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第1021話 『姉弟』(▼アテナpart)



 カミュウ王子とキャンプしてから、二日経過していた。


 うーーん、ルシエル達はどうしているかな? そろそろ一度、何かしらのコンタクトを取りたいな。なんて事を考えながら、なかなかベッドから出られないでいるとドアを誰かがノックした。


 コンコン、ガチャ。ギイ……



「どうぞって、言ってないんだけど」



 誰が入ってくるのか、だいたい見当がついていた。今日起きたら、直ぐ来るようにと昨日の夜に言われていたから。


 今、私がなかなかベッドから出られないでいる理由の一つをあげれば、それかな。



「そろそろ起きられたらどうですか、姉上。もう時計の針は9時を回っていますよ。王宮にいる者達は、もう忙しなく働いているというのに……他国から客としてやってきている姉上は、寝坊をしている」


「寝坊じゃないわよ。考え事をしているの」


「ほう、考え事。何を考える事などあるのですか?」


「いいからちょっとそこのドア、閉めてくれない?」



 私の弟、エドモンテ。生意気で憎ったらしくて、いつも義母のエスメラルダ王妃と一緒になって私を責める。



 ギイ……バタンッ


「さあ、閉めましたよ。そろそろ起きて母上のもとへ行かれてはどうですか。母上は、もう既に何時間も前から起きられていますよ」


「他国にまで来て、そんな早く起きて何しているのよ」


「さあ。自分で聞かれてはどうですか?」


「はあ? だってさっきあなた、母上はもう既に何時間も前から起きてるーって言ったじゃない。見ていたから、そう言ったんでしょ?」



 あからさまに面倒くさそうな顔をするエドモンテ。ムキーー、姉に向かってその態度。確かにエドモンテと私は、血は全く持って繋がっていない。だけど、弟なんだからね。私の弟である事は間違いないんだから、もっとお姉ちゃんに対して敬意を払いなさいってもんよ。でも、口には出さない。朝から怒ると、凄くなんか疲れるから。いつもの事だし。



「……はあ。母上は、手紙を書かれていましたよ」


「はあ?」


「なんと気の抜けた顔……我が姉であり、クラインベルト王国の第二王女ともあろう者が、嘆かわしい」


「な、嘆かわしくないわよ。それでなによ、手紙って?」


「……私達はクラインベルトを出て、パスキアに向かい無事に到着しました。それから、もう数日が過ぎています。なので母上は、父上に経過報告をしているのですよ。例えば姉上と無事合流をしているのだとか、気になるでしょう? なりませんか? まあ、ならないでしょうね。姉上は王族にあるまじき行為、冒険者に身を堕としてから、毎日毎日何処かも解らない場所を放浪しては、貧しい者のような暮らしをして満足しているのですから」


「ま、貧しいって何よ!! もしかしてあなた、キャンプの事を言っているの!? だとしたら、許さないんだから!!」


「本当の事を言ったまでです」



 ムッキーー。どうしてもエドモンテや、エスメラルダ王妃を目の前にすると、私はイライラしてしまう。ルキアやクロエといる時なんて、もうずーーっと心が和んでいられるのに……


 でもエスメラルダ王妃は、お父様にちゃんと手紙を書いてはくれているんだ。確かに何も連絡を入れなれば、お父様やゲラルド、それに爺なんてきっととんでもなく心配する。でもここには、ゾルバ率いる鎖鉄球騎士団もいるし、アシュワルドだっていてくれているんだから。



「そうそう。そう言えばアシュワルドは、一度国境警備の任務に戻ると言って、早朝からもう部下を率いて戻りましたよ。天馬将軍トリスタン・ストラムが、国境まで見送りに行ったようですが、姉上が寝ている間の話ですので、トリスタン・ストラム卿はもうここへ戻られているかもしれませんね」



 一言多いんだから。私の弟は、どうしても言葉に嫌味を混ぜないと、死んでしまう病なのだろうか。



「兎に角、姉上。そろそろ支度をして頂けますか。母上が待っています」


「ええーー、面倒くさいんだけど。いったいなんの用なのよ」


「さあ? でも姉上は、ゾルバとも母上とも約束なされたのでしょう? まさか、ここに来てその約束を反故にされますか? まあ私は別にそれでも一向にかまいませんが」


「うっ……痛いところを……」


「ですが、まあ姉上にしては、上出来でしょうね」


「はあ? 何が上出来なの?」


「姉上はドワーフの王国を救ったのでしょう? 文字通り、魔の手から。ドワーフの王国では、ガラード王子がクーデターまがいの事を起こし、その隙をついてリザードマンのザーシャ帝国に加えて、ドゥエルガルまでが攻め込んできたとか。その中には地竜グレイドラゴンまで、街に侵攻してきて絶望的な状態であったが、それを姉上が救った。そう聞きましたが……ハハハ、まるで英雄譚ですね。本当かどうかは眉唾ですが、もしも事実であれば、それに関しては見事と言わざるを得ないでしょうね」


「ふーん、珍しい。褒めてくれるんだ。でも、事実じゃないよ、それ。国を救ったのは、ドワーフ達自身だし、ドゥエルガルだって最終的には助けてくれた。リザードマンにもいいリザードマンがいて、私を助けてくれて……それに国を救ったのは、私の仲間だってそうだから……別に私1人が行動した訳じゃないし」


「……謙遜……でもないですか。ゾルバやその麾下騎士団も力を貸したようですしね。とりあえず、ここで長話をする気はないですよ。母上が待っていますので、着替えてください」


「はいはい、解りましたよーだ」



 もう観念するしかないか。今日一日ずっとベッドの上で籠城している訳にもいかないだろうし。


 私は布団から這い出ると、そのままパジャマを脱いで下着姿になった。チラリとエドモンテを見る。



「なんです?」


「…………」


「はあ? まさかこの私が自分の姉の下着姿を見て、何か思うとでも? 大した自身ですね」


「こ、このおおお!!」



 このまま大人しく着替えようと思ったけれど、もう堪忍袋の緒が切れた。でもどうしてやろうか考えつかなかった私は、下着姿のままエドモンテに掴みかかるとそのままタックルして転ばした。そしてそのまま馬乗りになると、そこからエドモンテに抱き着いた。



「うわああ、な、なんのつもりですか、姉上!! 離れてください!! 気持ち悪い!!」


「嫌!! あんたが口の悪いのも、私に意地悪するのもきっと、私の愛情が足りないからだって気づいたんだもん!! 父上だって、姉弟なんだからもっと仲良くしなさいって言っているし!! だから、抱きしめていい子いい子してあげるんだから!!」


「馬鹿な……うっぷ、いったい何をしているのか、姉上は!! 早く離れてくれ!! 姉弟で戯れえるなんて、気持ち悪いし正気の沙汰と思えない!!」



 捻じれている!! エドモンテは、心が捻じれていると思った。でもそれなら、こうやってお姉ちゃんの愛情を注いでやる。それがエドモンテにとっては、お仕置きになると解ったから。


 ニヤリと笑い、より一層エドモンテに抱き着く。するとエドモンテは、脱出する為に私の脇腹を思い切りつねった。私は想像もしていなかった唐突な痛みで飛び上がる。その隙をついて、エドモンテは私から脱出した。

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