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第1041話 『エスメラルダとブラッドリー その2』



「わたくしは、この人と少しお話があります」


「お、お話がありますって、そんなの急に言っても……って、え⁉」


「そういう訳ですから、アテナ。あなたもクロエと共に、サンドイッチを頂きなさい」



 エスメラルダ王妃は、そう言ってブラッドリーさんと共に湖の畔へと歩いていった。そしてそこで2人して座り込むと、サンドイッチを食べ始め、何か会話をし始めた。その和やかな2人の光景に暫く目を奪われていると、私を呼ぶ可愛い声が聞こえてきた。



「ア、アテナさん……」


「え? ああ、クロエ。なーに?」


「大丈夫ですか?」


「うん、大丈夫! 元気いっぱいだよ、イエイ!!」


「それならいいですけど……」


「フフフ、大丈夫。ただ……エスメラルダ王妃がね。私の知っているいつもの彼女じゃないから、ちょっと……っというかずっと驚いちゃってて。それで同様しちゃっているってゆーか……ごめんね。それじゃ、私達もブラッドリーさんから頂いた、このとても美味しそうなサンドイッチを食べようか」


「ええ、そうですね」



 クロエと手を握り、私達も湖の畔へ近づく。エスメラルダ王妃の邪魔をしてもアレかなと思って、わざと少し距離の離れた場所を選ぶ。


 2人が話している内容は、ここからじゃとても聞こえない。椅子代わりにできる、手頃な石にクロエと共に腰かける。


 いったい何を話しているんだろう。気になるー、めっちゃ気になる!


 え⁉ エスメラルダ王妃が、少し微笑んでいる。嘘でしょ!! 私やモニカに対しては、いつも鬼のような形相で睨みつけてくるのに……お父様にだって、小言の連続攻撃を繰り出す毎日だし……な、ななな、なんなの、あの表情は……


 理解できないでいると、クロエが私の手に触れた。



「あっ! ごめんごめん。そうね。それじゃ、サンドイッチを頂いてみましょうか」


「は、はい」



 包み紙を開くと、とんでもなく美味しそうな、ボリューミーなサンドイッチが顔を見せた。なんだろう。間に挟まっている肉も、とても厚みがあって美味しそう。


 サンドイッチはサンドイッチなんだけど、なんていうか別の物にあえて表現するなら、ハンバーガーに近いような気がした。


 クロエの分も、包み紙をめくって彼女に手渡す。あまりのボリュームに、クロエが驚く。



「こ、これ、凄い量がありますね。ずっしりと重みがあります」


「しかも、とても美味しそう。さあ、食べてみようか」


「はい」


「それじゃ――」


『頂きまーーす』



 クロエと2人して、ブラッドリーさんの方へ向き直ると両手を合わせて、一緒にそう言った。そして具沢山のサンドイッチに同時に被り付く。



 ガブリッ!


「もっぐもっぐもっぐ……美味しいいいい!! 何これ、凄い美味しい!! 肉はやっぱり鶏だと思ったけれど、これ違うね。ポークだ!!」


「モッムモッムモッム……美味しいです。本当にこれ、美味しいですね。お肉は確かにこれはポークですね。そしてトマト、レタス、キュウリ、チーズまで挟んでいます。ソースもマスタードやマヨネーズの他に、何か使用していますね」


「ほほう、クロエもなかなか味の解る子だね」


「あ、ありがとうございます」


「いい子いい子。クロエはちょーーっと痩せすぎだからね。しっかと美味しいものを食べなさい。女の子は、もう少しぽっちゃりしていた方が、モテるんだよ」


「そ、そうなんですか?」



 え? そうなんですかと聞かれると解らない。昔、王宮でモッチャモッチャと食事をしていた私に、セシリアがそう言って教えてくれたような記憶があった。それをクロエに言ったのだ。






「モッチャモッチャモッチャ……うんめーーー!」


「アテナ様、一国の王女様がそんなお言葉使いをされては、皆様驚かれますよ。こういう場合は、美味しいとおっしゃられた方が……」


「美味しい!! めちゃウマ!! でも、この料理は、セシリアが作ってくれた料理なんでしょ? 本当に美味しいものを食べるとさ、言葉使いがどうとか考えるより先に、魂の叫びが沸き上がってきちゃうんだよね!! フフン」


「た、魂の叫びですか⁉」


「うん、魂の叫び。魂ってなんか聞くと、凄く可愛い感じがするよね」


「た、たまし……そ、そう言われてみれば、そうかもしれませんね」






 

 フフフフ、セシリアは私が小さい時から王宮に仕えてくれたメイドさん。歳は私とそう違わないのに、私なんかより凄くしっかりしていた。そして黒くて長い艶やかな髪は、とても綺麗でいつも眼鏡をかけていたっけ。


 今はテトラと一緒にいるみたいだけど、どうしているかな? ローザにも会いたいし、セシリアにも会いたいなー。サンドイッチ食べて、彼女たちの事を思い出すって、かなりおかしいかな。あははは、でも大事なセシリアとの思い出……


 私とクロエは、ブラッドリーさんからもらった、とても美味しくてボリューミーなサンドイッチをなんとか食べきった。


 クロエが重さがあるような事を言っていたけど、よくこの量を彼女が食べきる事ができたなと思う。でも彼女はかなり痩せているので、こういう栄養満点でいいものはしっかり食べた方がいいよね。健康的な身体は、食べ物と日々の生活から出来上がるものだから。


 チラリとクロエに目をやると、お腹がポッコリと出ていた。



「あーー、クロエ!! お腹が出ているよ!!」


「え? ええ!? だって、だって凄い量でしたから」


「ちょーっと、お腹触らせてーー」


「きゃああ!! アテナさん、駄目です!! お腹をそんなに押したら、出ちゃいます!!」


「撫でるだけだから、撫でるだけだから。クロエのお腹、可愛い。それに柔らかーい」


「や、やめてください」


「ええーー。撫でてるだけなのにー」



 そのまま湖の畔でゴロンと倒れるように横になった。更にクロエの手を掴んで引くと、一緒に並んで転がった。



「アテナさん……?」


「こんな言葉を知ってる? 親が死んでも食休み……ちょっと私も食べ過ぎちゃったかも。だから転がって、休憩しよう」


「え? はい」



 青い空に、流れる雲。ゆるりと流れる時間と、肌をくすぐるそよ風。うっかり気を許すと、このまま湖の畔で眠ってしまいそう。ここでキャンプしたいなーって脳裏に浮かぶ。


 またチラリとエスメラルダ王妃の方に目をやる。2人もサンドイッチを手に、何やら楽し気に話も弾んでいるように見えた。

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