第1050話 『対抗馬 その3』
少しは動揺をしているかもしれない。そう思ったけれど、彼女は特に気にもしない様子で言った。
「それで、勝負というのはなんなのですか? カミュウ王子との事でならまだしも、あなた方にわたくし達の貴重な時間を裂いている暇は、はないのですよ。おっしゃりたい事があるなら、さっさとおっしゃいなさい」
ニヤリと笑う3人の姫。ガスプーチンが言った。
「よろしいですかな、モラッタ嬢」
「解っていますわ。それでは、申し上げます。わたくし達は、アテナ王女に対して三本勝負を挑ませて頂きますわ」
三本勝負!? 不安だったけど、それを聞いてなんだかちょっと面白くなってきた。
「つまり私があなた達3人と、それぞれ勝負するという事ね。いいわ、受けて立ちましょう」
また3人のお姫様は、互いに顔を合わせてクスクスと笑う。っもう、なんなの、この子達!! 違うの?
「失礼しました。ちょっと違いますですわね。三本勝負は、先に2本先取した方が勝ちですわ。ですがわたくし達、3人それぞれがアテナ様と勝負した場合、もしもどちらかが先に続けて連勝した場合……そこでわたくし達の勝利が確定してしまったら、2本目のそこで勝負がついてしまいます」
「それが駄目なの?」
「駄目ですわ。そうなると、わたくし達の中で、誰か1人がアテナ様と勝負できない」
「それは、あなた方の提案でしょ。仕方のない事なんじゃないの?」
「仕方がない? アテナ様がそれで良くても、わたくし達は良くないのです。なぜならわたくし達は、アテナ様に勝利した後、カミュウ様の正式な縁談相手となって、互いに争う事になります。その時に、アテナ様との勝負結果は、確実に反映されますわ」
「なるほど、じゃあどうするの?」
「それは簡単。アテナ様には、わたくし達3人を同時に相手をして頂きます」
『おおおーーー!!』
周囲から更に歓声が沸き起こる。これは、モラッタやデカテリーナ、デリザというパスキアの姫達がこう言ったから、盛り上がっているだけで、ここがクラインベルト王国なら卑怯だぞとか、ブーイングの嵐になる。だけど、悲しいけれどここはパスキア王国。
もうなんだか面倒くさくなってきたので、「解った、それでいいわ」って言おうとした。でもそこでまた、エドモンテが口を挟む。
「納得できませんね!! 馬鹿らしい!! あなた方は3人、姉上は1人。これで、勝負をしようなど、全くふざけた事をいうものだ! 勝負と言っておきながら、公平ではない。不公平極まりないではないですか!」
まあ、確かにそれはそうだ。エドモンテの言う通り。でも、剣とかの勝負なら、別に多人数相手でもいいんだけど……どうもそういう勝負じゃなさそうだし……ふむ。
「そのような卑怯な勝負で、決着をつけようなどと甚だしいのですよ!」
「オホホホ、卑怯ですか? わたくし達が? アテナ様は、我が国が誇るパスキア四将軍が1人、ロゴー・ハーオン様を軽々と倒して見せたのですよ」
モラッタの言葉に、第二王子セリューの眉間に皺がよる。そう言えば、四将軍は彼の支配下なんだっけ。きっとこの謁見の間にも、ロゴー・ハーオンや他の四将軍達もいて、この成り行きを見ているんだろうけど、今は探したくない。
「モラッタさん。剣での勝負なら、例え私1人でも自信はあるけれど、そうじゃないんでしょ?」
またクスクスと笑う3人。もう、いったいなんなの!
「ええ、おっしゃられる通りでございますわ。それでは、気になる勝負方法ですが、わたくし達が選ばせて頂きます」
「はあ? そんなの可笑しいでしょ! こっちは1人、対決方法もそっちが決めるって! ぜんぜんフェアじゃないし、そんなの対決って言えるの?」
「オホホホ、熱くならないで最後まで聞いてください、アテナ様。ですから、そちらも3人で挑めば良いではありませんか?」
「はあ?」
「そちらにいらっしゃいます、エスメラルダ王妃でも構いませんし、王妃が連れてきたメイドの中から選べばあと2人は、簡単に見つけられますでしょ。ですが、エドモンテ様はご遠慮ください。これはあくまでもカミュウ様への愛の想いを賭けての勝負ですから、殿方の参戦はご遠慮願いますわ」
「え? それじゃ……例えば、私の仲間を呼んでもいいの?」
「ええ、それはもちろん」
3人は、ニヤリといやらしく笑う。その顔はなんとなく勝ち誇っているようにも見えた。
はっはーーん、なるほど。クロエは目が不自由だし、マリンはいつも気だるそうで眠そうで使えなさそうだから、そんな事を言っているんだ。
まあクロエやマリンも私にとって、凄く頼りになるかけがえのない仲間である事は間違いないけれど、あえて言えば私には、他にも頼りになる仲間がいる事を彼女達は知らない。
「解りました、この勝負! 正式に受けます!!」
『おおおおーーーー!!』
またしても、周囲から歓声のような声が沸き上がる。ううーん、絶対皆、この展開を楽しんでいるよね。
フィリップ王とメアリー王妃は、私が勝負を受けると聞いて、今にも飛び跳ねそうな位に喜んでいる様子だった。そう、まるでこれは縁談などではなく、お祭りか何かのように。フィリップ王の口に出した、余興という言葉を思い出す。私は続けた。
「でもこの勝負は、どちらがカミュウ王子の縁談相手として相応しいかではなく、クラインベルト王国第二王女として、売られた喧嘩は買わせてもらう! 私は、そういうつもりだから、それでそっちが良ければだけどね!!」
もう少し言葉を選びなさい。エスメラルダ王妃とエドモンテの顔を見ると、2人は完全にそう言っていた。でもいいでしょ。これであなた達や、パスキア王国の人達の思う通りになったんだからさ。
さあ、面白くなってきたわ。勝負で白黒つけるなら、解りやすくて私好み。でも悪いけど、勝つのは私だから。




