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第1024話 『怖いもの知らず その2』



 ずっとマリンを視界にも入れなかったエスメラルダ王妃が、ついに彼女を睨みつけた。マリンは、そんな事など気にもせずに、幸せそうな顔で食事を夢中になって続けている。



「うまいうまい。これは端的に言って、超絶美味しいね」


「なんなのですか、この無礼者は!! エドモンテ、さっさと衛兵を呼んで、この娘を外へ追い出しなさい!」



 椅子から立ち上がろうとしたエドモンテを、また私は止める。



「待って! この子は私の友達よ! そんな事はしないで」


「この子が友達? 見てみなさい、この食べ方。汚い!」


「うんまいうんまい」



 汚いと言われても、今のマリンにとってはどうでもいい事。今は、このパスキア王宮のグルメを堪能する事に全神経を集中させている。エスメラルダ王妃は、とても不快な表情と態度で、手に持っていた扇をマリンに突き付けた。



「兎に角、この娘をこの部屋から放り出しなさい!!」


「だから待って! 話を聞いて!」


「話? なにをですか? この娘が、あなたの友人である事は既に聞きました。あなたは、本来あるべき王女としての務めを放り出して、冒険者などという下賤な者に自ら身を堕としましたね。だからこういう身の程知らずが、現れ付きまとうのですよ」


「そんな事を言っていいの?」


「はあ? なにを言っているのですか、あなたは?」



 エドモンテが間に入り、何か言おうとしたけれど私はそれを制した。マリンは、特にこちらの様子を気にする素振りもなく一心不乱に食べ続けている。



「ルーニが『闇夜の群狼』という巨大犯罪組織と、ドルガンド帝国の陰謀によって攫われた事件を覚えている? その時にセシリアやテトラと共に、ルーニを救いだしてくれたのが、ここにいるマリンなのよ」


「え!? この子がルーニを……」


「モッチャモッチャモッチャ……ごくん」



 ルーニは、お父様がエスメラルダ王妃と再婚し、生まれた娘。私を産んでくれたのは、前王妃のティアナだけど、父親は同じだから血は繋がっている事になる。そしてエスメラルダ王妃にとっても、エドモンテ同様に可愛い娘。その娘の危機を救ったのが、目の前でシャカリキにご飯を貪っている、水色のローブに身を包む銀髪の魔法使いマリン。


 でもルーニを救い出した時に、お父様からマリンは、セシリアやテトラ同様に……例えば褒美を与えられるなどの形で、感謝をされているはず。なのに王妃が自分の可愛い娘を助け出してくれた者の名さえも覚えていないなんて……


 この事実は、エスメラルダ王妃にとっては、きっと重くのしかかる。



「このような薄汚い……食事の作法も知らないような娘が……ルーニを?」


「ずずずずず……はあ、美味しいな。このコーンポタージュも超絶美味いよ。察するにこのパスキア王国には、腕のいい料理人が沢山いるようだね」



 エスメラルダ王妃は、本当にそうなのか……誤りではないのかとエドモンテに視線を向けた。しかしエドモンテは、頷いた。



「本当ですよ、母上。この魔法使いの娘……マリン殿は、ルーニを救出しました」


「な、なぜこのような下賤な者に殿などつけるのです」


「それは、マリン殿がかの名高き天才大魔導士、ラダン・レイノルズのお孫さんでいらしゃられるからですよ母上」


「ラ、ラダン・レイノルズ……クラインベルト王国のミュゼ・ラブリックと、かつて魔導大国オズワルトで双璧と呼ばれたあのラダン・レイノルズというのですか。なら、このマリンなるものは、マリン・レイノルズ……」



 私は、軽く息を吐くと言った。



「そう。エドモンテが今言ったけど、この子はそういう事ですから。もちろん、お爺さんと同じく天才魔法使いでもあります」


「わ、解りました。そういう事であれば特別に同席は許しましょう。このわたくしとて、最愛の娘を救ってくれたという者を冷遇しては、他の者からそしりを受けますからね。ですが、発言は許しません。そこで黙って大人しくしているのであれば、特別に同席を許しましょう。これは特例ですよ」


「だって、マリン。解った?」


「モッムモッムモッム、はーーーい、解った。それじゃ、この場にボクはいないと思って話を続けてくれたまえ。それと、そこのメイドさん」


「え? あ、はい」


「このパンとコーンポタージュのお代わりある? あればもう3人前程、頂きたい」


「か、かしこまりました。少々お待ちください」


「ありがとう」



 本当にマイペース。あのエスメラルダ王妃や、エドモンテでさえマリンに言葉を失っている。


 はあ、でもマリンがここに来てくれて、なんだか解らないけれど凄く気持ちが楽になった。あんなにイライラしていたのに、今はどうってことない。


 ありがとうってマリンに視線を送ると、彼女は一瞬それに気づいて止まった。じっと私を見つめる。え? 何を考えているの? するとマリンは、また食べる事に集中をし始めた。


 口の周りにはパンカスやコーンポタージュなどで、凄く汚れている。フフフ、ここはパスキアの王宮。目の前にいるのは、私と相性最悪のエスメラルダ王妃とエドモンテなのに、マリンを見ているとまるでいつもの賑やかなキャンプをしているかのようなノリだなと思った。



「母上。姉上とお話を続けるのであれば……」


「え? ええ、そうね。アテナ、話を続けます」


「はい、聞きましょう」



 エスメラルダ王妃は、自分自身がヴァレスティナ公国から、クランベルト王国へ政略結婚でお父様の妻になった時の話を始めた。そして自分の気持ちなどは関係がなく、結婚はあくまでも両国の繁栄と平和の為であるとも。


 エスメラルダ王妃の延々と続く話しは、まるでお説教にも感じられた。どうしてもエスメラルダ王妃は、私とカミュウとの縁談を成功させたいらしい。

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