おまーー何やってんだ――!?」
興奮して私に掴みかかってこようとするルシエルを、面倒くさそうにノエルが襟首を掴んで止める。
「落ち着け、バカエルフ!」
「なんだと、このスットコドッコイドワーフ!」
「今は、カミュウの話だろ。それで、アテナがその気がないのに、その……対抗馬の3人のお姫様。蹴散らしちゃっていいのか? あんたもこの国の王子だろ? ゆくゆくは、相応しい相手を探して結婚しなきゃならんだろーし、アテナにその気がないのなら、その中の誰かと縁談を進めた方がいいんじゃないのか?」
カミュウはぐっと下唇を噛む。
「アテナはこの縁談を進める気はないし、僕と結婚もする気もない! でもそれは、冒険者を続けたいからなんだよね。決して、僕の事が嫌いな訳じゃないんだよね!」
「嫌いな人と一緒にキャンプなんてしないよ。それにカミュウは、女の子みたいに可愛いし、優しいから……」
「お、おまー、こういう場合はハッキリ言ってやらんと、それは生殺し……うっぷ!!」
ルシエルの口を、ノエルが塞いだ。その手をぺろりと舐めるルシエル。ノエルは悲鳴をあげて跳び上がった。
「それなら……チャンスはあるんだ」
「え?」
「僕はアテナに惹かれ始めている。だけど今まで僕は、好きになった人もいなければ意識した人もいない。だから僕の方こそ思いきって言ったけど……実は、この気持ちが本当かどうか、まだ困惑している部分があるのも本当だし……パスキアの歴史がとかガスプーチンが言っていたけれど、僕はモラッタ達の縁談を受ける気はない。でもあれだけ王族や臣下が集まる中で、ああなった以上は対決を避けられないのも解っている。だから僕は、明日の勝負、他の誰でもないアテナに勝って欲しいんだ」
カミュウの顔を見ると、見つめ合う形になってしまった。だけどお互いの心の中を吐き出してしまったせいか、今までよりもちゃんと向かい合う事ができた。ノエルが続けた。
「話を戻す。それじゃ、とりあえずあたしらはアテナの助っ人に立って、その胡散臭い宮廷魔導士がこれ見よがしに出してきた、対抗馬のお姫さんを蹴散らせばいいんだな」
「うん、そう。だから皆には、力を貸して欲しい」
ルキアとルシエルが、拳を握って頷く。
「もちろんです! 私、頑張ります!」
「仕方ねーなー、でも仲間だからな。お助け致しましょう! それに、対決なんてメッチャ面白いじゃねーのん。ふヘヘ、ルシエルちゃんの腕が鳴りますよーってなもんだ! それで、対決方法はなんなんだ? お互いの武勇の限りを尽くしてぶつかり合う一騎打ちか?」
「それじゃ、助っ人なんていらないじゃないですか」
ルシエルの腕を、ペシリとルキアが小さな手で突っ込む。なぜか、照れて後頭部を摩るルシエル。この感じももうなんてゆーか、お馴染みになってきちゃったな、フフフ。
「それじゃあ、なんで勝負すんだよ? まあ、何にしても凄く面白そうだから、オレはぜってー参戦するけどねー。ウハハ。それで対決方法はなんだよー?」
私は珈琲を一口飲む。あら、美味しい。
そして大きく息を吸い込むと、ゆっくりと吐いた。
「えっと、勝負する相手はこの国の3人のお姫様達。タラー伯爵令嬢のモラッタさん、ギロント将軍の娘のデカテリーナさん、ベート教育大臣の娘デリザさん。そして勝負は3本勝負だから、先に2本取った側が勝ちという訳。それでまずは明日、その一本目が行われるんだけど……その後の対決方法は不明。きっと勝敗はどうであれ、2本目に何をするかはまた明後日とか後日発表になるわね」
「それで、明日の勝負の種目はなんだよ? もったいぶらずに、そろそろ教えてくれよー」
「近い近い! ちょっと、そんなに近づいてこないでルシエル、今言うから」
ルシエルとルキアが、ごくりと唾を呑み込む。
「明日の対決は、なんとお料理対決よ!」
「りょ……料理……!?」
「そう、料理。お料理対決らしいわ」
「な、なにいいいいい!!」
あはは、料理勝負なら、ルシエルは戦力外通告かな。そうなると、ルキアは主力になる。いつもお料理を手伝てもらっているし、その手際もいい。
あとは……
「な、なんだよ。あたしは、肉を焼くのは得意だぞ。もちろん、魚もだ。一部の者には、焼き魚にも定評がある」
うーーん、一部の者にはっていうのは、きっとミューリやファムやギブンの事ね。
このままノエルでいいものか。クロエもお料理はこれまでしてこなかったみたいだし、マリンは……ルシエルと同じく、役に立たなそうだもんね。
さて、どうしようかな。あと、この勝負の後の2戦目、助っ人をチェンジしていいのかどうか、先に確認しておかないと。それでまた勝負するメンツをどうするか、変わってくるよね。