第1019話 『ズットモ』
ルシエルは、ザカと抱き合っていた。
「うおおお!! ザカーーー!! また来るぞ!!」
「ギョギョー、マタコイ!! マッテイルゾ、ルシエル! ソレニ、ミンナ!!」
族長もウオッシュさんも、そしてフーナさんも……フーナさんは私に言った。
「カトルの事を、よろしくお願いします」
「はい。ちゃんとお父さんの所へ連れて帰って、きちんと話をします。だからこの件でまた、ここへ誰か冒険者とか来るような事はないです」
「ありがとう、ルキアちゃん」
ルシエルがザカとハグしているのを見て、ルシエルったらとても別れを惜しんでいるって思っていたけど、そんな私もフーナさんとハグをしてしまった。
見た目は、お魚さんに手足が生えているいうような種族。だけど、こんなにも気持ちが通じ合うなんて……
魔物と人間。そんな境目を気にせず、フーナさんの事が好きになってしまったカトル君の気持ちが、私達にも解る。私とフーナさん、それにザカとは、もう友達だから。
村の出入口まで、皆総出で私達を見送ってくれた。最初、この森に来た時はジメッとして、薄暗くて泥濘だらけで恐ろしかったのに、今ここを離れるとなると凄く寂しい。
「ほら、さっさと行け」
「ひ、ひい!」
「もう俺達は手を出さない。約束する。だから、いい加減縄を解いてくれ」
「解った解った。だがあたしは、用心深いんでな。森の外に出てからだ。お前らは盗賊でもないが、暴れたろ。ちゃんと言うことを聞けば、縄を解いてやろう」
「て、手を縛られている状態で、この森を歩けっていうのか」
「そ、そんなー。転んだら、泥だらけになるぞ」
4人の冒険者には縄をかけて、ノエルが連れて歩いていた。その横にはカルビもいて、変な事をしないか見張っている。
私達はフィッシュメンの村の皆に頭を下げると、手を大きく振って立ち去った。
もっともっとフーナさんとお話をしたかった。だけど王都へ戻ってラトスさんのもとへ行ってちゃんと、この件について決着をつけておかないといけない。
森の中を歩く。歩く度に、ヌチャヌチャという泥濘を歩いている感触と音がする。そしてルシエルが、先頭の方へ移動する。
「それで、ザカ。何処までついてくるんだ?」
「デグチマデダ。モリノデグチ」
「そうか…………なあ、ザカ。ひょっとして、このままオレ達とよ。一緒に行くっていう選択肢はないのか?」
ルシエルの思いもしなかった、唐突なセリフ。私だけでなくノエルも驚く。
でも私やノエルにとっても、もうザカは大切な友達。最初の出会いは、ザカが何食わぬ顔で私達のキャンプに参加していた。それを思い出すと、可笑しくて吹きだしてしまう。ああ、ザカやフーナさんのこと、早くアテナに話したい。でももしザカが仲間になれば……
「ソレハ、オデヲ、ナカマニシテクレルッテコトナノカ?」
「おう、そうだ!! だって、ザカはもうオレ達のマブだろ?」
「ダガ、マモノト、ニンゲン」
「そうだ。でもそれを言うなら、カルビもそうだ」
ルシエルは、そう言ってカルビを指した。するとカルビは、ワウっと返事をする。
「カルビは、ウルフの子供。正確には、亜種らしいけどな。そして確かに魔物だ。魔物だけど、オレ達のファミリーなんだ」
「パーティーだろ?」
ノエルがちゃちゃを入れた。
「いいの、ファミリーなの。言っておくがノエル。お前も、もうオレ達の仲間……仲間と言ってももっと上のグレードのやつ、家族みてーなもんだからな」
「そうか。それはありがとよ」
「なんだ、その言い草はーー!!」
腕をブンブン振って怒るルシエル。対してノエルは、向こうをプイって向いた。私からも彼女の顔は見えないけれど、きっとルシエルにあんなことを言われたので笑っている。
「それでどうだ? ザカをオレ達の仲間に加えてもいいよな? 賛成のひとーー!」
「あたしは、かまわない。ザカは、信頼できる」
ワウッ!
「私もです! ザカは泳ぎが得意ですし、一緒にいてくれれば水場も怖くないですし」
会話を聞いていた4人の冒険者。そのうちの1人が、「正気か?」っと呟く。ノエルはそれを聞いて、男を睨むと男は慌てて向こうを向いた。
「ソウカ。ショウジキ、ウレシイ。デモ、ホカニ、ナカマガイルト、イッテナカッタカ?」
ルシエルはケラケラと笑った。
「アハハハ。それなら大丈夫。アテナなら、きっとザカを見て逆に喜ぶに違いない。クロエもだ。間違いない。だがマリンは、ひょっとしたらザカを目にしたら、ヨダレを垂らすかも……」
「ギョギョ! ソレハ、コワイ」
ルシエルのジョーク。私達は大笑いした。そんな楽しい会話を続けていると、いつの間にか森の出口に辿り着く。ルシエルは、ザカの方を振り返った。
「なあ、オレ達の仲間になって、一緒にこの世界を旅をしようぜ。キャンプも楽しかったろ? 一緒にくればもっと楽しめるぞ」
「イイナ。ルシエルタチトノ、キャンプヤ、ヌマグロトノタタカイ、トテモタノシカッタ。ココロ、オドッタ」
「じゃあ……」
「サソッテクレテ、スゴクウレシイ。デモ……イケナイ」
肩を落とすルシエル。私もザカが一緒に来てくれたら、もっと楽しい旅になるかも。そう思った。だけどザカにはザカの暮らしがあるし、村の皆も絶対にザカを頼りにしていると思った。
「おい、本当に来ないのか?」
「ソウダ。イカナイ。ダケド、オデト、ルシエル……ルキア、ノエル、カルビ。オマエタチハ、ズットモダ!!」
「ずっとも……」
「ソウダ!! コレカラモ、ズット、トモダチ。ソコニ、シュゾクハカンケイナイ。マタゼヒ、アソビニキテクレルト、ウレシイ」
「……そうか。解った。無理やりってのも駄目だしな。それならまた遊びに来るよ」
「マタアオウ。ソシテマタ、ウマイモノ、クワセテクレ」
「ああ、もちろんだ。ヌマグロ狩りもしようぜ」
ルシエルに続いて私、そしてノエルもザカとハグをした。
そして私達は、冒険者4人とカトル君を連れてパスキアの王都へと引き返した。
アテナと出会い無理を言って、冒険者にしてもらった。そして一緒に旅をするようになって、色々な出会いがあった。そして別れも。別れの時は、いつも切なくなる。
でも別れがあれば、またいつの日か再会の日がやってくる。そう思った。




