表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1042/1342

第1042話 『エスメラルダとアテナ その1』



 穏やかな日差しと、気持ちのいいそよ風。私とクロエは、2人の話が終わるまで湖の畔で横になっていた。うつらうつら……



「アテナさん……」


「うん? なに?」


「美味しいものを食べて、こんな気持ちのいい場所で横になって……とても幸せです」


「私も美味しいものでお腹を満たされた上に、こんな可愛い美少女と一緒に気持ちのいい場所で転がれて幸せかな」



 クロエの笑顔。ブレッドの街を出た辺りは、つらい事もあってかまだそれほど笑顔を見せてくれなかった彼女だけど、今はよく笑う。これもカルビやルキアのお陰かな。ノエルもそうかもしれない。


 私がクロエやルキアの事を実の妹のように思ているように、なんとなく見ているとノエルもクロエの事を、自分の妹のように接しているような気もしたから。


 いつもは私も、ルシエルと何でもない下らない言い合いをしたり、ルキアと楽しい会話をしたり……なのに今日は朝から、私の天敵でもあるエスメラルダ王妃と一緒にいる。


 だからかもしれないけれど、私も今日はなんだかいつもと調子が違う。クロエは、そんな私の感じに気付いているかもしれない。色々と、エスメラルダ王妃の事を聞いてきた。



「あの……」


「うん? なーに?」


「王妃様は、お優しい方ですね」



 びっくりして、起き上がる私。



「えええ!! 何処が⁉」


「わたしの手を引いて、ここまで連れてきてくれました。カフェでは、王妃様が口にされていたケーキがとても美味しいからって、分けてくれました」


「ううーーん、それは私も驚いたけどね。彼女がそういう事をするって人だって、思ってもいなかったから。現に、クロエにだって最初、きつく当たっていたでしょ?」



 にっこりと笑うクロエ。



「なーに、その顔?」


「あはは、ごめんなさい。アテナさん、王女様だし冒険者としても、とても凄い人だし……とても優しくて、慈愛に満ちていて、実際まだ見た事はないけれど、絶対美人だし……」


「やめてやめてー! それ以上、褒めないで!! どうにかなっちゃうから!!」


「あはは、そう……そしてとても面白くて楽しい人。アテナさんに会って、こんな完璧な人がいるんだって、わたし驚きました」


「それはないし、褒めすぎだよー。私は欠点だらけだよ。モニカにも師匠にも、いつもそう言われていたし。だけどとてもユニークなんだって、それだけは褒められたかな。えへへ」


「師匠っていうのは、あの伝説の冒険者様ですよね。ヘリオス・フリート様。そして、モニカ様……」


「モニカは、私のお姉ちゃん。彼女もエスメラルダ王妃やエドモンテとはぜんぜんそりが合わなくて、今はお父様を説得して、クラインベルトの北方にいるの」


「北方にですか……なぜそんなところに?」


「ドルガンド帝国が攻めてこないように……じゃないかな。攻めてきてもいいように……かな。モニカはね、私よりも遥かに強くて、頭も良くてね。でもお城で綺麗なドレスとか着て、何処かの王子様とダンスを踊るなんていうのは、とても苦手な人だったから。それもあってね」


「お姉さんというだけあって、アテナさんに似ていますね」


「え、そう? 似てるかな。あははは」



 クロエの唐突な言葉に驚いて、思わず起き上がってしまったけど――また、クロエの隣に寝っ転がった。



「……王妃様は、まだブラッドリー様とお話をされているのですか?」


「うーん、しているねー。しかも楽し気に」


「楽し気にですか」


「うん。あんなエスメラルダ王妃の顔、今まで見た事がないかも」


「あの……一つ聞いてもいいですか?」


「いいよ。一つと言わずにいくつでも、どうぞ」



 クロエは両目とも見えないけれど、私が笑顔でそう言っている事は伝わっている。



「じゃあ……あの、王妃様はアテナさんのお母さんですよね」


「……うーーん。そうだね。そういう事になるね。血は繋がっていないけどね」


「で、でもわたしにとっては、アテナさんは本当のお姉さんみたいだし……ルキアもそう思っているって……」



 私は、アハハと笑って隣で横になっているクロエの頭を優しく撫でた。



「そうだった。血はそんなに関係ないかもね、フフ。大事なのは心と心だよね」


「でもアテナさんと、王妃様はとてもよそよそしいというか、ピリピリした感じで……2人ともとても優しい人なのに、どうしてなのかわたしには解らなくて……」


「うーーん、それは難しいね。なんて答えればいいかな。お互いに意地っ張りだから……っとかかなー」



 私はティアナ……本当のお母様の事が大好きだった。今でも愛している。だからこそ、そのお母様の居場所に、ある日突然入ってきたエスメラルダ王妃の存在が気に喰わないのかもしれない。


 エスメラルダ王妃だってそう。私やモニカがそう思っている事は、露骨に伝わっているだろうし、彼女も政略結婚でクラインベルトにはやってきた。しかもお父様もエスメラルダ王妃にも、お互いに既に子供はいる身だったし、この再婚に関しては互いに恋愛感情はなく、両国の平和と繁栄。それしかなかったから。


 クラインベルト王国と、大国と言われるヴァレスティナ公国。この2つが結び付けば、今も冷戦の続いているドルガンド帝国との関係も有利になるし……


 私は、クロエの方を向いた。クロエは、目が見えないはずなのに、私の目を見つめている。


 ふう……クロエはもう私の大事な仲間だし、ルキアと同じく妹のように思っている。そしてルシエルやノエル、マリン、カルビと同じく身内でもある。だから、クロエが気になっているのなら、話さなくちゃならないかと思った。


 そう、私とエスメラルダ王妃との関係を――――

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ