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第104話 『恩賞 その2』





 私は訓練室にいた。


 ルーニ様、救出の為のテストとして最初に呼び出された場所。


 そこにゲラルド様と二人で向き合っている。額から冷や汗がだらだらと流れてくるのが解った。正直、このまま気を失ってしまって、運命に成り行きを任せる事ができれば、どれほど楽だろうか。でも、ゲラルド様相手にそれは、きっと通用しない。



「テトラ・ナインテール。貴様の武器は、槍であったな。ならば、槍を構えろ」


「ええ? ででで……ですが……?」


「二度言わすな! いいな! いいから構えろっ!!」



 ――――怒号。ゲラルド様の容赦ない重圧に、恐る恐る槍を構える。槍を持つ手が震えている。ゲラルド様は、私が槍を向けて構えた事を確認すると、剣を抜いた。その剣は、物凄く立派で息を呑む程の輝きを放っていた。



「『斬鉄(ざんてつ)』という剣だ。むしろ、剣というよりは太刀という方が正しいが」



 ゲラルド様は、いったいなぜこのような事を…………やはり知らなかったとはいえルーニ様の誘拐に手を貸してしまった事。ゲラルド様はそれに対して、私を処罰するお考えなのかもしれない。


 …………でも、死にたくはない。私は死にたくはない。セシリアやマリンとも出会った。陛下やルーニ様のご期待にも沿える事ができた。私は、これからも生きて生きて生きていたい。



「では、私に打ち込んで来い。出来なければ死。また失禁して泣き叫んで醜態を晒しても死だ。ならば、選ぶのは至極簡単だろう?」



 私は、槍の穂先をゲラルド様に向けた。確かにゲラルド様の仰る通り。生き続けたいと思う私は、槍を手に取り戦ってでも生き抜く。心の底で、そう何度も強く念じると、4本のうち、尻尾が2本光り輝きはじめた。


 今までとは違う、更に上の段階にいくような強さが、身体の奥底から込み上げてくるのを感じた。これならゲラルド様だって打ち勝てるかもしれない!! 叫ぶ!!



「やあああああ!!!!」



 ゲラルド様に狙いを定め、槍が一点を目がけて迸る。



 ギイィィン!!



 2本の尻尾の力を使用しての、渾身の一撃。だがゲラルド様には通用しない。そんな……信じられない……ザンテツで軽く弾かれてしまった。



「ほう、やるな小娘。ルーニ様を救出に出た旅で、少しは成長したようだな」


「いやああああああ!!」



 反撃する暇を与えてはいけない。ゲラルド様にその暇を与えたら、その攻撃を避けきる自信がない。


 私は槍を振り回し、何度も打ち込んだ。しかし全ての攻撃を『斬鉄(ざんてつ)』でいなされる。

 


「だいたい貴様の力は理解した。もう十分だ。そろそろ終わりにするか」



 ゲラルド様はそう言うと、一瞬にして私との間を詰めた。――――もうここしかない!!



「やああっ!!」



 ゲラルド様が上段から振り下ろすザンテツを、寸でのところでコマのように回転しながら避ける。遠心力も加えて槍の石突をゲラルド様の脇腹へ押し込んだ。



 ――方円撃!!



「……ほう」



 石突は当たったかのように思えた。当たったと思った刹那、それは残像でゲラルド様はすでに私の背後にいた。



「私相手によくここまで戦った。最後の技も見事だ。技のキレ、威力、速度、十分だ。しかし、私相手には少し足りなかったようだな。これで終わりだ」



 ザンテツが再度、振り下ろされる。避けきれない!


 私は、ゲラルド様の振り下ろされる『斬鉄(ざんてつ)』を防ごうと槍を掲げた。



 ザコンッ!!



 金属音とともに私の持つ槍は真っ二つになった。そこで、ゲラルド様の持つ『斬鉄(ざんてつ)』の刃先が私の喉元に当てられて勝負はついた。



「ま……まいりました」



 そう言うと、ゲラルド様は初めて私に対して少し鼻で笑った。『斬鉄(ざんてつ)』を鞘へ納める。


 そして訓練室内にある、いくつもの武器が収められている所で、大切に壁掛けされている立派な槍を一本掴んでこちらに放った。


 それを受け取ると、ゲラルド様は言った。



「よく、ルーニ様を救出し陛下の思いに応えてくれたな。正直、見直した。だからそれは、褒美だ。私からのな」


「あああ……ありがとうございます!! まさか、ゲラルド様からこんな良い物を頂けるなんて!!」



 目から涙が溢れえた。でもこれは、以前ゲラルド様の前で恐怖に顔を引きつらせてこぼれ出た涙ではなかった。ゲラルド様が私をお認めになってくださった。嬉しくて仕方がなくて流れ出た涙。



「『涯角槍(がいかくそう)』という一級品の槍だぞ。実際に成長したお前と刃を交わして解った事だが、貴様にはまだまだ伸びしろがあるようだ。だからもっと修行を積め。そうすればもっと強くなるだろう」


「私がもっと強くなる……」


「そう言う事だ。ごくろうだった。仲間が心配で見に来ているようだ。――用は済んだ。もういっていいぞ」



 振り向くと、そこにはセシリアとマリンが、扉の隙間から顔を出して心配そうにこちらを覗いていた。


 ゲラルド様の方を見ると頷かれたので、私はゲラルド様に深く頭を下げるとその場をあとにした。






 ――――着替えを用意すると、王宮内の大浴場に移動した。


 脱衣を終えると、セシリアとマリンと一緒にお風呂に入った。そこは王宮内のものであれば誰でも利用できる。私は、まず身体を洗ってそれから湯に入った。



「痛……いったい……」


「傷がまだ痛むのね。お風呂からあがったら、もう一度王宮内の【プリースト】を呼んで回復魔法をかけてもらえばいいわ」



 セシリアが心配して言った。でも、もう治療終えていた。ただ、少しまだ完治していないのか傷のあった箇所がお湯に触れると沁みる。身体のあちこちだけど、特にアーサーに貫かれた太ももは痛い。



「ありがとうございます。でも、もう大丈夫です。それはそうと、セシリアとマリンはこの後、どうするんですか?」


「どうするんですかとは? 陛下に恩賞を頂いた後に、どうするかってことかしら?」


「はい。そうです」


「そうね。私は、本来は国王陛下直轄の王宮メイドだから、ルーニ様救出という命を果たせた今、本来の使命に戻ると思うわ」


「マリンは?」


「そうだね。ボクは、恩賞とやらが王宮内にある、沢山の本ならいいなーって思っているよ。それを読むことができれば満足かな」


「それを読み終えたら、どうするんですか?」


「そしたらまたボクの知らない本を探しに旅に戻るかな」


「本ですか……」


「そう。マリンは、本ならなんでもいいの?」


「そうだね。あえて言えば、魔導書集めが本来の目的かな。だけどボクは本全般が大好きだから、普通の本だとしても、あればそれを読みたいという衝動にはかられるけどね」


「そうですか……」


「なに? テトラ。なんだか寂しそうね」


「……いえ。大丈夫です。でも、なんだかちょっと寂しいなって思って」

 


 セシリアは、本来の上級メイドの仕事に戻って陛下やルーニ様、エスメラルダ王妃やエドモンテ様の身の回りの仕事をする。マリンも折角出会えたのに、また本を求めて何処かへ旅立ってしまう。


 下級メイドの私は、これからいったいなにをすればいいんだろう……


 まるで、胸にぽっかりと大きな穴が空いたような感じがする。


 ルーニ様を助け出せた事は、とても嬉しかった。でも、矛盾しているかもだけどルーニ様を救出する為に旅をして、セシリアやマリン、アーサー、アンソンさんと知り合えたこと。酒場での乱闘、野宿……キャンプ…………そんな日々が少し懐かしく思えたりもした。


 …………


 …………寂しい。



「え? そんな、まさか?」



 唐突なセシリアの声。振り向くと、湯煙の中から誰か二人の人影が、こちらに近づいてきた。そのシルエットは、少女のように見える。


 その二人は、私達が入浴している風呂に一緒に入ると喋りかけてきた。



「一緒に入っていいかしら? ってもう、入っちゃったけどね。アハハハハ」



 そう言ってあどけなく笑う少女は、なんとルーニ様だった。その隣にいるのは、トゥターン砦でルーニ様と一緒に牢に囚われていた獣人の女の子。



「ルーニ様!!!!」



 私と、セシリアはすぐに風呂から飛び出ると、全裸のままその場で跪いた。







――――――――――――――――――――――――――――――――

〚下記備考欄〛


斬鉄(ざんてつ) 種別:武器

クラインベルト王国近衛兵隊長であり、王国最強と噂されるゲラルド・イーニッヒが持つ剣。その名前の通り、鉄をも斬る事ができる。もちろんそれができる技量が必要。


涯角槍(がいかくそう) 種別:武器

ゲラルドの所持する一級品の槍で、普段は訓練室に飾ってある。材質は鉄よりも丈夫な金属でできている。これまで、この槍が曲がったりへし折れたりした事を見た者はいない。一級品の武器なので、何か特性があるかもしれないが、テトラはゲラルドからそれを聞いておらず不明。

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ゲラルド意味分からんな、何やってんだろ?
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