第1054話 『これから合流するよ その3』
フードを被った女の子に変装しているカミュウと2人で、パスキア王都の冒険者ギルドに行ってみた。
うわーー、大きな建物だし凄く賑わっている。見とれていると、カミュウが私の服を引っ張った。
「ねえ、中に入らないの?」
「え? あ、うん、入るよ。ちょっと見とれちゃってた、えへへ」
「アテナの国の王都にも、冒険者ギルドはあるんでしょ?」
「うん、もちろんあるよ。規模もどっこいどっこいかな。でも外装……というか造りとか違うし、雰囲気もやっぱり違うから見とれていたの」
「雰囲気……」
「クラインベルトとパスキアじゃ、それ程変わらないかもだけど、ドワーフの王国にあった冒険者ギルドは、なんというか石造りの格好良くて丈夫な感じだったし、集まっている冒険者もドワーフという種族が多かったかな。その土地その土地で、雰囲気というか色があるように、冒険者ギルドにだってあるからね。それを見ていたの」
「そうなんだ」
「それじゃ、中へ入ろうか」
大きな建物。出入口の扉は両開きの大きなもので、もはや開きっぱなしになっていた。冒険者や依頼者、そして関係者が何人もひっきりなしに出入りしているので、開けたままにしているのだと思った。
中に入ると、大きなフロアになっている。エスカルテの街の冒険者ギルドよりは、かなり大きいけれど、クラインベルトの王都とはどっこいかな。
同じように奥側にフロントがあって、そこに何人もの受付嬢がいて、冒険者や依頼人が列をなしている。
一番人が並んでいない列を見つけて、そこに並ぶ。まあ一番少ないってだけで、何処も結構並んでいるけどね。またこの午前中って時間帯も悪いかもしれない。一番、ギルドが混む時間だから。
「さあ、こっちに来てカミュウ。列に並ぶよ」
「フフフ」
「どうしたの、カミュウ?」
「まさか、僕が冒険者ギルドに来て、皆と同じようにこうして並ぶなんて」
「そうだね。でもそれがそんなに面白いこと?」
「うん。だって、ここにいる人達皆、僕らの事をまさか王子と王女なんて思ってもいないだろ?」
私はポンと手を叩いた。
「ああ、そういう事ね。でも少なくとも私は、王宮の外では王女アテナではなくて、キャンパーアテナよ」
ブイサインを作って言うと、カミュウは「キャンパーじゃなくて、冒険者だろ」と言って笑った。
「よし、いよいよ次だね」
「それはそうと、アテナはなぜ冒険者ギルドにやってきたの? もしかして、依頼を出すの?」
「依頼って私が? なんの依頼を?」
「え? 明日のモラッタ達との勝負。それに勝利できる人材を、助っ人として雇うんでしょ?」
ああー。確かにそういう手もあったかー。でも、そういうのはあまり気が進まない。何か丸投げできる事なら、誰か雇ってっていうのもいいかもだけど、私は絶対参戦しなきゃだし、一緒に組む相手となるとやっぱり信用できる相手である事は必要不可欠な訳で。
「ううん、違うの。ここには私の仲間を探しにやってきたの」
「仲間? 冒険者ギルドに?」
「うん。私は、この王都へ仲間と共にやってきたの。クロエやマリンの他にもいて、凄く頼りになる仲間。それで、私の……つまりあなたとの縁談が終わるまで、この王都で待ってくれているんだ」
一瞬沈んだような顔をするカミュウ。遠回りにだけど、縁談が終わったら私は仲間と共にこの地を去ると、言っているのに等しい言葉だったからかもしれない。
縁談が破綻すれば、実際その通りになるし、私もそのつもりでいる。
この縁談を計画していたエスメラルダ王妃や、ドワーフの王国での借りを返す為にこの国へやってきた私もそうだけど、ガスプーチンが連れてきた3人のお姫様連合も解散するだろう。
考えてみれば誰よりも傷つくのって、カミュウなんだよね。
全てが終わったら最後には、もともと私は縁談には乗り気じゃなかったし、もとから破綻にするつもりだったという事は、彼に改めてちゃんと謝らないといけない。
「私の仲間は、私と同じく冒険者だから、もちろん冒険者ギルドにその名を登録している訳なんだけど……」
「なるほど、そういう事か。そのアテナの仲間が、もしもアテナを待っている間に冒険者として仕事をしているのなら、とうぜんここへ寄っている訳だから、ここへ来れば依頼を現在受注しているかどうかも解るって事だね。依頼を受注していれば、その依頼を達成する為に何処にいるかって解る訳だし、していなければこの王都内で待っている」
「うん、そういうこと」
「はい、お次の方、どうぞーー」
順番が回ってきた。
「はいはーーーい!」
受付嬢に、早速仲間の事を聞いてみた。ルシエル、ルキア、ノエル、カルビの事。実はカルビも今やルシエルの使い魔として、冒険者ギルドには正式に登録済みなのである。
だからいつかのニガッタ村での出来事みたいに、村や街で誰かがカルビを見て「きゃあああ、魔物よおおお!!」なんて叫ばれるような事があったとしても、カルビの事を冒険者ギルドがちゃんと、ルシエル・アルディノアさんというAランク冒険者の連れている、可愛い使い魔さんですよって身元を保証してくれるから心配はない。
因みにもちろんそれは、ただじゃないです。私達が最初に冒険者に登録した時に支払ったように、使い魔は使い魔で登録料が必要になる。だから冒険者の中には、相棒として魔物を連れている人もいるけど、冒険者に使い魔として登録をしていない人も沢山いるのも事実。
要は、何かあった時に身元を保証してもらいたいかどうかって事だけど、私達はカルビの事を思って、登録する事に決めたのでそうしたのだ。正式に仲間として認めてもらいたかったし。
「えっと、そうですね。アルディノア様一行は、いくつかこの王都で依頼を受けられて達成されていますね」
ほら、やっぱり活動していた。でも先立つものも必要な訳だし、冒険者の本業なんだから当たり前と言えばそうだし、ただここで私を待っているよりも、とっても有意義な行動だと思う。それにあのルシエルが、大人しくしているはずがない。
「でも今は、依頼を受注はされていませんね」
「そうですか。解りました、ありがとうございます」
よーし、これでルシエル達は、この王都内で私を待っている事が解った。
「アテナ、それで次はどうするの?」
「皆がこの王都内にいるって事は解ったから、これから都内を探さないとね」
「探すと軽くいうけど、でもこの王都はとても広いよ」
「フフフ、知っている。だから闇雲には探さない。人を見つけるなら、とりあえずはあそこかな」