表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1019/1343

第1019話 『ズットモ』



 ルシエルは、ザカと抱き合っていた。



「うおおお!! ザカーーー!! また来るぞ!!」


「ギョギョー、マタコイ!! マッテイルゾ、ルシエル! ソレニ、ミンナ!!」



 族長もウオッシュさんも、そしてフーナさんも……フーナさんは私に言った。



「カトルの事を、よろしくお願いします」


「はい。ちゃんとお父さんの所へ連れて帰って、きちんと話をします。だからこの件でまた、ここへ誰か冒険者とか来るような事はないです」


「ありがとう、ルキアちゃん」



 ルシエルがザカとハグしているのを見て、ルシエルったらとても別れを惜しんでいるって思っていたけど、そんな私もフーナさんとハグをしてしまった。


 見た目は、お魚さんに手足が生えているいうような種族。だけど、こんなにも気持ちが通じ合うなんて……


 魔物と人間。そんな境目を気にせず、フーナさんの事が好きになってしまったカトル君の気持ちが、私達にも解る。私とフーナさん、それにザカとは、もう友達だから。


 村の出入口まで、皆総出で私達を見送ってくれた。最初、この森に来た時はジメッとして、薄暗くて泥濘だらけで恐ろしかったのに、今ここを離れるとなると凄く寂しい。



「ほら、さっさと行け」


「ひ、ひい!」


「もう俺達は手を出さない。約束する。だから、いい加減縄を解いてくれ」


「解った解った。だがあたしは、用心深いんでな。森の外に出てからだ。お前らは盗賊でもないが、暴れたろ。ちゃんと言うことを聞けば、縄を解いてやろう」


「て、手を縛られている状態で、この森を歩けっていうのか」


「そ、そんなー。転んだら、泥だらけになるぞ」



 4人の冒険者には縄をかけて、ノエルが連れて歩いていた。その横にはカルビもいて、変な事をしないか見張っている。


 私達はフィッシュメンの村の皆に頭を下げると、手を大きく振って立ち去った。


 もっともっとフーナさんとお話をしたかった。だけど王都へ戻ってラトスさんのもとへ行ってちゃんと、この件について決着をつけておかないといけない。


 森の中を歩く。歩く度に、ヌチャヌチャという泥濘を歩いている感触と音がする。そしてルシエルが、先頭の方へ移動する。



「それで、ザカ。何処までついてくるんだ?」


「デグチマデダ。モリノデグチ」


「そうか…………なあ、ザカ。ひょっとして、このままオレ達とよ。一緒に行くっていう選択肢はないのか?」



 ルシエルの思いもしなかった、唐突なセリフ。私だけでなくノエルも驚く。


 でも私やノエルにとっても、もうザカは大切な友達。最初の出会いは、ザカが何食わぬ顔で私達のキャンプに参加していた。それを思い出すと、可笑しくて吹きだしてしまう。ああ、ザカやフーナさんのこと、早くアテナに話したい。でももしザカが仲間になれば……



「ソレハ、オデヲ、ナカマニシテクレルッテコトナノカ?」


「おう、そうだ!! だって、ザカはもうオレ達のマブだろ?」


「ダガ、マモノト、ニンゲン」


「そうだ。でもそれを言うなら、カルビもそうだ」



 ルシエルは、そう言ってカルビを指した。するとカルビは、ワウっと返事をする。



「カルビは、ウルフの子供。正確には、亜種らしいけどな。そして確かに魔物だ。魔物だけど、オレ達のファミリーなんだ」


「パーティーだろ?」



 ノエルがちゃちゃを入れた。



「いいの、ファミリーなの。言っておくがノエル。お前も、もうオレ達の仲間……仲間と言ってももっと上のグレードのやつ、家族みてーなもんだからな」


「そうか。それはありがとよ」


「なんだ、その言い草はーー!!」



 腕をブンブン振って怒るルシエル。対してノエルは、向こうをプイって向いた。私からも彼女の顔は見えないけれど、きっとルシエルにあんなことを言われたので笑っている。



「それでどうだ? ザカをオレ達の仲間に加えてもいいよな? 賛成のひとーー!」


「あたしは、かまわない。ザカは、信頼できる」


 ワウッ!


「私もです! ザカは泳ぎが得意ですし、一緒にいてくれれば水場も怖くないですし」



 会話を聞いていた4人の冒険者。そのうちの1人が、「正気か?」っと呟く。ノエルはそれを聞いて、男を睨むと男は慌てて向こうを向いた。



「ソウカ。ショウジキ、ウレシイ。デモ、ホカニ、ナカマガイルト、イッテナカッタカ?」



 ルシエルはケラケラと笑った。



「アハハハ。それなら大丈夫。アテナなら、きっとザカを見て逆に喜ぶに違いない。クロエもだ。間違いない。だがマリンは、ひょっとしたらザカを目にしたら、ヨダレを垂らすかも……」


「ギョギョ! ソレハ、コワイ」



 ルシエルのジョーク。私達は大笑いした。そんな楽しい会話を続けていると、いつの間にか森の出口に辿り着く。ルシエルは、ザカの方を振り返った。



「なあ、オレ達の仲間になって、一緒にこの世界を旅をしようぜ。キャンプも楽しかったろ? 一緒にくればもっと楽しめるぞ」


「イイナ。ルシエルタチトノ、キャンプヤ、ヌマグロトノタタカイ、トテモタノシカッタ。ココロ、オドッタ」


「じゃあ……」


「サソッテクレテ、スゴクウレシイ。デモ……イケナイ」



 肩を落とすルシエル。私もザカが一緒に来てくれたら、もっと楽しい旅になるかも。そう思った。だけどザカにはザカの暮らしがあるし、村の皆も絶対にザカを頼りにしていると思った。



「おい、本当に来ないのか?」


「ソウダ。イカナイ。ダケド、オデト、ルシエル……ルキア、ノエル、カルビ。オマエタチハ、ズットモダ!!」


「ずっとも……」


「ソウダ!! コレカラモ、ズット、トモダチ。ソコニ、シュゾクハカンケイナイ。マタゼヒ、アソビニキテクレルト、ウレシイ」


「……そうか。解った。無理やりってのも駄目だしな。それならまた遊びに来るよ」


「マタアオウ。ソシテマタ、ウマイモノ、クワセテクレ」


「ああ、もちろんだ。ヌマグロ狩りもしようぜ」



 ルシエルに続いて私、そしてノエルもザカとハグをした。


 そして私達は、冒険者4人とカトル君を連れてパスキアの王都へと引き返した。


 アテナと出会い無理を言って、冒険者にしてもらった。そして一緒に旅をするようになって、色々な出会いがあった。そして別れも。別れの時は、いつも切なくなる。


 でも別れがあれば、またいつの日か再会の日がやってくる。そう思った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ