第1047話 『縁談についてあれこれと……』
私とエスメラルダ王妃、そしてクロエはパスキア王国最強と言われる騎士の1人、ブラッドリー・クリーンファルトに護衛をされて、王都近郊にある湖から王都へと引き返した。
そしてその日の夜、イーリスにまた呼ばれてクロエとマリンを連れて、ディナーをご馳走になった。用意された食事はまたとんでもないご馳走で、イーリスのスーパー専属料理人ディディエ・ボナペティーノが作ってくれた。
食事に呼ばれた私達は、凄く満足して自分の部屋へと戻った。
自分に宛がわれた部屋に戻ると、マントを外していきなりベッドにダイブ。枕に顔を擦り付けていると、直ぐにドアを誰かがノックした。
コンコンッ
「はい、どうぞ」
ギイ……
ドアが開く。そこに立っていたのは、クロエとマリンだった。
「あれ? どうしたの? もしかして、今日は一緒に寝たいとか?」
冗談でそう言ったんだけど、2人は申し訳なさそうに頷いた。本当に一緒に寝ようと思って、ここへ来てくれたんだ。私は2人に向かって微笑む。
「あははは、冗談で言ったつもりだったんだけど、本当だったんだ」
クロエはちょっと俯いていて、マリンは悲しい顔をした。
「駄目なのかい?」
「ううん、駄目な訳ないでしょ。ほら、入って」
「やったー。それじゃ、お邪魔しまーーす」
「お、お邪魔します」
ずずいと部屋に入ってくる2人。その手には、もう枕と毛布を持っていた。
マリンは部屋に入るなり、私のベッドにダイブする。
「こらー! もう、そんな勢いでダイブしたら駄目でしょ!!」
注意をすると、マリンは口をとんがらせた。
「えーー。ここは宿屋じゃないよ。王宮だから物凄くしっかりした造りになっているし、ちょっとやそっとじゃ振動も伝わらないし、喋り声だって誰かに聞こえないよ」
「で、でも、行儀が悪いでしょーが!」
「そんな事言って、アテナもベッドにダイブしたんじゃないのかな? こんなフワフワの高級ベッドを目の前にして、しない方がどうかしているよね? ね?」
なに、うっとうしい。私の顔を覗き込んでくるマリンを、片手で押しのけると彼女は「ああーーん」っと言って、ベッドに力なく倒れ込んだ。そしてそのまま、毛布を被ってくるまりミノムシになった。
私は溜息を吐くと、入ってきたドアの前でまだ、じーーっと立っているクロエの手を掴んで引き入れた。
「何しているの、クロエ? さあ、こっちへいらっしゃい」
「え? あ、はい」
一緒にベッドに腰をかける。その後ろでは、ミノムシ状態のマリンが早くも寝息を立て始めた。な、なんて早いの!? これ、私の部屋にやってくる意味あったのかな。そう思ったけれど、それについてあれこれ考えると負けた気になるのでスルーする事にした。
私は隣に座っているクロエの手の上に、自分の手を添えた。こうすると、クロエは安心するみたいだから。
「あの……」
「ん?」
「湖での事ですけど、アテナさんは……王妃様と何を話されたのですか?」
「え? それ聞きたい?」
「え、ええ。それでもアテナさんが話したくないと言うのであれば……それは……」
「あははは、そんな大層なものじゃないよ! 実はね、エスメラルダ王妃がね、こう言ったんだけど――」
私はクロエに、湖でエスメラルダ王妃との会話を話した。大層なものじゃないって言ったけど、クロエは驚いていた。
まあ、そりゃそうか。エスメラルダ王妃は、あれだけ縁談縁談って言っていたのに、急に相手側の態度に腹を立てて、それを取りやめてもいいって言いだしたんだから。
しかも、一発やり返して帰る気。あの人らしいと言えばあの人らしいけど……ちょっと引っかかる。彼女にしては、何か物足りないような気もする。だって、あの王妃だもん!
まあ突如現れた対抗馬を蹴散らしてからっていうのは、彼女らしいやり方だとも思えるけれど。
「アテナはそれでいいのですか?」
「そうね。カミュウ王子はとても優しくて、素敵な人だと思う。だけどやっぱり私は、今は結婚できない。なのに私は、カミュウと結婚したいって人達に勝って、その上でカミュウから去ろうとしている。これって、酷いよね」
ブンブンと顔を横に振ってくれるクロエ。
「アテナさんがそれでいいのかどうか、わたしはそれだけが大切だと思います。カミュウ王子は、可哀そうだと思いますが……諦めてもらう為には、その方が一番かもしれません」
「あはは……そうね。しかもカミュウ王子が可哀そうって、カミュウは私の事をなんとも思ってないかもしれないしね。そしたら私は、物凄くうぬぼれていたというだけだし」
「そんな……うぬぼれるだなんて、アテナさんは素敵な人だと思います。もちろん、カミュウ王子もですけど……でも、2人は結ばれないのですね」
「うーーん、とりあえず今は……って所かな。こんな言い方するから、きっと良くないんだよね。でも本当に私は今は、旅する事に冒険する事、そして大好きなキャンプする事に夢中だから」
「食べる事もですよね」
にっこりと笑うクロエ。私は、思い切り彼女に抱き着いた。
「こらーー!! クロエ、あなたまで私が食いしん坊って言いたいのね!!」
「きゃあああ!」
「それは認めるけど、真の食いしん坊大魔王は、ルシエルとそこでミノムシみたいに転がっている水色の魔法使いなんだからね!」
「あははは、くすぐったいです! アテナさん!!」
クロエをちょっとだけくすぐって、こらしめる。そして彼女の身体を抱きしめると、優しく頭を撫でた。




