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第1036話 『どことなくおかしい』



 エスメラルダ王妃とクロエと私。3人でカフェに入り、珈琲や紅茶などの飲み物とケーキを楽しむ。


 朝ご飯をまだ食べていなかったから、ケーキなんて……ってちょっと思っていたけれど、ぜんぜん美味しく食べれてしまった。んーんーんー、ケーキはいいよ。やっぱり、ケーキという食べ物は、物凄い食べ物なんだなと改めて思った。いや、スイーツ全般がそうなのかもしれない。


 そろそろ皆、食べ終わるかなと思った所で、エスメラルダ王妃がまた信じられない行動に出た。自分が注文したケーキ、クイーンズショコラ。その一部をフォークで綺麗に切り取ると、クロエのお皿に乗せたのだ。


 クロエは、目が見えない。だけど、エスメラルダ王妃が何かした事に気づく。



「え? あ、あの……」


「このケーキはなかなか美味しいですね。クロエ、あなたも味見してみなさい」


「え? 王妃様がケーキを!?」


「わたくしの食べかけが気に入りませんか?」


「い、いえ!! そ、そんな事ありません!! でも、王妃様がわたし如きに、このような事をして頂けるなんて夢にも思わなかったので!! お、恐れ多くて!!」


「そうですか。でも、何も恐れる必要はありませんよ。何もあなたを、とって喰おうとしている訳ではないのですから」



 クロエは慌ててエスメラルダ王妃にそう言うと、彼女がお皿に分けてくれたクイーンズショコラを食べた。



「どうですか? なかなか美味しいでしょう」


「美味しいです!! とても美味しいです、このケーキ!!」


「そうですか。なんなら、お代わりを注文しますか?」



 あれ? やっぱりそうだ。どういう訳か、エスメラルダ王妃のクロエに対しての接し方が、がらりと変わってしまった。目が見えないと知った辺りからだけど……


 それならきっと、この年端もいかない年齢で、目が見えないクロエに対して、同情をして優しく接してくれているのかも。理由はどうであれ、優しく接してくれているのならいいと思った。だけど……



「アテナ。クロエにもういくつかケーキを……」


「いいえ、十分です! そろそろカフェを出ますよ。エスメラルダ王妃は、私に大事な話があるんでしょ!」


「…………」


「アテナさん……」



 あれ? 当たり前の事を言っただけなのに、私の方がいつの間にか強い口調になっちゃっている。これまでエスメラルダ王妃とは、険悪だったからっていうのもあったけれど……これは私が悪い。クロエも気を遣ってくれている。



「えっと、ごめんなさい。ちょっと言い方がきつかったかも。でも朝ご飯を食べないで、こんなケーキなんか食べちゃっているし……まあ、ケーキは別に悪くないんだけども、お昼もまだだし……あと大事な話をしないといけないと思って……そういう理由で、王宮を抜け出してきたんですよね」


「ふう、確かにあなたのいう通りですね。解りました。だいぶ落ち着きましたし、楽になりました。それでは、何処か話のできる場所へ行きましょう」



 クロエが小声で私に囁いた。



「こ、このお店じゃ駄目なんですか?」


「うーーん、今このお店には、他にもお客さんが何人もいるもの」


「誰かに、話を聞かれているかもしれないという事ですか」


「そうだね。私達が出てくる時に、門番に知られた。ミネロッサ王女とメリッサ王女にも知られてしまったし」


「でも2人の王女様は、わたし達が王宮から出るのを手助けしてくれました」


「確かに助けてくれたね。でも何か思惑があったのかもしれないし、それは解らない」


「思惑ですか……」


「そう。私はクラインベルトの王女だし、今向かい合っている人は王妃様だしね。王宮から抜け出すのを助けておいて、誰かに後をつけされている事だって十分に考えられるし、相手は他国の王族なのだから、そうであったとしても普通の行動だと思う」


「つまり、このお店にいる人達の中に、わたし達を見ている者がいるかもしれないという事ですか」


「断言はできない。でも可能性は、否定できない。店内じゃなくて、外にいるかもしれないし、実はそんなのいないかもしれない。だから念には念を入れてって事かな」


「な、なるほど」



 クロエと話をしている間、エスメラルダ王妃は手持ちのハンドバックをゴソゴソと漁り、財布を取り出した。宝石が施された如何にも高価な財布。私の持っているお財布とは、大違い。だって冒険者をやっていると、そういう高価なお財布を持っていると、色々と面倒な事が起こるから。


 エスメラルダ王妃は、そのゴージャスな財布を私に差し出してきた。



「え? これは? もしかして、お小遣い!?」


「は? 何を戯けた事を言っているのですか? 寝惚けるのも大概になさい。アテナ、お店を出ますよ。代金は、ここから支払いなさい」


「あははは、だーよね。知ってたしー。はーい」



 これって私の分も、エスメラルダ王妃が出してくれるって事でいいんだよね。そう思って、私はちゃっかりと自分の分も含めて店員さんに代金を支払った。


 エスメラルダ王妃に財布を返すと、クロエと一緒に声を揃えて言った。



『ご馳走様でした』

 

「わたくしの為に入ったのですから、当然です。それじゃ、参りましょう」



 勝手に何処かへ向かおうとしている、エスメラルダ王妃の行く先を遮る。



「ちょっと待って。それで何処に行くか、決めているんですか? 先に決めておかないと……」



 また気持ちが悪くなられても困る。


 エスメラルダ王妃は、突然立ち止まり空を見上げた。



「王都は何処も人で溢れかえっていますし……これ程良い天気なのです。少し外に出てみるのも悪くはないでしょう」


「え? 外!? 外ってまさか」


「外です。アテナ、わたくしとクロエの警護をお願いしますよ」



 えええーーー!! それだったら、鎖鉄球騎士団のゾルバに言えばいいんじゃ……でもそうすると、目立つから駄目なのか。


 それにしても今日のエスメラルダ王妃は、行動も心の中もぜんぜん読めないと思った。ううん、なんとなくだけど、この国に来てから、どことなくおかしい。


 うーーん、こりゃ何かあるな。

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