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第1015話 『闇夜の冒険者』



「とりゃああああ!!」


「うわあああ!! な、なに⁉」


「下がってください!! カトル君!!」



 草陰から、何者かが飛び出してきた。人間。私は咄嗟に太刀、『猫の爪』を抜刀した。すると、いきなり襲ってきた男も剣を抜いて対抗してきた。


 剣が交差し、金属音が響く。



「な、何者ですか⁉」


「ちくしょう!! どうなってやがるんだ? なぜ、魚人の村に獣人がいやがるんだよ⁉」



 男と向き合う。剣。


 男は、私めがけて剣を打ち込んできた。大丈夫、落ち着いて、よく見れば大丈夫。こんな攻撃、アテナやルシエルに比べたら、大した事はない。



「やああ!!」


 ギイイン!!


「くそ、なにい!?」



 隙を狙って太刀を大きく振った。男は、私の攻撃を受け止めたけど、大きく後ろにさがった。体勢を立て直す。


 これでいい。今の攻撃は、男を斬る為じゃなくて、後退させる為のものだったから。男と距離ができたのを確認して、私はカトル君に近づいて、彼の手を掴んで引き寄せた。そして後ろに下がらせる。



「ルキア!」


「大丈夫、私は冒険者です! こういう事に慣れていますので、安心して私の後ろにいてください」


「冒険者だと?」



 草陰から新に男が2人現れた。


 一人はアイアンサックを装備している、如何にも打撃専門のクラス、【モンク】という感じで、もう一人は【プリースト】!?



「どういうこった? なぜ、こんな魚の魔物の巣に獣人の少女がいる? それに今こいつ、自分の事を冒険者だと言ったぞ!」


「構う事はありません。このような魔物の巣にいる者なのです。きっと魔物に操られているか、それとも魔物が少女に姿を変えているかのどちらかです。ええ、きっとそうですよ。殺ってしまいましょう」


「え? 私が操られている……そんな訳が……」


 ブオンッ!!



 剣。さっきの剣を持っている男が、再び斬りかかってきた。なんとか避けると、3人の男達は揃って私を睨んだ。



「ええい、面倒だ。斬り捨てよう。そうすれば片付く」


「しかし、こいつはさっき自分の事を冒険者だと言ったぞ」


「いえ、そうだとしても操られているのです。そうなればこちらが手加減をすれば、そこにつけこんでくるでしょう。悪しき魔物とは、得てしてそういう類いのものなのです。ですから、こうなってしまっては仕方がありません。殺ってしまいましょう」


「斬ろう。面倒だ、斬っちまおうぜ。ほら、行くぜ!!」


「きゃああっ!!」


「ルキア!!」


 ドンッ!!



 更に後ろへ、カトル君を突き飛ばした。


 ブロードソード、アイアンサック――2人の攻撃を受ける。すると男達の後方にいる【プリースト】の男が、仲間に補助系法術を放った。



「スピーッドアーーップ!! これで、俺達の勝ちだ!!」


「おい、でも相手は女の子だ。ちと手荒じゃねーか」


「それ位の事、気にしているようであれば、逆にやられますよ。見た目に騙されては、なりません。気を引き締めてかかりましょう」


「しかしでも、例えこの獣人の娘が魔物だとしても、こんな可愛い娘に見えているんだ。後味が悪いのは確かだ。だから、サっと斬って一思いに素早く片付けてやろう」


「だな。賛成だ」



 今度は三位一体になって襲ってきた。私を取り囲んで、三方向から攻撃を繰り出してくる。剣を避けて、拳、蹴りと続けて避ける。そこで、背中に痛みが走る。振り向くと、【プリースト】の持つロッドが、私の背中に命中していた。



「きゃっ!!」


「ヒット!! 実はこっそりとスピードアップの法術の他に、命中率アップの術を発動させていたのです。獣人の身体能力は、異常ですからね。こちらも気を引き締めてかからねば、なりませんから」


「ルキアーー!!」



 カトル君の声。背中に喰らった一撃で、私は前のめりに倒れた。直ぐに手をついて起き上がると、目の前に剣と蹴り、それぞれが迫ってきた。跳躍。寸での所で回避して囲いから脱出する。背中に痛み。



「痛いでしょう。痛いでしょう。フフフ、実は本当の事を言うと、私1人だけ3つ目の補助系法術、攻撃力アップのバフをかけていたのですよ。フフフフ、驚いたでしょう。魔物を相手にする時は、決して油断などしませんよ。殺るか殺られるかですからね」



 【プリースト】の前に【ソードマン】と【モンク】が出て、私の方へ構える。



「さあ、獣人の娘!! 手早く片をつけさせてもらうぞ!!」


「苦しまないように、斬ってやる!! 感謝しろよ」


「くっ……」



 また囲まれる。


 3人の男は一斉に私めがけて襲い掛かってきた。どうしよう、1対3じゃ、どうしてもよけきれない。よく見て避けようとしても、相手に法術や魔法を使う者が混ざっていると、どう対処していいのか解らなくなる。


 再び、【プリースト】のロッドの先端が、眩く光った。何かまた術を発動させる気だ!!



「フハハー、これで終わりです」


「きゃああっ!!」


 ガルウウウウッ!! ガブッ!!


「ぎょええええっ!! 足を噛まれた!!」


「う、うおおおお!! ぎょ、魚人だあああ!!」


「しかもなんだ、ドワーフまでいやがる!!」



 見るとそこには、【プリースト】の足に噛みつくカルビの姿。そして【ソードマン】に飛び掛かるザカ、【モンク】の前にも、ノエルが立ちはだかっていた。


 ちょっとピンチだったので、少し涙がこぼれた。



「み、皆!!」


「ギョハーー!! ルキア、イジメル。ユルサナイ」


 ガルウウ!!


「なーんか、村の中の様子がおかしいなって思って見て回っていると、倒れているフィッシュメンが何人かいた。これは誰か村に良からぬ者が侵入してきていると思ったけど、ビンゴだったようだな」



 ノエル達が助けに来てくれた。形勢逆転。男達は、じりじりと後退する。【プリースト】の足には、まだカルビが齧りついていて、彼は悲鳴を上げ続けている。


 【モンク】が呟くように言った。



「こいつら、魔物じゃない」


「ウルフは本物だぞ」


「でも、魚人の村にウルフがいるのもおかしいだろ。それにこいつら本物の獣人とドワーフだ。どうして、こんな奴らが魚の魔物の村に!!」



 ノエルが二っと笑って答える。



「あたしらは冒険者だ。依頼を受けてこの村にいる」


「俺達も冒険者だ。同じく依頼でここにやってきた」


 ガルウウウ!!


「この悪しき魔物めえええ!! はなせ、はなせーー!! いい加減にしろおお!!」


 ブン、ブーーン!!



 【プリースト】は、ロッドをブンブンと振った。すると彼の足に噛みついていたカルビは、ロッドをさっと避けると軽やかに私の足元へ駆け戻ってきた。


 私達も冒険者だけど、彼らも冒険者?


 冒険者がいったいなぜ、このフィッシュメンの村に……


 彼らの言っている事がもし本当だとしたら、もしかしたら彼らはフィッシュメン討伐にこの森の村までやってきたのかもしれないと思った。そしたら、どうしよう。


 ううん、そんなの決まっている。私はザカやフーナさん、ウオッシュさんに族長。他の優しい村の人達。とても見捨てるなんてできない。ノエルを見ると、彼女はニヤリと笑った。



「ルキア。お前が今、考えている事は解る。だから安心しろ。気持ちは同じ。あたしは、恩と恨みは決して忘れない主義だ。だからこいつらが、フィッシュメンを討伐しに来たのだとしたら、あたしも全力で阻止してみせる。そう、相手が同業者であってもな」

 


 カルビも頷く。私は、ノエル、カルビ、ザカと並んで構えると、太刀を男達に向けた。

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