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第1038話 『ブッシュリザード』



 パスキア王国――私達は、仲良く? 街道を少し逸れて、草原地帯へ。


 辺りの草は、それ程育ってはおらず、草原地帯というよりは芝生地帯みたいなエリアになっていた。でもこういう場所を、歩き慣れていないエスメラルダ王妃と、クロエは少しぎこちない歩き。


 ここは、もう王都の内側ではない。強固な壁にも守られていないし、警備や巡回をしている兵士もいない。早速、私達のニオイを嗅ぎつけて、狂暴な魔物が忍び寄ってきている事に気づく。


 私は周囲を確認する。まだ見えない。だけど確実に、何かが私達をつけねらっている。それをエスメラルダ王妃に伝えた。



「わたくし達をつけねらっている? それは何者ですか?」


「まだ姿を見た訳じゃないから解らない。だけど魔物だと思う」


「なぜ魔物だと解るのですか?」


「それは感とか雰囲気。あと、気配とかそういうのかな。あなたも王宮生活が長いんだから、例えば嘘をついている者と真実を言っている者と、見分けられたりする時があるでしょ。それと一緒」


「なるほど……それなら、なんとなく解りました。それで、わたくし達は安全なのですか?」


「心配なら、王都に引き返しますか?」


「…………」


 ザザザッ



 近くの草が動いた。やっぱり何かいる。気配は間違いじゃない。



「やっぱりいる! ここまで来たら、引き返さないで湖まで行っちゃった方がいいのかも。2人共、私についてきて」



 そう言って、2人がついてこれる位の速さで駆ける。すると2人もちゃんと私の後を追ってきた。クロエの手は、エスメラルダ王妃が握っている。


 少し先に、丁度いい大きさの岩があった。そこまで走っていくと、その上に飛び乗る。上から手を出して、2人を岩の上に引き上げた。今度は、エスメラルダ王妃だけでなくクロエも息があがっている。



「はあ、はあ、はあ……ここまでくれば、大丈夫ですね」



 首を振る私。



「2人共、絶対ここから降りないで。そして動かないでね!」


 ザザザザザ……



 草の中を何かが移動している。複数いる何か。


 蛇行しながら、私達がいる岩の方へ向かってきた。姿が見える。エスメラルダ王妃は、クロエの手を引くと彼女を抱きしめた。得体の知れない魔物を見た彼女の顔は、恐怖に引きつっている。だけど、クロエを抱きしめたのは、自分が助かりたくてとか恐ろしくてじゃない。そう、クロエを守る為に――


 エスメラルダ王妃にもエドモンテ、ルーニという2人の子供がいる。つまり母親な訳で、2人と歳も近いクロエを守ろうとするのは、母親であるなら理解のできる行動だった。


 でも私にとっては、エスメラルダ王妃が……あのエスメラルダ・ヴァレスティナがそんな行動にでるとは、夢にも思っていない事だった。



「なな、な、なんなのです!! あの怪物は何なのですか⁉」


「ブッシュリザード」


「ブ、ブッシュリザード!? ななな、なんなのですか!? なんなのですか、それは!! わたくし達を襲おうとしているのですか?」


「襲おうとしているわ」


「お、襲おうと……わたくし達を襲って食べようとし……」



 倒れそうになるエスメラルダ王妃を、今度はクロエが支えた。


 クロエと最初に出会った頃の事を思い出した。誰の目から見ても幼い少女で、小さくて身体もやせ細っていた。そして目も不自由。最初に出会った時、彼女はカルビと仲良くなって、常に頼っていた。今も、あの時と見た目は変わらない。なのに、エスメラルダ王妃が倒れないように支えている。この子は、あの頃からずっとずっと強くなり続けている。



「大丈夫。私が守ってみせる。でもこの岩からは、絶対に降りないで。そしてここから動かないこと。この魔物はブッシュリザードと言って、草原に生息する魔物なの。群れで行動して獲物を見つけると、襲い掛かかってくる。獲物っていうのは、同じく草原に生息する動物、もしくは魔物。あと、私達人間だったりするわね。動きも俊敏だから、腕に自信のある冒険者でも、1人で群れを相手にするのなれば一気に攻めかかられて食べられちゃう事もある」


「た、たた食べられる!? じゃ、じゃあ、あなた1人では、とても手に負えないのではありませんか⁉」


「大丈夫。私なら、なんとかできるから」



 エスメラルダ王妃とクロエの方を振り返って、にこりと笑うと私は岩から飛び降りた。


 着地すると、その音を拾って草の中を移動していたブッシュリザード達が、一斉に私に向かって突き進んでくる。



 キシャアアアア!!


 ザン!! ザクッ!!



 二刀流。愛用のツインブレイドを抜いて、茂みから次々と飛び出してくる大蜥蜴に刃を斬りつけた。蜥蜴たちは、悲鳴をあげて草原に散らばった。



「さあ、かかってらっしゃい!! 纏めて相手をしてあげる!!」



 口でそういいつつも、クロエ達がいる岩を背にする。こうすれば、クロエとエスメラルダ王妃を守りながら戦える上に、四方八方からの攻撃を阻止する事もできる。いくら一斉に飛び掛かられても、この程度の相手で正面からの攻撃なら全く問題はない。



 キシャアア!!



 再び襲い掛かってくる蜥蜴を剣で払い、突いて攻撃した。打ち上げて腹を斬り、首を突く。何匹か斬り倒した所で、ブッシュリザードは敵わぬと見て、一斉に逃げ出して四散した。



「はい、これに懲りたらもう襲わない!」


「アテナ! す、全て追い払ったのですか?」


「はい、追い払いました。仕方なく何匹かは、斬ったけど……それじゃ、岩から降りてください。さっき、その岩にあがった時に向こうに湖らしきものが見えたから、もう少しだと思うわ」


「わ、解りました。いいでしょう」



 岩は結構大きくて、高さがあった。今度はエスメラルダ王妃とクロエをそこから下へ降ろす手助けをする。全員、着地した所で向こうから馬蹄の響きが聞こえてきた。


 立派な黒い馬に跨る1人の騎士が、こちらに向かって駆けてきていた。


 騎士が身に着けている甲冑は、ドルガンド帝国の将軍ジーク・フリートと同じく漆黒だった。私は、明らかにこちらに目掛けて駆けてくる黒騎士に向かって剣を構えた。

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