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第1022話 『エスメラルダとの朝』



 コンコンッ


「どうぞ」



 今日はエドモンテに起こされて、服を着替えるなり、エスメラルダ王妃のいる部屋へとやってきた。



「やっと起きたようですね。パスキア王国に縁談に来て、呑気に寝坊をしているなんて、その神経を疑いますけどね。まあいいでしょう。ついてきなさい」



 ムッキー―!! ムキキーー!! モガー、モガーー!! 確かに寝坊はしたし、この国の王子様の縁談相手としては、あまりに自覚がなさすぎると思うけど、何もそこまで言う事ないじゃない。こちらとしては、縁談相手に対して悪印象なのは、願ったり叶ったりなんだからね。



「はあ……」



 溜息。するとエドモンテが反応した。



「どうしたのですか、姉上。母上に会うなり溜息など、嫌味がすぎますよ」


「なんでもない。それに嫌味のつもりで出た訳じゃないから、気にしないで。自分に対してだし」


「はあ? 何を言っているのですか、姉上は」



 どうしてなんだろう。自分自身が嫌になる。ルシエル達と冒険者として、キャンパーとして活動している時は、こんな気持ちにはならないのに……


 エスメラルダ王妃やエドモンテ相手だと、どうしてもこういう気持ちになってしまう。こんなのは、本当の自分らしくないと思っているのに、理屈じゃなくて気が付くと感情的になってしまっていて……


 部屋の中に入ろうとした私に対し、エスメラルダ王妃は、ケバケバした扇を取り出して突きつけてきた。



「部屋には入らなくていいですよ。アテナは、まだ朝食をとっていないのでしょ? このままついていらっしゃい」


「はーーーい」



 明らかにエスメラルダ王妃との朝食なんて楽しくないし、嫌だとあからさまに態度で出してしまう。これも本当は、とっても大人げないと自分ではとっくに気づいている。自分に、げんなりする。だけどやっぱり気が付くとこういう態度をとってしまう。ルキアやクロエの前じゃ、とても見せられないな。こんな私――


 通路を歩いて、階段を降りる。3階。ある部屋に通された。



「さあ、こちらに来て座りなさい」



 エスメラルダ王妃は、クラインベルト王国の王妃なのに、まるでこのパスキアの王宮が自分の本来のいる居場所のように振る舞っている。もともとは、ヴァレスティナ公国から政略結婚でクラインベルトにやってきた訳だし、この辺は流石だなと素直に感心してしまった。


 部屋に入ると、そこはちょっとした食堂のような場所だった。メイドが何人かいて、執事が1人。エスメラルダとエドモンテが着席したので、私も言われたように椅子に座った。


 すると執事やメイドが動き出す。程なくして目の前のテーブルに朝食が並べられた。でも食事は私だけで、エスメラルダ王妃とエドモンテには、紅茶とお菓子が運ばれてきた。



「ご飯は、私だけなんですね」


「わたくし達は、あなたよりも早く起きて行動していますし、朝食もとうに終わっています」


「そうですか」



 にこりとも笑わないエスメラルダ王妃。お父様やルーニだったら、お腹いっぱいでも一緒に食べるって言いだすから、お腹が壊れるよって心配している所だけど……この2人には、そんな心配は無用みたい。

 

 でもまあ、この美味しそうな朝ご飯を作ってくれた、パスキア王国のメイドさんかシェフかは解らないけれど感謝だよ。今、お腹が減っているのは間違いない訳だし。


 目の前には、フッカフカのパン。そして温かそうなスープ。これはコーンポタージュかな。あと、瑞々しいサラダと、街で食べるものとは明らかに違う、なんとも上品な感じのオムレツ。これは美味しそう。



「うわーー、どれも美味しそう!! 見ているだけで、ヨダレが出ちゃうな」



 ムっとした顔でエスメラルダ王妃とエドモンテが、私を睨んだ。でもメイドさん達は今の私の言葉を聞いて、嬉しそうに笑ってくれた。


 あれ? っていう事はもしかして、これを作ってくれたのはメイドさん? ならとても料理上手なメイドさんって事になる。



「それじゃ、頂いていいのかな?」


「どうぞ、召し上がりなさい」



 エスメラルダ王妃はそう言うと、紅茶に手を伸ばした。エドモンテもお菓子を食べ始める。フフフ、いくら偉そうにしていたって、エドモンテはまだ10歳なんだからね。まだまだ子供様(おこちゃま)。お菓子に目がないのは、解っているんだから。


 ほら、お菓子を前にエドモンテが行儀悪く貪り始めるわよ。見ていなさい、ほらね……なんてくだらない事を思っていると、エドモンテの食べ方はとても上品だったので、がっかりした。更に私の方が怒られる。



「アテナ。朝食を食べていいとは言いましたが、口の周りにパンくずがついてますよ。どうにかしなさい」


「え? ええ!! ひ、ひえええ。あははは、これは失礼」



 2人にまた白い目で見られた。ぐぬぬぬぬ、こういうのは、いつもルシエルの担当なのに。本当に調子が狂う。


 でもメイドさん達は、微笑んでくれている。なら、いいかな……って良くはないよね。こんな私でも、一国の王女として招かれているんだから、もう少しちゃんとしないといけないかな。モニカは、こういうの上手いんだけどな。


 朝食に出されたパンは、とてもふっくらして美味しかった。そして私は閃く。パンを少しちぎると、それをコーンポタージュに浸してから口に入れた。ああーー、コーンポタージュの甘味がパンと凄くマッチして美味しい。たまらないなー。


 至福のひとときを楽しんでいると、エスメラルダ王妃がようやく話しを始めた。私は食事する手を止めない。



「それで、どうだったのですか?」


「モングリモングリモングリ……ごくん! え? どうって、どういう事ですか?」


「カミュウ王子との縁談の件ですよ」


「ああ。カミュウ王子は、とてもいい人ですよ。でもあなたとの約束は、パスキア王国に来てカミュウ王子に会って縁談をする事だった。結婚するとは約束していないし、する気がないという気持ちも先に伝えましたし、それに変わりはありません」



 今度はサラダに手を伸ばす。え? 嘘!! これもしかして、アボカド!? 嘘よ、嘘よ! 嘘でしょ!! サラダにアボカドなんて入っているなんて、私大好物なんだけど。やっぱり、サラダにアボカドとかかぼちゃとか入っていると、テンションあがるよね。


 あれ、それでなんだっけ?


 そうそう、カミュウ王子との縁談の話。それはどうなっているのかって事だよね。


 エスメラルダ王妃との約束の話だし、彼女が気になっているのは解っている。だから気になって、こうして聞いてくる事も解っていた事だった。

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