第1016話 『颯爽たるルシエル』
ドドーーーーン!!
何かの爆発音。村の広場の方からだった。
「ルキア、こい!! 広場の方にも誰かいるぞ!」
「はい、でもカトル君が……」
ノエルは、私の手を引こうとした。だけど私達の目の前にいきなり現れた男達は、カトル君を連れ去ろうとしていた。それをザカが、手に持っている銛をブンブンと振り回して、阻止してくれている。
「ノエル!!」
「狙いはカトルか!! 解った、あたしに任せろ!!」
【ソードマン】と【モンク】が、同時にザカに襲い掛かる。ザカは銛を巧みに使い、相手の攻撃を跳ね返しているけど、いつまでも凌げない。徐々に身体に傷を負い始めた。私は、慌ててザカの横に並ぶと彼に加勢して男達と剣を交えた。
「くそう!! この魚野郎が!!」
「こっちの獣人もだ!! いったいなんなんだ⁉ なぜ、魚の魔物の味方をする!?」
「さあ、カトル君。こっちへ来て」
ノエルが走った。戦斧に手を伸ばしたので、私は彼女に対して叫んだ。
「ノエル、駄目!! この人達、きっと賊じゃない!!」
「解った、任せろ!」
ノエルは戦斧を掴む事をやめて、男達に向かっていく。
「なんだ、このドワーフのガキは!!」
「ハーフドワーフだ!!」
ドガッ!!
ノエルは、【ソードマン】の振った剣をしゃがんでかわすと、そこから立ち上がる力を利用して、相手の顎にパンチを叩き込んだ。男は、握っていた剣と共に宙に浮いて一回転する。そして落ちた。
仲間がやられて、今度はザカと戦っていた【モンク】がノエルに向かってきた。ノエルは拳を握りしめて、男を正面から迎え撃つ。
「凄まじい一撃だ。女、お前ももしかして【モンク】か!!」
「違う、あたしのクラスは【ウォーリアー】だ!!」
男のパンチ、左ストレートを、ノエルは軽く受け止める。続けて放たれる強烈な右ストレート。今度は受けずに、後ろに軽く身を引いてかわす。
「はっはっは!! 【ウォーリアー】か!! だとしたら、恐ろしい格闘センスだが、所詮は武器を持ってなんぼのクラスだ!! 素手でこの俺と勝負なんて、笑わせるわ!!」
「笑わせるっていうのは、あたしのセリフだよ」
「ほざけ!!」
【モンク】の放つ怒涛のラッシュ。その全てをノエルは見事に、弾いたり受け止めたりかわしている。
次の瞬間、男が勢いよく踏み込んだ。大振りがきっとくる。そう思ったけれど、男が狙っていた攻撃は、もっと鋭く早いパンチ。小さな左ジャブからの、風切り音が聞こえそうな程の右回し打ち。
「もらった!!」
勝ち誇った顔。男の右フックが、ノエルの頭部側面を捉えたと思った。でも次の瞬間、ノエルは素早くしゃがみ込んで、パンチをよける。そのまま身体を男の方へ預ける。そして物凄い勢いで身体を右側へと捻り、瞬発力と遠心力が合わさった強烈なパンチを、男の右脇腹にめり込ませた。
男の身体がズレる。苦悶に顔を歪めたまま、真横へ吹っ飛ばされて地面に転がった。
「ひ、ひいいい!! ば、化物!!」
飛び跳ねるようにして逃げる【プリースト】。走るその先には、村の広場がある。先ほど、何かが爆発したような音がした場所の方。
「ルキア、ザカ!! 広場に急ぐぞ!!」
「はい! それじゃ、カトル君も一緒に来てください!!」
「う、うん!」
男達の目的は、この村の襲撃。もしくはカトル君を連れ去ろうとしているような……そういう様子が見て取れた。だったら、カトル君を今1人にするのは、危険だと思った。
広場に着くと、さっき逃げた【プリースト】の男が地面に転がっていた。そして目の前では、族長を始めフーナさんやウオッシュさん、村の皆が一ヵ所に集まって固まっていた。誰もが怯えている。
「族長!! フーナさん!! それに皆さん、大丈夫ですか⁉」
皆のもとへ駆け寄ろうとすると、族長とフーナさんが叫んだ。
「クルナ!! コッチニ、クルナ!!」
「ルキアちゃん!! こっちにきちゃ駄目よ、逃げて!!」
ドドーーーン!!
またしても爆発音。何処からか火球が、村の皆の方へ向けて飛んできた。でも着弾する前に、火球は爆発する。よく見ると、村の皆の前には、1人のエルフが立っていた。そう、それはルシエルだった。
ルシエルは、村の皆の前に立ち、何処からか飛んでくる火球を、風属性の精霊魔法で迎撃して皆を守っていた。
「ルシエルーー!!」
「お? ルキアか。やーーっときたか」
「こ、これはどういう事ですか?」
「みりゃ解るだろ? 誰かに攻撃されているんだよ。ドカンドカンと、さっきから鬱陶しいったらありゃしない」
ノエルが拳をボキボキと鳴らす。
「苦戦しているようだから、特別に手を貸してやろう」
「いらん!! これはオレの相手だ!!」
「何処にいるのか、解ってんのか?」
「そんなん、解っとるわい! あの、向こうの家の影。あそこから攻撃してきている」
「ふん、解っていたか。それで、手に余るならあたしが代わってやるが」
「いらんって言ってんだろ! でも村の皆を守ってくれ。あいつ、オレが動くと皆を攻撃しやがる。でもデカい精霊魔法で一気に吹き飛ばしてって思っても、それだとこの村を破壊してしまうし……って困っていたんだよ。頼めるか、ノエル、ルキア!」
「当然だ、任せろ」
「え? あ、はい! 任せてください!」
こういう時、頼まれるのはノエルだと思っていた。だから一緒に私の名前も呼ばれて、びっくりした。でも頼まれなくても、村の皆は絶対に守る。
カトル君の事はひとまずザカに任せて、私とノエルはルシエルがいる場所へ駆けた。村の皆が攻撃されないように守る。
ルシエルは、私達と入れ替わると風のようなスピードで、さっき何者かが隠れているといった家の方へ飛ぶように駆けて行く。
そこから近づいてくるルシエルを狙って、炎の矢が何本も飛んでくる。だけどルシエルはその全てを回避すると、驚く程の速さで家の裏手に回った。
そして暫くして、ルシエルは1人の男の襟首を掴み引きずって戻ってきた。男は灰色のローブを纏っていて、如何にも【ウィザード】といった感じだった。