第1018話 『不正式な依頼と恋の行方』
フィッシュフォレストにある、フィッシュメンの村。そこに襲撃を仕掛けてきた4人の男達。彼らはどうしてこの村を襲撃しにやってきたのか、目的や自分達が何者であるのかを話し始めた。
「俺達は、冒険者だ」
「ぼ、冒険者!? ま、マジか!! オレらと、同じじゃんか!」
冒険者といっても彼らは、戦闘をメインにしている人達に見える。
服装や身に着けている装備を見ても、そうだと解る事がある。例えばトレージャーハンターだとすれば、ダンジョンなどで使うような、ロープやピッケルなど所持はしていないし、使う武器にしてもそうだった。人を脅す為に使用する武器と、基本的に魔物と戦う機会の多い者とでは、使用する武器もまた違ってくる。だから、盗賊でもないと思った。
更に雰囲気というものがあった。私も冒険者登録をした頃はよくわからなかったけれど、今はなんとなく感じる。
だから私もノエルも……おそらくはカルビだって、男達が冒険者であると薄々は気づいていた。
そう、その正体を知って本当に驚いているのは、ルシエル位……フィッシュメンも、普段から冒険者に襲われる事もあるらしく、冒険者が村に襲撃を仕掛けてきたこの状況も、ありえる話だと特別驚いているようには見えなかった。
ルシエルが男達に詰め寄る。
「それでなんだ!! 冒険者というのは、パスキア王国の冒険者なのか!」
「ああ、そうだ」
「じゃあ、そのパスキア王国の冒険者が、このフィッシュメンの村になんのようだ!! 何しにきやがった!!」
ルシエルは、男達に向かって拳を振り上げて、ピョンピョンとその場で飛び跳ねる。プンプンに怒っている。
「俺達は、ラトスという男に頼まれたんだ!!」
ラトスさん!?
ラトスさんの名前を聞いて私達は、カトル君の顔を一斉に見た。カトル君も驚いている。
「ど、どうして……どうしてなんでしょうか、カトル君? どうしてラトスさんが、この村を襲撃させるような事を……」
今度は、ノエルが男達を睨みつけた。無言だけど、凄い威圧感。そして拳を鳴らす。すると男達は、怯えた目で話を続けた。
「息子が魚の魔物に攫われたから、助け出して欲しいって言われたんだ。それで報酬額も良かったから、受けた。俺達は冒険者だし、人を助けて金ももらえる。更に魔物退治とくれば、断る理由はないだろ?」
「そ、そんな! この村にいるフィッシュメン達は、とても優しくて友好的な人達なんですよ」
「そんなの知らない。俺達は確かにパスキア王国の冒険者だ。しかもこの森は、王都からは近いが、鬱蒼としすぎていて沼も多いし、誰も好んで近づかない。そして俺達は、王国全土を旅して活動をしているんだ。いちいちそんなの知らんし、魚の魔物に子供を攫われたと聞けば……解るだろ?」
男達の言っている事は、的を得ていると思った。だけど、この村の人達が優しくて私達にこんなに良くしてくれたのも事実だし、フィッシュメン達が人間に危害を加えるようには、一緒にいて思えなかった。
何度考えても、ザカやフーナさん、族長もそうだけど、私達を傷つけようとしている姿を想像する事すらできなかった。
ノエルは、カトル君の方を向いて少し強い口調で聞いた。
「どういう事だ? あたし達がラトスに依頼を受けた時は、お前がフィッシュメンに捕らえられているような事は言っていなかった。この森で行方不明になっている息子を探してくれってだけだったはずだ。カトル、お前……説明できるだろ?」
カトル君は力なく俯くと、顔をあげた。
「そうです。父は僕がフィッシュメンの村に向かった事も、フィッシュガールのフーナに恋をしてしまった事も知っていました。僕が行方不明になったと父が言っていたあの日、実は父と僕は一緒にこの森へやってきた訳ではないんです」
「ど、どういう事ですか?」
「フーナとは以前に知り合って……それで僕はまた彼女に会いたくて、王都からこの森にやってきたのです。父にフーナの事は打ち明けていました。もちろん、父は魔物と人間が恋に落ちるなんて聞いた事もない。教会に知れれば、異端審問会にかけられて場合によっては死刑にされるって。だから僕はこっそりと抜け出して、フーナのもとに……父さんは、そんな僕を止めようとして追ってきて……それがあの日の夜」
「でもフーナさんは、ウオッシュさんのことを……」
ここには、2人もいて話を聞いている。フーナさんは、悲し気な表情をし、ウオッシュさんは少し横を向いて、視線をカトル君から外していた。だけど、話は聞いている。
「はい、でももう決心しました。フーナの事は諦めます。やはり同種族で一緒になるのが一番だと思いますし、僕はフーナの幸せを願います。ようやく、気持ちの整理がつきました」
ノエルが更に聞いた。
「それで、どういう事なんだ? ラトスがあたし達に言った内容と、ここにいる冒険者達に依頼した内容は少し違う」
「それは父が相手を見て、出す依頼を変えて言っているんです」
ルシエルが声をあげる。
「おほーー、つまりアレか。あの手この手か。おい、お前ら!」
「ひ、ひい!」
「お前らはちゃんと、冒険者ギルドでこの依頼を受けてやってきたんだろうな」
顔を背ける男達。
「なーるほど。ラトスは、俺達に冒険者ギルドで正式に息子の捜索を依頼し、保険として冒険者ギルドを通さずに別で、この男達に魔物討伐と息子の救出で依頼した訳か。って事は……」
ルシエルは、カトル君の方を見た。カトル君は大きく息を吸い込んでゆっくり吐くと、皆の方を向いて言った。
「ご迷惑をおかけしました。僕はこれから父のもとへ戻ります。そして父には二度とこの村を襲わせたり、森に立ち入らないように約束させます。僕がもう二度と、ここにこないと言えば父は納得するはずなので」
「それでいいんですか?」
私がそう聞くと、カトル君はフーナさんをチラリと見て、「はい」と短く返事をした。




