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第1020話 『依頼の終わり』



 王都に戻ると、私達の目の前にラトスさんが現れた。私達はラトスさんの目の前に冒険者4人を突き出すと、どんな事があったのか説明をした。


 ラトスさんは、何度も頭を下げて私達に謝罪した。息子であるカトル君の目の前で……だから私達は、ラトスさんが本気で謝ってくれているのだと理解した。



「すまない。本当に申し訳ない。私は君達に隠し事をしていた。息子が、まさかあんな魚の魔物に、恋心を抱いているなんて他の者に知られたくなくて。だからギルドには、行方不明になった息子の捜索で依頼を出して、この人達には、息子をたぶらかした魔物に報復をお願いしたんだ」



 アテナが言っていた。冒険者ギルドに依頼を出す場合、通常は出す側が明確に理由をギルドに伝えなければいないって。でもこの場合は、ラトスさんは嘘の内容をギルドに提出していたわけで、この事が公になるとよくて罰金などという処罰をされるかもしれなかった。

 

 ルシエルが言った。



「問題は解決した。な、カトル」


「うん……もう、フーナには、会いにいかない。それにあの森にも……」



 息子の言葉を聞いてラトスさんは、安堵の溜息を漏らした。



「良かった……魔物なんかに想いがあると知った時には、どうかしてしまったのかと思ったぞ。兎に角、お前が正気に戻ってくれて良かった」



 ルシエルは、続けた。



「問題は、解決。つまり一件落着だ。だがあんたの問題がまだ残っているんだな、これが」


「嘘をついていた事だな。さっきも謝ったが、本当に申し訳ないと思っている。何かできる事でお詫びができるなら、なんでもするが……」



 ルシエルは私の顔を見た。そしてにっこりと笑ったので、私も微笑み返した。そう、ルシエルが何を次に言うのか知っていたから。



「それじゃ、約束してもらおう。あんたももう二度と、あの森に近づかないと。そしてあの森で住んでいるフィッシュメンを襲撃しない、フーナにも手を出さない。それを約束して欲しい。できるか?」


「わ、解った、約束しよう」


「それならもういいや。この件はこれで、終わり。でも一つ言っておくが、もしあんたが今オレが言った約束を忘れたり、破ったりすれば、少なくともオレはあんたを許さない。そして約束を守ってくれるなら、今回の事はギルドにも何も言わない。普通に依頼完了、平和的解決だ」


「わ、解った。約束する。でも、なぜあんた達がそこまであの森に……いや、魔物に肩入れするんだ? あんた達は、冒険者だろ?」


「それは……」



 ルシエルは何か言おうとしたけど、何かを思って急に私に目をやった。言葉を求められていると思った私は、ルシエルの代わり、ラトスさんに答えた。



「あの森のあるフィッシュメンの村には、大切な友達がいるからです。ラトスさんもカトル君の気持ちにもう少し歩みよる事ができて、フーナさんと会話をしたりあの村に行って実際に彼らと接してみれば、色々と解ってもらえると思います」



 ポカンと口をあけるラトスさんに、ノエルが呟くように言った。



「まあ、もうあの村には、関わらないって約束したから無理だけどな」


 …………


「それじゃ、カトル! またな。でも王都にいれば、また顔を合わすかもしれんけど」


「ルシエルさん、ありがとうございました」


「じゃーな」


「ノエルさんも」


「カトル君……」


「ルキア……フーナはウオッシュが好きなんです。きっと幸せになると思います」


「うん、そうだね」



 これでこのちょっぴり変わった依頼は、なんとか無事達成する事ができた。


 カトル君をラトスさんのもとへ送り届け、4人の冒険者も引き渡して自由にすると、私達はその足で冒険者ギルドに向かった。ルシエルは、受付嬢のいるカウンターに飛びつく。



「すいませーーん、報酬頂戴!!」


「え? あっ、あなた達は!! 依頼を達成して頂けたんですね。ありがとうございます。それでは、早速ですがこちらの書類に――――」



 依頼の達成。


 フィッシュフォレストでは、まさかの一泊をしてしまった。ルシエルは、そのつもりだったかどうか解らないけれど、私達の請け負った仕事は、カトル君の捜索だったので、場合によって2日か3日位かかるかもしれないと、ノエルは思っていたみたいだった。


 冒険者ギルドを出ると、ルシエルが私とノエルの肩を同時に叩いた。



 バシイッ!!


「痛い! ちょっと強いですよ!」


「なんだよ、ったく!!」


「いやーっはっはっは、悪い悪い。それよりさ、これから何か食いにいかない? 依頼も結構達成したし、とりあえずこれだけ稼げば大丈夫だろ? なあ、いい店さっき見つけたんだよ」



 それは私も賛成。ちょっとゆっくりしたい。でもいいお店って……ひょっとしてお肉……ううん、さっきチラリとルシエルが見ていたお店があった。あれは、カフェ? 



「もしかして、ケーキとかそういうのを食べに行くのですか?」


「うおおお、さっすがルキア!! 大正解。とりあえず、まだ夕方までは時間あるしさ。これから甘いもんでも食べにいかない? それでちょっとダラっとして、それから晩飯にしよう」


「なにか、食べてばかりですね」


「はあーー? ルキアは甘いもん食べたくないのかよ?」


「そりゃ食べたいですよ」


「じゃあ、決定ね。いいよな、ノエル」


「ああ、いいぞ。あたしもそういうの、食べたい」



 以外な答え。思わず、ルシエルと私は目が丸くなってしまった。



「なんだよ、その顔! あのな、あたしだって女子だぞ女子!! スイーツ的なもんは好きだし、ドワーフの王国にもそういう店はあってだな、よくミューリやファムと行っていたんだからな」


「はいはい。それじゃ、問題ねーな。甘いもんを喰いにいこーぜ!! 依頼達成のご褒美だ!!」


『おおーーー!!』



 アテナ不在なのに、カルビも混ざって珍しくも4人で意気投合。


 とりあえず、ちょっと寂しくなってきていたお財布も膨らんだし、こうして王都でゆっくりと過ごしていればそのうち、アテナが私達を呼びにきてくれると思った。

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