表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1057/1213

第1057話 『たまたま?』



 誰も気兼ねしないで入れるような庶民的な酒場。そこの丸テーブルに集まっている皆は、カミュウに視線を集中させていた。


 まさかこんな所にパスキア王国の王子であり、私の縁談相手でもある人がいる。更にそのカミュウの事を、あれこれと言っちゃったなーっていうのもあって、口をパクパクとさせて未だ言葉を発す事ができないルシエル。


 代わりにルキアが切り出した。



「はは、は、初めまして。わ、私はアテナと一緒に冒険者をしています、ルキア・オールヴィーと申します」


「あたしは、ノエル・ジュエルズだ。テーブルの下でミルクを飲んでいるのが、使い魔のカルビ。そしてこの隣でどういう訳か、アヘ顔しているエルフがルシエル・アルディノアだ」


「アへ顔ってゆーーなっ!! だれがアヘ顔だ、誰が!! 驚いてんだよ!! そもそもアへってなんだよ、アへって!! まったくもー!!」


「ああ、そうだった。すまんすまん」


「てんめー、ノエル! わざと言いよってからにー! よりにもよって、パスキアの王子様の前でオレを辱めよったなー!」


「辱め? 別にいいだろ、コメディアンなんだから」


「ちがーわい!! 冒険者!! 冒険者だっし、クラスは【アーチャー】だよ!! 誰がコメディアンなんだよ!! まーーた、馬鹿にしよってからにーー」


「フッ」


「くそ、今笑いよったな!! ノエルめ、後で覚えてろよー」


「嫌だ。そんなのいちいち覚えていられるか」


「このちんちくりんがーー!!」



 まーた取っ組み合いを始めるルシエルとノエル。しかも器用にも座ったままで。本当に、この二人は仲がいいんだか悪いんだか。


 でもカミュウが、フードをとって素顔見せると皆、また彼に視線を集中させた。



「ぼ、僕はカミュウ・パスキア。この国の第四王子で、僕の両親……つまりフィリップ王とメアリー王妃の間に生まれた7人の子供達の中では、下から2番目の子供だ。そしてここにいる、クラインベルト第二王女アテナの……」



 カミュウは、チラリと私の方を見た。



「大丈夫。皆、私がクラインベルト王国の第二王女である事も、普段は冒険者を生業としている事も、趣味がキャンプって事も全部知っているから。でも声のボリュームは、そのまま小さくね。私やあなたの事が、他のお客さんに聞こえでもしたら大変な事になるから」


「う、うん。えっと……そうだね。そう、僕はここにいるアテナの縁談相手だ」



 ルキアはカミュウを見つめた後、私に恐る恐る尋ねる。



「あ、あの」


「ん? なーに?」


「この方は、本当にこの国の王子様なんですか?」


「え? 今、本人がそう自己紹介したじゃない。カミュウは、紛れもなくこの国の王子様で、私の縁談相手よ」


「そ、そうですか。でも……」


「でも?」



 もう一度、カミュウを見るルキア。



「どう見ても、女の子にしか見えません。可愛い女の子……本当に王子様なんですか?」


「あはは……そうだよね。確かにそう見えるけど、彼は間違いなく王子様よ。男の子」



 ルキアはカミュウをまた見た。するとカミュウは、「本当だ、僕は男だ」と言った。そして今、女の子の格好をしているのは、王宮をこっそりと抜け出してきたから、他の者に知られないように変装している事ももう一度説明する。


 すると今度は、ルシエルが私の方へ乗り出してきて言った。



「正気か? どう見ても、女の子だろ? もしかして、アテナはオレ達をからかっているのか? サプライズか、サプライズなのか?」


「違うわよ、本当にカミュウは王子様よ。ちゃんと、男だし。ほら見て、胸だってないでしょ!!」



 そう言ってカミュウを指さす。顔を赤くするカミュウ。その仕草が余計に可愛い女の子に見える。



「胸だけで、男か女か解らないだろーが!」



 ルシエルはそう言って、ノエルとルキアの胸を見た。



「おい、お前……今、あたしの胸を見て言いやがったか?」



 口笛を吹くルシエル。でも上手に拭けなくて、風が抜けるような音。



「言っていませーーん。ノエルは、自信過剰なんじゃないですかーー」


「自信過剰ってなんだよ! あたしが胸がないって馬鹿にしたんじゃねーのかって、言ってんだよ」


「まあまあ、何もそないに青筋たてて怒らんでもええやねーん、ニャハハ。って、それでアテナはどうしてカミュウが男だって断言できるんだよ! もしかしたら、王女様でしたーってオチかもしれないだろ」


「あの……僕は本当に男だけど……」


「うるさい! ちょっと、黙ってろい! 先にこっちの謎を解き明かしてからだ!」


「ひえっ!」



 一国の王子に対して、この怖い者しらずな言葉使い。まあ、ルシエルは普段から私といるし、ノエルもドワーフの王国にいた頃には、ガラハッド王とよく会っていたみたいだしね。王族に対して、それほどかしこまったりしないのかも。ルキアは、緊張しているみたいだけどね、フフフ。



「兎に角、アテナ! カミュウが王子だってなぜ言い切れる?」


「何をそんなにムキになっているの。カミュウは、男。それだけよ」


「それだけじゃねーってばよー! どう見ても、可愛い女の子だろカミュウは! それを男だって言い張るって事はだなー。つまり……アレを確認しやがったな」


「あ、アレって?」



 言って、気づいてしまった。ルシエルが言っているアレ。私は気づいた途端に、顔が真っ赤になった。私の表情を見て、ルシエルは椅子から立ち上がって、更にテーブルに乗り出した。



「ほーーれみろーー!! ワタチはこの縁談断りマッスル。なぜって? そんなん言わんでも解るやん? 皆と旅を続けたいしーー、キャンプも楽しいでありますからー……なんて言っておきながら、この美少年とよろしくやってきた訳だ!! ちきしょー!! こちとらギルトの依頼をへえこら頑張ってやってた時に、ラブロマンスか、このヤローイ!! こいつは、メチャ許せんよなー」



 はああ!! ルシエルが変な事を言うから、余計に顔が赤くなってしまった。ううー、カミュウの顔が見れない。そして後ろめたい事なんてないのに、喋ると言い訳みたいになっちゃう。不可抗力とは言え、見ちゃったから。



「よろしくなんて、やってません!!」


「へん! どーーだか!」


「あのねーー、ルシエルの思っている事なんて何もないからね!! カミュウが変装の為とは言え、こんな短いスカートをはいているからたまたま見えただけよ!!」


「ふーーん、たまたま見えたんだな。たまたま見えた? それは、たまたまって意図的に言っているのか? それともたまたま、たまたま見えた? どっちなんだ? いや、そこを突っ込むのは、ヤボってもんだな。言わんでも解るし。しかしなー、おいしい思いをした上に、ウケまでとろうとしよってからにー! それが一等許せんぜ」



 丁度、飲み物に口をつけていたノエルが、ルシエルの言葉を聞いてブッと吹いた。


 まったくもーー、なんなの!!


 更にエスカレートしていくルシエルに、私は大きく溜息をつくと、ドサリと椅子にかける。ルキアが心配してくれる。



「だ、大丈夫ですか、アテナ。まったくもールシエルは、どうしたんでしょうか?」


「解らない……でもちょっと疲れちゃった。すいませーーん、ちょっといいですか? 飲み物を注文したいんですけど」



 まーだ気持ちが収まらずに、アレコレと吠えるルシエルをよそに、私は酒場に入ってオーダーがまだだったなと、店員さんを呼んでカフェオレを注文した。ここは酒場だけど、まだ昼間だしこういう飲み物を頼んでもオッケーでしょ。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ