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第1034話 『エスメラルダとクロエ その2』



 王都でも比較的、人通りの落ち着いたカフェ。私達はそこへ入った。


 窓際のテーブル席が空いていたので、そこへ座る。私の隣にクロエを座らせて、対面してエスメラルダ王妃が座った。


 エスメラルダ王妃と一緒にカフェに入るなんて、かなり変な気分。同時に、こんな日が来るなんてと驚いている自分がいるけれど、それは彼女も同じ。



「いらっしゃいませ。ご注文はお決まりですか?」


「私はアイスコーヒー。2人は?」


「わたくしは、紅茶にします。冷たい紅茶に、レモンを添えなさい」


「かしこまりました」


「クロエはどうしようか?」


「えっと……」



 私はメニューを手に取り、ドリンクメニューを順にクロエに向かって読み上げた。エスメラルダ王妃は、クロエを凄く厳しい顔で睨んだ。



「早く決めなさい!! クラインベルト王国の王妃を待たせるとは、何事ですか⁉」


「は、はい! ご、ご、ごめんなさい!! すぐに決めます!! あの……アイスオレでお願いします」


「かしこまりました。アイスコーヒー、アイスレモンティー、アイスオレ。各お一つずつでございますね」



 エスメラルダ王妃が口を挟む。



「ちょっといいかしら」


「はい、なんでしょうか」


「わたくしの注文したアイスレモンティーですが、茶葉は何処のものを使用しているのかしら」


「はい。茶葉は、カナディア王国産の厳選された茶葉を使用しております。レモンに関しましても、この豊かなパスキア王国の肥沃な大地で育て上げた一級品のものでございます」


「そう、カナディア王国産の厳選された茶葉に、この国の一級品のレモンですか。悪くはないですね」


「あ、ありがとうございます」



 店員さんの顔が引きつっている。でもちゃんとした、できる店員さんで良かった。店長さんかな。会話を聞いていたとしても、まさか王族とは思ってもいないと思うけれど……きっとエスメラルダ王妃の事を、貴族か何かとは思っているかもしれない。


 服装は兎も角、彼女が身に着けている装飾品は冒険者風に言って、お宝と呼ばれるレベルのものだから。


 オーダーを聞いた店員さんは一礼して、キッチンの方へと戻っていった。



「それで、話というのは?」



 ここで私はエスメラルダ王妃に、話したい事とはなんなのか聞いた。まあ、カミュウ王子との縁談の件についてである事は、間違いないだろうけど。


 もしかして、ガスプーチンと他から出てきた3人のお姫様。あれに腹を立てたから、もう帰国しましょうって話かもしれない。そうなったらいいなー。そしたこの件は、これでおしまい。閉幕。私は、再びルシエル達と合流してまた旅を続ける事ができる。次はどこに行こうかなー。


 エスメラルダ王妃は、私の質問に答えると思いきや、またクロエに目をやった。不愉快な目。



「このような下賤なものと、同じ席に着かなくてはならないなんて……なんたる屈辱……」



 クロエはそれを聞いて、俯いた。溜息をつく私。



「あのねー、これ以上私の仲間を侮辱したら、本当に怒るからね」


「解りました。ですが、この子はいったいどういうつもりなのですか。いくらあなたの仲間だといっても、あなたが一国の王女であるのは事実なのですよ。その王女が平民の娘と共に席につくだけではなく、まるでメイドのようにメニューを読んであげるなどありますか? これはこの娘の行動こそが、わたくしたち王族に対する侮辱です。違いますか、アテナ」


「違いますね、エスメラルダ王妃!」


「どう違うのですか! あなたは一国の王女なのですよ。王女に対して平民ごときが、何かをさせるなんて考えられない事なのです」


「あのね、クロエはね……」


「どうせ、字が読めないとかそういう事でしょ? それなら字を覚えなさい。平民ごときが王族にあまえるなんて、聞いた事もありせんよ。不愉快です」



 クロエに対して怒りをあらわにするエスメラルダ王妃。クロエはもう、これ以上ない位に深く俯いてしまって、顔をあげる事ができなかった。



「だから、話を聞いて!!」


「何をです?」


「クロエは、目が見えないの!! だから、メニューを読んであげたのよ!!」


「え? 目が……」



 明らかに驚いて、動揺するエスメラルダ王妃。クロエをじっと見つめる。俯いたままのクロエ。



「クロエといいましたね」


「は、はい」


「今の話は本当ですか。嘘をついてわたくしをたばかるなら、もはやあなたを許しませんよ」


「は、はい! そ、そうです」


「顔をあげて、こちらを向きなさい!!」


「ひ!!」


「ちょっと、クロエを虐めないで!! あなたこそ、許さないわよ!!」



 エスメラルダ王妃は、私の言葉を無視してじっとクロエの両目を見つめた。そこで注文したドリンクがテーブルに運ばれてきた。


 エスメラルダ王妃は、目の前に置かれたアイスレモンティーを一口飲むと、クロエに言った。



「どうやら目が不自由であるのは、本当のようですね。両目とも、全く見えないのですか?」


「は、はい王妃様。全く見えません」


「……そう。解りました。かなりの例外になりますが、仕方ありません。今後、あなたがわたくし達王族と同じテーブルに着くことを許しましょう」


「あ、ありがとうございます」


「あの礼儀知らずの天才魔導士の孫娘とは違って、礼儀もそれなりに心得ているようですしね。ですがこれは、あなたを哀れな娘と思ってですからね。妙な期待をしては、いけませんよ」


「は、はい! 王妃様!」



 うーーん、ここからもっとクロエに対して酷い事を言うと思っていたから、クロエを攻撃するならこっちだってやってやるわーいって身構えていたんだけど……ちょっと違う方にいったみたい。


 まあ折角王宮を抜け出してきて、エスメラルダ王妃とずっと険悪な言い合いをしているのも意味が解らないし、もう少し様子を見てみようと思った。


 それにしてもこのお店のアイスコーヒー、美味しいなー。こういう珈琲には、ケーキが合うんだけど……他の誰でもないエスメラルダ王妃が今、私の目の前にいるんだよね。


 流石にケーキを注文……は、できないかーーって残念に思っていると、何を思ったのかエスメラルダ王妃は、唐突にテーブルに添えられていたメニューに手を伸ばした。


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