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第1040話 『エスメラルダとブラッドリー その1』



 ブラッドリー・クリーンファルトは、警護として私達についてくると言った。だけど不思議な事にエスメラルダ王妃は、その事で一切困っている様子はなく、警護を許してしまった。


 縁談の話、できなくなっちゃう……そう思っていると、エスメラルダ王妃は言った。



「あなたの心配しているような事は、何も起きません。ブラッドリー・クリーンファルト。この人は、最も信頼のおける騎士であり、紳士です。私達の警護をすると言った以上、警護に徹してくれるでしょう。また、わたくし達の会話を聞いてしまったからといって、それを誰か他の者にペラペラと話す人でもありません」


「なぜ、そう言い切れるんですか?」



 私の質問に、エスメラルダ王妃はプイっと顔を反らした。



「それをあなたに説明する必要はありません。クロエ、来なさい。さあ、湖は目と鼻の先です。行きますよ」



 ムッキーー! な、なんなのよ!! どうしてそう言い切れるの?


 確かにブラッドリーさん、彼は騎士であると同時に紳士に見える。そして私も剣士だから、なんとなく通じるものがあれば感じる事ができるんだけど、彼はきっと騎士道精神などを重要視するタイプ。だからなのかもしれない。エスメラルダ王妃も、彼のそういう所を見抜いている……


 彼女だって、だてに一国の王妃をやっている訳ではないだろうし、そういう人を見抜く力は、エスメラルダ王妃にも備わっているのかもしれない。


 でも引っかかるんだよね。それだけじゃない気もすると、私の頭の中で小さな私がそう告げている。



「って、ちょっと皆!! 私を置いて先に行かないでよーーー!!」



 私を置いて先に行く、エスメラルダ王妃とブラッドリーさん。そしてまあ、エスメラルダ王妃と手を繋いでいるからだけど、クロエまで……くすん……置いて行かないでって言っているのにー。

 

 湖に到着。


 クラインベルト王国のラスラ湖や、ノクタームエルドの地底湖などよりは、かなり小さく感じる湖。だけど湖をぐるっと一周囲んでいる木々が、水面を緩やかに波打つ湖と一体の景色となっていて美しい。


 それに生えている木だけど、この辺りはブナの木と白樺が多いみたい。


 うんうん、いいねー、いいよねー。白樺の木の皮は、油分が多くて特にいい燃料になるんだよね。あとでキャンプの為のアイテムとして、少し採って帰ろうかな。フフフ。



「美しい湖ですね。パスキア王国は、クラインベルトと気候や地形がよく似ていますが、こんな美しい場所があるのも同じなのですね」

 


 エスメラルダ王妃。いつも私が見ている彼女は、もっとトゲトゲしていて口を開けば嫌味ばかりをいうイメージだった。少なくとも王宮ではいつもそう。


 だから、王宮などいつも煌びやかな場所にいる彼女が、こんな穏やかな顔をして、こんな緑あふれる中で佇んでいるのが不思議でならなかった。どちらが本当の彼女なのかと、ふと考える。


 ブラッドリーさんは、近くに生えているブナの木に、連れてきた馬の手綱を巻き付けた。そして馬に乗せている荷物をゴソゴソと漁ると、何か大きな包み紙を取り出してこちらへ持ってきた。



「我が国の、美しい湖を眺める他国の王妃様。それだけでも、絵になるような美しさがある」



 え⁉ うそん!! ブラッドリーさんって、こんなセリフを言う人なの!?


 唐突な……完全に意表を突かれたセリフに、私は思わずに跳び上がりそうになった。そしてそんなセリフを言われて、少し頬を赤くしているエスメラルダ王妃を見て、驚きのあまりに叫びそうになって慌てて両手で口を抑える。


 嘘でしょ!? あのエスメラルダ王妃が……こんな可愛らしい顔をするなんて、信じられない。お父様にだって、きっと一度も見せた事がないんじゃ……


 ブラッドリーさんは、近くにあった平たい石の上に包み紙を置くとそれを開いた。中からは、とても美味しそうなサンドイッチが姿を現した。それを目にして、誰よりも早く声をあげてしまった私。



「わあ!! サンドイッチ!! 美味しそう!!」



 うっ……エスメラルダ王妃の冷たい視線に加え、ブラッドリーさんには笑われる。恥ずかしい。ルシエルやマリンがいると、私がしっかりしないとってなるんだけど、やっぱりクロエだけじゃどうしても、食いしん坊キャラに戻ってしまう。


 でもしょうがないよね。ブラッドリーさんが出したサンドイッチは、それだけ美味しそうだった。シャキシャキしたレタスに、瑞々しいトマト。きっとキュウリも入っているんだろうな。そして真ん中に挟まっているのは、鶏か豚か何かの肉。うわーー、美味しそう!! 



「なんですか、一国の王女ともあろう者がはしたない。クロエを御覧なさい。この子は、サンドイッチを目の前にしても、まったく動じる気配はありませんよ」



 い、いや。それは、ただ単に見えていないから……


 ブラッドリーさんは、見るからに美味しそうでボリューミーなサンドイッチを、エスメラルダ王妃、私、クロエと順番に手渡してくれた。



「折角ですからな。こういう場所で、安らぎを求めるなら、湖を眺めながらに食事をするのもいい。さあ、遠慮しないで召し上がってください。このサンドイッチは、王都でも人気があって、美味しいと評判の店のものです。当然私の好物である事は、もう言わなくてもいい事ですな、フフ」



 ブラッドリーさんは、そう言って笑った。彼の口にする冗談は、いつも品があって好きになれた。



「丁度、食事をしたいと思っていました。私達は今日起きてから、ケーキと飲み物しか口にしていませんでしたから」


「ほう、ケーキは口にされたのですね」


「駄目ですか?」


「いや、駄目という事はありません。ですが朝食は、一日のスタート。ちゃんとしたものを召し上がられた方がいい」


「そうですね、確かにあなたの言う通りです。肝に銘じておきます。兎に角、感謝します。そしてブラッドリー・クリーンファルト。折角、あなたもここへ来たのです。少し、わたくしと話をしませんか?」


「ええ、クラインベルト王国の王妃様から改まってそのように言われれば、断れるはずもない。喜んで」



 え? ええ!? ちょっと、待って! ここに来た目的って、縁談の話で……ライバル出現したけどどうするって話だよね。なのにブラッドリーさんと会話をするという、エスメラルダ王妃。


 い、いったいどうしちゃったんだろう……


 パスキア王国に来てからというもの、私よりもエスメラルダ王妃の方がいつもとは違う感じになっている。その事に私は、ひたすら困惑を隠せないでいた。

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