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第1046話 『エスメラルダとアテナ その5』



 エスメラルダ王妃の考え――つまりそれは、あの不届き者と呼んでいた……ガスプーチンっていう胡散臭い宮廷魔導士。そして彼が、対抗馬として出してきたあの3人……だけではなく、彼女に恥をかかせる結果を招いた、フィリップ王とメアリー王妃も含める者達に対して、なんらかの制裁を行いたいの事だった。言い換えるなら、復讐とか言うのかな。



「わたくしは、この政略結婚を兼ねてより進めてきました。それはフィリップ王や、メアリー王妃もご存じのはず。そしてその時がやっと訪れて、わざわざこの国までやってきました。なのにこの扱い……決して許されるものではありません」



 確かにそれは……そうかもしれない。フィリップ王やメアリー王妃には、あまり悪意というか……こうドス黒いような雰囲気は少なくとも私には感じられなかった。だけど同時に、足りないものがあるような気がした。


 きっとこういう気配りというか……なんというか……一言でいうと、あさはかさ?


 私が言うのもなんだけど、私はフィリップ王の息子カミュウとの縁談でやってきた。ドワーフの国での私の事は、既にフィリップ王達の耳にも入っていて、私は王宮に到着するなり、直ぐにその腕前をみたいとパスキア四将軍の1人であるロゴー・ハーオンと腕比べをさせられた。まあ、模擬戦闘ともいうけれど……


 考えてみれば、他国の王女にいきなりそういうのは、ないかもしれない。しかも息子のお嫁さんになるかもしれない他国の王女を相手にね。


 フィリップ王もメアリー王も、あのロゴー・ハーオンとの手合わせは心から楽しんでいるようだった。だから私は心の何処かでは、ありえないと思いながらも本来は王女なのに冒険者として活動をしているのも事実だし、この王様達はあまりこういう事を気にしないのだと思ってひとり納得していた。


 だけどエスメラルダ王妃は、このフィリップ王やガスプーチンの対応に対して、とても怒っている。



「わたくしは、もとヴァレスティナ公国の公爵令嬢であり、クラインベルト王国の王妃でもあります。ですがこの国の者達は愚かにも、わたくしの事を、この政略結婚の為にペコペコとへりくだってやってきている腰の低い、どこぞの王妃と勘違いしているようです」


「い、いや……そこまでは、フィリップ王もメアリー王妃も考えていないと思うけど……」


「同じ事でしょう! 縁談の話は、もっと以前から進めていました。なのにここでいきなり対抗馬を出してくるなんて!! 正気の沙汰とは思えませんし、こんなに馬鹿にされたのは、わたくしは生まれて初めてです! ですから、どうにかギャフンと言わせてやりたいのです!」


「ぎゃ、ぎゃふんとって……ど、どうやって?」


「アテナ、あなたは結婚をしたくない。ならば、それでいいです。だけどあの対抗馬に出してきた3人には勝ちなさい。勝ってカミュウ王子の心を射止めなさい。そこで向こうがあなたにプロポーズをしてきた所で、断って恥をかかせてやればいいのです」



 えええーー、そ、そんなこと……



「で、でもカミュウ王子は、いい人ですよ」


「関係ありません。それともあなたは、カミュウ王子と結婚をするつもりなのですか? これであなたは、願ったりだと思っていましたが」



 確かに願ったり叶ったり……だけど、カミュウ王子は傷つけたくない……っていうのは、自惚れだよね。だってカミュウ王子がこんな私の事を、真剣に好きになってくれるなんてことも、ありえないかもだし……それに私よりも素敵な女の子は、山のようにいる訳だし。


 例えばガンロック王国の第二王女、エレファなんてとても綺麗で穏やかで優しくて……男の人の多くは、きっとああいう女の子が好みだと思う……


 私はこの通り、男勝りなところがあるし……か弱くて、つい守ってあげたくなっちゃうって感じじゃないから。まあ、それを言うなら可愛い女の子にしか見えないカミュウもそうだけど。



「解りましたね、アテナ。あなたの結婚したくないという気持ちは、尊重する事に決めました。ですがわたくしは、どうしてもこの国に一矢報いたいという気持ちでいっぱいなのです」



 要は、酷い扱いを受けたから、その相手に一泡吹かせたてやりたいって事かな。でもフィリップ王も特別悪意はないようだけど、確かにエスメラルダ王妃に対しての扱いは良くないようには見えた。


 うん、そうだね。私やクロエに対しても、一番気を遣ってくれて、もてなしてくれているのって、一番年下の王女様のイーリスだもんね。確かに気持ちは解る……



「じゃ、じゃあカミュウ王子は兎も角、あの私の対抗馬として登場した3人をギャフンと言わせればいいのね」



 頷くエスメラルダ王妃。



「そうです。あなたはどうせ、カミュウ王子と結婚する気がないようですし……あの3人を諦めさせれば、あなたしかいなくなります。そこでこちらから、縁談を叩き返します。そうすれば少しは、わたくしの気も晴れます」


「結果としては、それで自由にまた旅に出られるんなら望む所だけど……でもどうやって?」



 そう聞くと、あれだけ怒っていたエスメラルダ王妃は不敵に笑った。そして扇を勢いよく振って言った。



「それぞれのもとへ行って、縁談相手に相応しいかどうかを勝負をなさい。負けたらカミュウ王子を諦めると言って!」



 うそ、かなりのパワー押しなんだけど。



「ええ!? そんな……かなり強引じゃない?」


「いいのです。あの3人は、いってもパスキア王国の者達です。なら尚更、文句は言い返せないはず。一番最初に、この国にやってきてあなたにロゴー・ハーオンという男と腕比べさせたのは、他でもないフィリップ王ですからね。今度はこちらから、申し出るだけのことです。わたくし達に無理強いをしておいて、まさか自分達は断れないでしょう。もしもこれが、外交問題になるのだとすれば、そもそも最初に仕掛けてきたパスキア王国の方が問題となりますからね」



 まいった。馬鹿にされてのがよっぽど悔しかったのか、すっかり戦闘モードに突入しちゃっている。エスメラルダ王妃は、もうこの手で行くみたいだし……今更なんといっても引かないだろう。


 ええい、どうにでもなれ!! だけど心の奥底では、これで冒険者として戻れるという喜びと、本当にこれでいいのだろうかという気持ちが混ざりあって変な感じになってしまっている。


 でも確かに自信満々で登場してきたあの3人と、あの3人を私達にけしかけてきた張本人のガスプーチンを、それこそギャフンと言わせてやれるとすれば、ちょっと面白いかもしれないって思ってしまう自分の浅ましい気持ちも否定できない。


 ふう、なんだかなー。でもそう考えると、私も心の何処か底では、エスメラルダ王妃と同じくフィリップ王達の、あの態度と対応に腹が立っていたのかもしれないなー。


 こんなの師匠に知れたらきっと、「下らない」って鼻で笑われるだろうなー。

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