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第1048話 『対抗馬 その1』



 昨日、湖畔でエスメラルダ王妃と話した事。


 パスキア王国の宮廷魔導士ガスプーチンが、私達とパスキアの王族家臣が一同に集まっている場所で、驚くべき事を言い出した。カミュウ王子との縁談を進めていた、私とエスメラルダ王妃の前に3人の対抗馬がいると紹介したのだ。


 エスメラルダ王妃の怒りは、相当なものだった。まあ、あの場にいきなり現れて、あんな事を言い出すなんて、私も馬鹿にされているなとは正直思ったけれど、それでもこの縁談を反故にできればと思っていたので、願ったりな展開だった。


 それがエスメラルダ王妃にも伝わったのか、彼女は昨日私と2人で話をしたいと言ってきた。その話をする為に、他に人気(ひとけ)がない場所として湖畔に向かった。


 でも途中、パスキア最強騎士の1人ブラッドリー・クリーンファルトに見つかってしまった。


 彼は、私達を護衛すると言って湖までついてきた。それからエスメラルダ王妃と長く何か喋っていた。それも何か不思議と親し気で、いつも仏頂面のエスメラルダ王妃が、なんだか楽しそうに見えた。


 遠くからその様子を見ていたクロエは、その事が凄く気になってしまって仕方がなかったようで、私に色々と質問をしてきた。


 



 ――――そしてそんな事があった翌日。早朝から早速お呼びがかかった。


 私とエスメラルダ王妃、そしてエドモンテは謁見の間に向かう。するとそこで待っていたのは、ガスプーチンと私に対して対抗馬に出してきた、3人の着飾ったお嬢様方だった。


 フィリップ王もメアリー王妃もいる。そしてその息子である王子、王女達も既に集まってはいるけれど、実際に手を回してこんな朝っぱらから私達を呼びつけたのは、何を隠そうこのガスプーチンだろう。


 流石というべきか、エスメラルダ王妃も既にその事を見抜いているようだった。口には出さないけれど、彼女の表情と目を見ればそれは解る。なんてったって、彼女とは幾度となく衝突してきた私だから。


 パスキア国王、フィリップ・パスキアがまず謁見の間に入ってきた私達に声をかけた。



「おお、来てくれたか。朝からいきなり呼びつけてしまって申し訳ない。玉座の間でも良かったのだが、直ぐに済む話なので謁見の間に来てもらったのじゃ」



 呼びつけておいて、直ぐに済む話。私達が臣下であればそれでいいと思うけれど、私達は他国の王族。しかもこの部屋には、パスキア王宮の重要人物が一同に集まっている。その中で、この扱い……表情からしても決して悪意がある訳ではないけれど……やっぱりなにか、フィリップ王は、私達の事を軽んじてるというかなんというか配慮が欠けているみたいな、そんな感じに思える。


 エスメラルダ王妃は、明らかにイラついている。その様子に気づいているエドモンテが、代わりに言った。



「よろしいですか、フィリップ陛下。それで、用とはどのような事でしょうか? 直ぐに済むというのであれば、早速用件を伺いたいと思いますが」



 あれ、エドモンテもイラついている。まあ、無理もないか。エドモンテだって、母親の頼みでここ、パスキアまで同行してきているけれど、本心はこんな事に付き合いたくなかったみたいだし……


 エドモンテは、この縁談の事を別にどうとでもいいと思っているに違いない。なぜなら、彼のその意識は常に内側に向いているから。他国と同盟して良好な関係を築くより、自国に目を向けて強く強くしていく。それがこの子のやり方。


 以外かもしれないかもだけど、私は将来クラインベルト王国を背負っていくのならエドモンテが一番いいと思っている。姉のモニカもきっとそう思っているような気もするしね。うん、そうだね。エドモンテか、そうでないなら皆から愛されているルーニが、お父様が隠居した後の国の統治者に相応しいかもしれない。


 パスキアの第二王子、セリューが口を挟んだ。



「エドモンテ王子。やけにイライラとされているが、どうかなされましたか?」



 気遣っているようで、口調は明らかに挑発的。そう言えば第二王子セリュー・パスキアは、パスキア四将軍を配下に持っていたんだっけ。その四将軍の1人、ロゴー・ハーオンを、私が二度にわたって皆の前で倒しちゃったから、あまり快く思っていないのかも……っていうか、敵意を持っているのかもしれない。


 そう考えると、この王子もガスプーチン側かな。


 エドモンテと私は、普段は仲が良くないけれど、今日ばかりはこの子を応援したいと思った。いけ、いけ、エドモンテ!! フレー、フレー! 今この時は、お姉ちゃんはあんたの味方よ!



「どうかされましたかですと? 私達は、この国に、縁談の話でやってきているのですよ。こんな茶番は、いい加減にしてほしいものです。個人的な意見を申し上げると、はっきり言ってうんざりしています。もしかしてあなた方パスキア国は、我がクラインベルト王国と手を取り合うという意思がないのではないですか?」


「それは誤解です、エドモンテ王子。確かにエスメラルダ王妃とは、我が弟カミュウとアテナ王女の縁談について話を進めさせて頂きました。ですが、臣下や他の者から異論があれば、それに耳を全く傾けないというのも上に立つ者としてどうかと思いますし、我が国は独裁国家ではないですからな。そうですね、父上」


「え? ああ、そうじゃ。その通り、セリューの言う通り。我が国は、ドルガンド帝国のような独裁国家ではないでな。臣下や他の者から異論が出てくれば、それに耳を傾けぬわけにはいかぬのだ。またクラインベルト王国とは、これまで通り仲良くはしていきたいが、余も一国の国王として筋は通しておきたいのじゃよ」


「筋? ほう、筋とはなんなのですか? 差し支えなければ、お教え頂きたい」


「それはそのーー……」



 明らかに怒っているエドモンテに対して、言葉に詰まるフィリップ王。すると下座の方から、一人の男が前に進み出る。灰色のローブの男、ガスプーチン。彼はニタリと笑い、私達に向けて言った。



「下座より失礼つかまつります。無骨者ゆえ、お許し頂きたい。さて、この場におりまする、こちらの見目麗しゅう3人の姫様方は、誰しも自分こそがカミュウ王子の妻として相応しいとお考えの方々であります。ですから、この場を借りてアテナ王女には……少し物騒ですが、一等解りやすく簡潔にお伝えさせて頂きますと、つまり……宣戦布告させて頂きたいと思っております」


『おおおおおーーー!!』



 ガスプーチンのびっくり発言に、周囲の驚く声。とんでもない事を言いだした。同じ宮廷魔導士でも爺とは、やっぱり大違い。


 でも慌てていない者達の表情を見ると、フィリップ王やメアリー王妃、その他の息子娘達は既に了解済みという所だろうか。


 まあこの世界には沢山の国があり、5つ国があれば5種類の色と形を成していたりするのは、当たり前。でもこのパスキア王国……ちょっと問題のある国だと思った。


 うーーん、なんだかなー。でもまあ、いっか。来るなら来なさいってね!


 私はエスメラルダ王妃の方を向いた。彼女と目が合う。そして彼女も私も、口元に少し笑みを浮かべていた。


 当て付けなのかなんなのか、その真意はまだ定かじゃないけれど、いきなり登場した対抗馬。その人達とガスプーチンをやっつけようって思っていたら、向こうから来てくれた。


 そういうつもりなら、やってやりましょう。なぜか沸々と闘志のようなものが、心の底から込み上げてきた。

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