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第1023話 『怖いもの知らず その1』



 エスメラルダ王妃は、紅茶をまた一口飲むと焼き菓子に手を伸ばした。そして私の顔をチラリと見る。



「なんでも、カミュウ王子と2人だけで野宿をしたとか」


「モッムモッムモッム……ごっくん。野宿? 違います、キャンプです」


「その話は、本当なのですか?」


「まあ……本当ですけど」


「そう、2人だけで……ならあなたとカミュウ王子は、もうすでに結ばれていると考えてもいいですね」


 ブブーーーーッ!!


「ぎゃあああ!! 姉上えええ!!」



 丁度、パンとオムレツに添えられていたポテトを食べて、口の中をうるおそうと水を含んだ時だった。口の中に含んだ水を、丁度真ん前の席に座っていたエドモンテに吹きかけてしまった。



「姉上えええ!! 行儀の悪い!!」


「今のは仕方ないでしょ!! だってエスメラルダ王妃が私に変な事を言うんだもん!! そもそも食事中にする話じゃないわ。でも、ごめんなさい!!」



 メイドが慌ててエドモンテに吹きかけてしまった水を拭きに来たので、私はそのタオルを慌てて奪い取る。



「アテナ王女様。これは私達の役目ですので!!」


「いいのいいの。弟に吹きかけたのは私だから、ちゃんと自分でやります」


「そ、そんな!! 困ります!!」



  それでも「いいからいいから」と言って、奪い取ったタオルでエドモンテの顔と服を拭いて綺麗にした。エドモンテの額には、青筋が浮かび上がっていたけれど、私は気が付かないふりをした。ちゃんと謝ったし、エスメラルダ王妃も悪いんだもん。



「姉上……頼みますよ。私は今回、わざわざ他国に来てまで、恥をかきにきた訳ではありませんよ」


「わかってる、わかっているってば。あはは、怒らないでよ、謝ったんだから」



 笑って誤魔化す。エスメラルダ王妃は、そんな私とエドモンテとのやり取りを気にしている様子もなく、カミュウ王子の事について更に聞いていた。



「それで、どうなのですか? あなたとカミュウ王子の関係は」


「何もないです」


「何もないとは、どういう事ですか。若い男女が、誰もいない森で2人での野宿をしたというじゃないですか。何もない訳ないでしょ?」


「あのね!」


「姉上!!」


「うっ……」



 エドモンテに睨まれる。この子は私の弟のくせに、私に意地悪ばっかりするけど10歳にしては頭はいいし、私よりも色々と物事を考えている所があるのは事実。ちょいちょい正論も言うんだよねー。可愛くないことに。



「……あのですね。まず訂正させて欲しいんですけど、野宿ではなくてキャンプです。キャンプ。テントだってあるし、そういうキャンプで使用する道具を専門店で手に入れて使っているんですから。だからキャンプなんです! あと、カミュウ王子とは本当に何もないです。一緒にキャンプしてご飯食べて、お話をしただけ」


「本当にそれだけですか?」


「何もないです。だいたいある訳ないでしょ、カミュウはまだ12歳なんだから」


「姉上は16歳じゃないですか。年齢的にも近いし、お似合いだとおもいますが?」


「あんたは、黙ってなさい。それに私はもう大人だけど、12って言ったらまだ子供だって言ってんのよ!」



 くーーー、朝っぱらから1対2だもんねー。望んでもないのに、ハンディキャップデスマッチ!! しかも相手はエスメラルダ王妃とエドモンテ。これはキツイ。でも私が約束した事だし、果たさなくてはならない事だから、逃げる訳にもいかないし。カルビーー、助けてーー!!


 エスメラルダ王妃とエドモンテ以外に、この部屋にいるのはパスキア王家のメイドさん達。仲間はいない。だから思わず心の中でカルビの名前を叫んじゃった。すると、急にこの部屋の扉がガチャリと開いた。


 え⁉ まさか!! まさか、本当に私の気持ちがカルビに届いて、駆けつけてくれたんじゃ!! もしそうだとすれば、私はこの2人のどんな責めにも耐えられるよ!!


 でも部屋に入ってきたのは、カルビではなかった。



 ガチャリ。


「あーーー、ここは食堂かーー。いいねー、ボク丁度お腹減っていたんだ。それじゃ、ちょっと失礼します」



 まさかのマリンだった。私は彼女の事を知っているし、もうこの性格にも慣れてしまったけれど、部屋にいるメイドさん達は、突然の彼女の登場に固まってしまっている。

 

 だってこの部屋にメイドさんや執事以外でいるのって、私達クラインベルトの王族だけだから。だけど、マリンは気にしない。しかもまさかの、エスメラルダ王妃の隣に座る。この子に、怖いものなんてあるの!?


 エスメラルダ王妃に睨みつけられると、マリンは何を勘違いしているのか目を細めた。



「ふう、どうも」



 そして私の食事に目を移すと、マリンのいつも眠そうな目がクワっと見開かれた。



「おお! これはいいものだ、特にこのオムレツは色艶に匂い、間違えない!! やっぱりそうだったのか。いや、実は先程通路を歩いていると、何処からかいい匂いがしてきたんだ。それが気になってね、その匂いのもとを探りあてるべく、王宮内をゾンビのように彷徨い歩いて……きっと何か卵料理が近くにあると確信に至った訳だ。更にボクは、匂いに導かれ歩いたんだけど、ついにその正体を突き止める事ができた。まさかアテナが、この部屋で食事をしていたなんてね」



 言っている意味が解らない。マリンはそう言って、じっと私の食べかけのオムレツに目をやっていた。エドモンテが声をあげる。



「あなたは、なんなんですか!! いったい何処からわいてきた! 勝手にこの部屋に侵入し、我ら王族と同じテーブルにつくなど、無礼千万であろう!! ええい、兵を呼んで摘まみ出してもらう!!」


「まま、待ってエドモンテ!! この子はこういう子なの!! ちょっと、待ってよ!!」



 エドモンテを必死に抑える。エスメラルダ王妃はもう完全にマリンから目線を反らし、無視している。この人は、いつもこう。私はうろたえているメイドさんに言った。



「ごめんなさい。私が食べているこの料理、もう一人分用意ってしてもらえますか?」


「え? で、でも……」


「はい、かしこまりました」



 困るメイドさんを横切って、執事が答えた。私は、執事にお礼を言うとマリンに言った。



「クロエは?」


「えーーっと、クロエはいないよ。朝ご飯を食べてから、イーリスと何処かへ遊びに行ったみたいだよ」


「そうなんだ。まあイーリスとなら安心かな。それでマリン」


「ん?」


「今、私は取り込み中なの」


「え? あ、はい」


「だからちょっと、大人しくしてくれる? 私が食べているものと同じもの、今お願いしてマリンの分、ここへ持ってきてもらうから」



 マリンの目は、輝きを取り戻した。



「ほんと? それなら大人しくしているよ。誰もが驚く位にね。それじゃ、大人しくしているから、どうぞ続きを話して。大丈夫、ボクは大人しくしているから。あーー、早く料理、こないかなー。このオムレツ、凄い美味しそうだよ」


 …………


 エスメラルダ王妃とエドモンテだけでなく、この強烈なマリン節に私も圧倒されてしまった。


 マリンは、あの師匠にも闘いを挑んだっていうし、本当に怖いもの知らずというかなんというか……

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