第1053話 『これから合流するよ その2』
パスキア王国――王都に出る。
一番の大通りを歩いていると、何度も人とぶつかりそうになった。兎に角、王都という場所は、人で溢れていて活気があるね。
でもやっぱり当たり前だけど、クラインベルト王国とはなんていうのか色が違う。その国の特色。そういうのって、面白いと思う。
「さてと、探さなきゃね。ルシエル達は、何処にいるんだろう。この王都の何処かには、きっといるはずだし、私の用事が終わるのを待ってくれているとは思うんだけど」
うーーん、そう言えば迂闊にも、待ち合わせ場所とか特に決めていなかった。
まいったなー。王都の何処かにいるとは思うんだけど、とっても広いし……今思ったんだけど、冒険者ギルドで何か依頼を受注しているかもしれない。そしたら、魔物討伐などなら、当然王都の外に出るだろうし……
うん、こんな事なら、ちょっと待ち合わせ場所とか、連絡手段を考えておけば良かったかな。まあ、今から悩んだとしても後の祭り。兎に角、ルシエルを探さなきゃ。
イーリスやカミュウは別として、パスキア王国側には、私達をあまり快く思ってない人達がいるみたいだし、助っ人を頼むとしたらやっぱり信用できる仲間がいい。
「はあーー、でも村ならまだしも、こんな広い王都で彷徨っていても、見つかるとは限らないし、あそこに行ってみようかな」
探し人を見つけるのに最適な場所がある。そこへ向かうべく、再び歩き始めた。
刹那、人混みの中、誰かが私の腕を掴んだ。驚いて、振り向く。すると、そこにはフードを被った、女の子が立っていた。
「え、なに? 何か、私に御用?」
「アテナ……」
女の子は顔をあげる。フードから見えたその顔を見て、私は目の前にいる子が彼女ではなく彼だと気づいた。
「え⁉ もしかして、カミュウ!?」
「シッ! 声が大きいよ、アテナ! 抜け出してきたんだから」
「どうして? どうして王宮を抜け出してきたの?」
「そんなの決まっているよ。君の後をつける為だよ」
誰かの後をつける場合に、その相手にこんなセリフを言うのかなーーっていう疑問は、とりあえず置いておいて、カミュウにその訳を聞いた。
「後をつける為って、どうして?」
「明日、モラッタ達との勝負。僕はアテナに勝って欲しいと思っているから」
「え? 私に?」
思わずキョトンとしてしまう。するとカミュウは、真っ赤な顔をして俯いてしまった。
「とと、兎に角、僕はアテナに勝って欲しいから! モラッタや、デカテリーナ、デリザと結婚はしたくないんだ!」
「それは、彼女達の事が好きじゃないから?」
「好きじゃないといえば、少し語弊があるかもしれない。彼女達は、3人共とても素敵には見えるし、このパスキア王国の平和と繁栄を、本心から望んでくれているから。でも僕は、彼女達の事を結婚相手としては見ていない」
「でもこの勝負は、縁談相手として相応しいかどうかでしょ? 別に彼女達が私に勝ったからって、あなたとの縁談をする権利を正式に手に入れられるだけで、別に結婚するしないは、その後の進展次第じゃないの?」
カミュウは更に顔を赤らめて言った。
「いい、いいの!! 兎に角、僕はアテナに勝ってほしいの!! 彼女達だって、僕にその気が一切ないなら、ここで諦めてもらった方が波風も立たないし、一番いいから……」
「え? でも私が勝っちゃった場合……私はいい訳?」
「アテナは、パスキア王国の人じゃないから」
なるほど。確かにその通りだし、筋は通っている……かな。
「と、兎に角僕は、今からアテナについていくから。明日、勝負に勝つ為に仲間を集めに行くんでしょ?」
「まあ、それはそうだけど……ついてくるって、王子様が勝手に単身で王都へ出歩いていいの?」
「アテナはさっきから質問ばかりだ!!」
「うっ、まあ……」
「王宮の外にはアテナと出たし、キャンプまでした! それに今はこうして女の子に変装しているし、フードで顔も隠している。僕が王子だなんて、誰も気づかないよ。それにアテナがいるから、安全だ。違わないよね」
「まあ、違わないけど……」
私を一生懸命説得しようと、うるうるした目で迫ってくるカミュウ。本当に美少女に見える。
「解った。こうなったらなんて言ってもついてきそうだし、それなら近くにいてくれた方がいいかも。解ったわ。それじゃ、一緒に行きましょう」
「やった! ありがとう、アテナ」
そう言ってカミュウは私の手を両手で握った。そして、はっとしてまた顔を赤くして距離を取った。うーん、なんだかなー。
カミュウと並んで、再び歩き出す。人が沢山行きかう中、前に進む。一応、念の為カミュウの手を握った。
「ア、アテナ!!」
「なーに?」
「いいい、いきなり僕の手を握るから!!」
「はぐれるかもしれないし、一応ね」
「こ、ここは、パスキア王国の王都だぞ!! ぼ、僕が迷子になるとでも!?」
「そうじゃなくて、王子様でしょ? 何があるか解らないし、初めてあなたに会う人はあなたの事を、可愛い美少女って思うかもだけど、あなたの顔を知っている者もこの国には沢山いるでしょ?」
「……そ、そうか。安全の為なのだな」
「そうだよ」
にこりと笑って、カミュウに言った。すると、カミュウはまた恥ずかしそうな表情をした。だけど私が握った手を、振りほどこうとはしなかった。




