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第1012話 『諦め』



 フィッシュメンの村で、大きな宴が始まった。大物の獲物、ヌマグロを仕留めた御祝いの宴。



『ギョギョーーー!!』


「ヒャッホーーーーーイ!!」



 キャンプファイヤーのような大きな焚火。そこで、ヌマグロの肉を焼く。ヌマグロはとても大きな魚だから、村人総出で調理しやすいサイズにカットし、それぞれ何回かに分けて焼く。


 味付けには、塩の他に何かハーブのようなものをフィッシュメン達は使用していた。とてもいい香りがする。



「ほら、ルキア!! 踊れ踊れ!!」


「は、はい!! カルビも一緒に!!」


 ワウウー!!



 大きな焚火でフィッシュメン達がヌマグロの料理をし、その周りをまた別のフィッシュメン達が独特な踊りを舞って楽しんでいる。その中に、私とルシエルとカルビは混じって一緒になって踊っていた。


 因みにノエルは、恥ずかしいと言って踊りには参加せずに、向こうでお酒を飲みながらこっちを見物している。



「イヤッホーーーー!! いいねー、このまま朝までダンスだぜーー!!」


 ワウウウーー!!


「そ、そんな体力ないですよ。そろそろ疲れてきましたよ、私」


「なんだ、そうなのか? 体力ねーなー。皆、まだまだ踊って喰って飲んで、大盛りあがりする気だぞ!! ルキアも盛り上がれよ!!」


「も、盛り上がれって言っても……だからもう十分踊りましたし、疲れましたよ。私、ちょっと休憩します」


「なんだよー。じゃあ、いいよ。よし、カルビ!! ついてこい!! 今夜は何処までも踊るぞーーう!! イエー、ナイトフィーバー!!」


 ワオオオーーーン!!



 ルシエルとカルビは、近くにいたフィッシュメンから、焼いたヌマグロの肉を受け取ると、それに噛みつきながらも踊り続けた。なんて、器用なんだろう。でも、こうやって大はしゃぎするのは久しぶりだから、ルシエルもカルビも凄く楽しんでいる。



「ルキア。オマエタチガ、シトメタニクダ。クッテミロ」


「ザカ。ありがとう」



 ザカからヌマグロの肉を渡された。ハーブの香りと合わさって、凄く食欲が掻き立てられる。



「カミツケ。イッキニ、カミツケ」



 どうやって食べようかと思案していると、ザカがそう言った。私はにっと笑うと豪快にヌマグロに噛みついた。



 ガブリッ


「ギョギョ!! イイゾ、ソノチョウシダ。ドウダ、ヌマグロノアジハ?」


「モッチャモッチャモッチャ……美味しい!! とても美味しいです!! 例えるなら、まるで魚のステーキですね」


「ギョギョ!! ステーキカ。ルキアハ、ナカナカウマイコトイウナ」



 巨大なヌマグロを仕留めた。族長やウオッシュさんが言うには、これだけあれば数カ月分の村の食糧になるらしい。でもいつまでもそんなに肉を残していると、腐って食べれなくなっちゃうんじゃないですかと尋ねると、備蓄しておく肉は、塩漬けにしたり干物にしたりするらしい。


 でも塩漬けは解るけど、干物って……


 このフィッシュフォレストは、何処も鬱蒼としていて、昼間でも森の中に陽が差し込まない。だからこのヌマグロの肉で干物を作るとすれば、その分を持って一旦フィッシュフォレストから外へ出て、原野か何処かで干すしかないと思った。その光景を想像すると、凄く面白い。



「ルキア。カトルニモ、モッテイッテヤレ」



 ザカはそう言って、更に焼いたヌマグロの肉を私に手渡した。そして指をさす。村の皆が集まっている広場の端、大きな木の横にカトル君はポツンと座っていた。



「それじゃ、カトル君の所に行ってきますね」


「ギョ!」



 ザカにそう言うと、私はカトル君のいる方へと向かう。広場の中央には、大きな焚火とその周りで踊っているフィッシュメン達と、ルシエルやカルビ。そこを大きく迂回して辿り着いた。



「カトル君!」


「あ、ルキア」


「これどうぞ食べてください。ザカがカトル君にって」


「へえ。もしかしてこれ、ヌマグロの肉?」


「はい、美味しいですよ」



 カトル君は、ガブリとヌマグロの肉に被り付いた。すると目を見開いて何度も頷いた。



「美味しい!! これは美味しいよ、ルキア」


「えへへ、良かったです」



 カトル君の座っている隣に、さりげなく座った。



「カトル君は、フーナさんの事……好きなんですね」


「……うん。でも僕はヒュームだ。人間なのに、魔物に恋なんかして可笑しいと思うかい?」


「どうでしょう……私には正直解りません。でも、相手を好きになるのにその相手がヒュームであるとか、エルフであるとかドワーフであるとか、魔物であるとかそういうのは関係ないと思っています」


「……そう……だよね」



 カトル君の目線は、大きな焚火の前で踊りに夢中になっている、ルシエルやカルビに向けられている。更にその向こうでは、ウオッシュさんとフーナさんが、仲睦まじく一緒にヌマグロの肉を切り分けたり、焼いたりして調理をしている。



「フーナさんとは、私も少しお話しました。それで……とてもいい人だと思いました」


「僕もそう思った。彼女を初めて目にしたのは、『ヘドロプール』。ははは、物凄い名前だよね。でも僕にとって、そこで華麗に泳いでいる彼女は天使のように見えた。いや、彼女は魚の魔物だから、この場合は美しい人魚って言った方がいいのかな」


「でもフーナさんには、ウオッシュさんっていう同じ種族の彼氏さんがいます」


「解っているよ……解っている……フーナの事を本当に思っているのなら、僕にできる事は彼女を祝福してやる事なんだなって……それは解っているよ」



 カトル君の目。そこには、確かに諦めのようなものが見えた。

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