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第1010話 『ヘドロプール その3』



 ヌマグロとの激しい追いかけっこは、続いていた。


 湖のように巨大な沼。そこで私はルシエルと共にザカの背に乗って、追ってくるヌマグロから全力で逃げていた。でも追いつかれそう。後ろを振り返ると、巨大なヌマグロが、私達を食べようと大きな口を開けてどんどん迫ってきている。


 私はルシエルの身体に抱き着いて、叫んだ。



「ルシエル!! ルシエルー!!」


「なんだ、ルキア!?」


「このままでは、追いつかれてしまいます!! どうしますか⁉」


「どうしますっつったって、あのデカいのを狩りに来たんだから、狩るしかないっしょー!」


「どうやって?」


「どうやってって……あのデカさだからなー。普通に弓を放った所で、大してダメージを与えられないだろうしな。さて、どうするかなー」



 今まさに巨大魚に追われて食べられるかもしれないのに、ルシエルはそれほど焦った素振りも見せずに首を捻って考えていた。そして、背に私達を乗せて猛スピードで泳ぎ続けているザカに言った。



「ザカ、このままじゃオレ達、アイツに喰われるよな」


「ギョ! ソウダナ。コノママ、オデモエンエントオヨイデハ、イラレナイ。ソノウチ、オイツカレテクワレル。トテモ、オイシク」


「えええ!! そ、それって……」


「落ち着けルキア。狩りは、まだ始まったばかりだろ? 狩りっていうのはな、時にはチャチャーーって獲物を狩る時もあるし、時には仕留められるチャンスを気長に待って、根性比べしたりする事もあんだよ。だからこう、臨機応変にだな」


「それで、今の状態はどちらなんですか?」


「そうだな。まだ解らん」


「わ、解らんって……」


「だって、こんなデカい魚、狩るどころか今まで遭遇した事もないんだもん。なははは、まあ心配せんでも、なんとかならーな。ザカ、あっちへ向かって泳いでくれ」



 ルシエルはそう言って、向こうを指さした。先に見えるのは、陸。



「イッタン、ニゲルノカ?」


「うーーん、ちょっと違うな。まあオレにいい考えがあるからよ! こういう魚は体力ありそうだし、小手先程度の攻撃じゃダメージにもならんだろうから、やっぱ一気にケリをつけた方がいいと思ってな」


「それで、どうするんですか?」


「まあまあ、直ぐに解るさ。そんじゃザカ、あいつをこのまま引っ張っていきながら、あっちの岸を目指してくれい!!」


「ワカッタ、マカセロ!!」


 キシャアアアア!!




 ヌマグロが更に速度を上げてきた。大きな口。ザカも、同じように速度を上げて逃げる。陸。向こう岸を目指して泳ぐ。すると更にヌマグロは、物凄い勢いで迫ってきた。


 もしかして私達が陸に逃げようとしているのに気付いて、全力で追ってきているのだと思った。



「よっしゃ!! もう直ぐだ!! 陸が見えてきたぞーー!!」


 キシャアアアア!!


「こ、このままじゃ食べられちゃいます!!」


「大丈夫、間に合う。それに食べられるとしても、まずは後ろに乗っているルキアからだろうし。ヒャッヒャッヒャ」


「そ、そんな! 冗談でも怖い事を言わないでください!!」


「ルシエル!! リクダ!! ドウスル!?」


「そのまま突っ切って陸にあがれ!! その瞬間、カーブだ!!」


「カーブ?」


「横に曲がれ。奴は陸にあがれない。だから最後の最後に力を振り絞ってオレ達を、一呑みにしようとしてくるはずだ!!」


「ギョギョ! ワカッタ!! イクゾ!!」


 キシャアアアアア!!



 陸の手前。そこまで泳ぐと、誰かがいるのが見えた。ノエル⁉ 私達の向かっている先にノエルが立っている。



「ルシエル!! このままじゃ、ノエルが!!」


「だから大丈夫だって。ノエルは、それを解っていてあそこで突っ立ってんだから。ほら、もう喋るな! 舌を噛むぞ!!」



 岸に到着した所で、後ろから巨大な何かが物凄い勢いで覆いかぶさってくるような感覚に襲われる。振り向いて見ると、恐怖で身体が硬直した。ヌマグロの巨体が沼から勢いよく跳び上がり、私達の方へ向かって飛んできていた。ルシエルがザカに叫んだ。



「今だ、カーブ!! 曲がれええええ!!」


 グオオオオオオ!!



 ルシエルに、思い切りしがみつく。ザカは岸の手前で身体を横に倒すと、急カーブした。巨大な口を開いて飛んでくるヌマグロ。食べられるという所で、ギリギリ回避。でも、ノエルが――



「ノエルーー!!!!」


 ボゴオォォォ!!


 ギャアアアアアア!!



 振り返ると、ヌマグロの巨体が一回転していた。



「え?」


「よく見ろ、ルキア」



 宙を回転して落ちてくるヌマグロ。ノエルも一緒に落ちてきている。そして拳を振り回していた。



「も、もしかして……」


「飛んできたヌマグロの顎に、強烈な一発。相変わらず、とんでもねえパンチ力だよなー」


「パ、パンチ……」


「でも流石にこのデカさの魚だ。これだけじゃ、仕留めきれないだろう。だからとどめを決めてやらねーとな」


「ルシエル?」


「とうりゃーー!!」



 ルシエルはそう叫んで、ザカの背から飛び降りた。私は慌ててザカの背に抱き着く。


 そしてルシエルは背に手を回すと、弓を手にして構えた。矢は添えてない。



「それじゃ、これでとどめだ!! 光よ!!」



 ルシエルの弓が光り出して、輝く。そして弓に光の矢が現れた。ルシエルはそれをヌマグロに向けて放った。



「喰らえ!! シャイニングフェアリーアロー!!」


 バシュウウウウウウ!!



 光の矢は凄まじい勢いで飛んでいき、ヌマグロの丁度エラの辺りを貫いた。衝撃でヌマグロの巨体は、飛ばされて陸地に打ち上げられた。

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