第101話 『決闘 その2』
マリンに攻撃を仕掛けた。槍で突き刺そうとしても、マリンは水の壁を作る魔法噴水防壁を正面に作って巧みにかわす。――駄目だ! 攻撃が通じない。
「テトラちゃん!! 二人で力を合わせて戦わないと、とてもこの水の悪魔には勝てない!!」
「やああああ!!」
ルーニ様を早くお救いしなければならない。その焦りが私の眠っている力を呼び起こしたのか、ホーデン湖の時のように、4本の尻尾のうち、1本が光り輝き始めた。
――――これならいけるかも。
勢いをつけて突っ込んだ。渾身の力を込めて槍を突き出す。なんとか噴水防壁を貫通させて、突き刺す事はできたけど、もうその後ろにはマリンの姿はない。水の壁を張ると同時に即座にそこから移動しているのだ。マリンは水属性魔法専門と言った感じで、ウィザードとして偏りはあるけれど高い魔力だけでなく、かなり戦い慣れている様子が伺えた。こんな相手と戦わなくてはいけないだなんて…………だけど、弱音を吐いてはいられない。
アーサーも間を置かずに、マリンを追いかけ巧みな攻撃を繰り出しているが、全くその動きを捕らえられずにいる。
「早く行かなきゃいけないのに!! だけど、マリンを倒してからじゃないと、ルーニ様とセシリアさんの所へいけない! こうなったらーーっ!!」
尻尾が光り輝く。私は、槍を正面で回転させながらマリン目がけて突撃した。マリンはそれに対して、こちらへ手を翳して魔法を詠唱している。水魔法が来る! だけどこれを耐える事ができれば、マリン目がけて槍を投げ放って倒せる。そうすれば結果、マリンの命を奪ってしまうかもしれないが――――マリンはセシリアさんを背後から突き刺した。だから、そうなったとしてもこれは、仕方がない。こんな状況では、そう思うしかないと思った。
「ほほう。突っ込んで来るのか。まあ、君達の攻撃は、距離を詰める――それしかないもんね。《水玉散弾》!!」
「はあああああ!!」
無数の水の弾が散弾のように飛んでくる。槍の回転で弾ききれない分が、身体に当たる。だけど、痛みなど感じている暇はない。私はマリンのすぐ正面まで距離を詰める。槍を思い切り振りかぶった。
「マリン!! 覚悟して下さい!! やああああ!!」
投げる直前、マリンが両手を私の方へ翳した。もう一発何かくる!!
「君のその根性には頭が下がる思いだ。だが、ちょっと惜しかったね。《水蛇の一撃》!!」
マリンの両手から、凄まじい勢いで大量の水が放出される。私は。それを全身で浴びて後方の石壁に勢いよく叩きつけられた。ドスンっという音と共に石壁が砕ける。強烈な衝撃。私は、自分の肋骨が何本か折れたのが解った。
「ぐはああっ!!」
私が吐血すると、マリンは一瞬それに気を奪われた。その隙を狙ってアーサーがマリンの心臓をレイピアで串刺した。
「う……なんてことだ……迂闊だった……ごふっ……」
マリンも私と同じく倒れた。立っている者は、アーサーひとり。
「アーサー……」
「なんとか、倒すことができたね。大丈夫かい? テトラちゃん」
心配した表情のアーサーが駆け寄ってくる。指を動かすと動いたので、足を動かしたらなんとか立ち上がる事ができた。だけど、肋骨が猛烈に痛い。
まだいるかもしれない敵と戦うというよりは、杖代わりにしたくて自分の槍を拾った。すると、それと同時に私の長い髪の毛が、突風が巻き起こったかのように舞い上がった。
――なに?
何か物凄い貫通力のある何か、大きな矢のような衝撃が私の頭の上を通り過ぎたのだ。それが飛んできた方を振り返ると、そこには、こちらにレイピアを向けて構えているアーサがいた。
「ちぇっ! なんて事だ! 運良く、この僕の渾身の竜砲撃を避けるなんて!」
「え? アーサー。これは、どういうことですか?」
「あちゃーー、残念。もうちょっとで、楽に天国に送ってあげたのになーー。セシリアちゃんもテトラちゃんも、とっても僕好みで可愛いから、できるだけ苦しませたくなかったんだけどなー」
私はそのアーサーの言葉に、今想像できる最悪の展開を脳裏に思い浮かべた。
「も……もしかして、アーサーがセシリアさんを⁉」
アーサーは、微笑んだ。
「じゃあ、マリンは?」
心臓を貫かれ、横たわるマリンに目をむける。ぐったりしていて、動かない。――――マリンは、敵じゃなかった? じゃあ、死んだマリンは…………
――ドウゥッ
刹那、太ももに激痛が走る。
「痛いっ!!」
スカートに血が滲んでくる。大腿部を一瞬にして、レイピアで突き刺された。――――あれ? これ、どこかで?
「さあ、どんどん行くよーー。じっとしてくれれば、すぐに天国にいけるけど、抵抗すると苦しむよ。フフフフ」
「なな……なぜ、こんな事をするんですか? わわ……私達は、仲間じゃなかったのですか?」
仲間と聞いて、アーサーの目が鋭くなった。
「それを言うなら、敵じゃなかったんですか? だよ。だって、僕らの出会いは決闘からスタートしたろ? 覚えているかい? テトラ・ナインテール」
「え? どういうことです? いいい……言っている事が解りません」
「その太ももの傷、血がべっとりとついたスカートを見て、何も思い出さないかい? あの時、陛下に言われて手加減せざるを得なかった僕を、君は容赦無く、思い切り大鎌でぶん殴ったろ? まだ、あの時の後頭部の痛みが忘れられないよ」
!!!!
思い出した。ルーニ様誘拐に手を貸してしまった事と、ルーニ様を救出できるかどうか確かめる為に陛下に呼ばれてテストだと言って戦わされた時の二人目の相手。面をつけていたし、その時に会話もしなかったから、気づけるはずも無かったけど、言われてみれば使用している武器も、あの時そこにいた剣士と同じレイピア。太刀筋も似ている。
「じゃあ――あなたは、クラインベルト王国の騎士なんじゃないですか! それならすぐにルーニ様をお救いしなければ、ならないでしょ! こんなところで争っていていいんですか? セシリアさんにマリンまで…………私達の味方じゃないんですか?」
「味方? もちろん、ルーニ様は僕が責任をもってお救いするつもりだよ。だけどさー、英雄ってのは一人でいいと思わないかい?」
「な……なにを……まさか!」
「フフフフ。陛下が君達だけを頼りにしている訳ないだろ? だって、一国の王女が誘拐されたんだよ? 君達の他に、僕……その他、計8組が陛下の命で王国から、ルーニ様救出に向かったんだ。だから救出に旅立った組は全部で、10組だね。…………でも今残っているのは、君と僕だけ」
「10組も……でもそれなら、ここに他の人達も到着しているはずじゃないですか⁉ なのに誰ひとりとして、目にしていないのはいったいどういう事なんですか?」
アーサーは、悲し気な表情をして見せた。
「他の人たちは、全部僕が葬ったよ。僕の手柄の為にね! まったく、可哀そうな事をしたとは思っているよ。でもこれで僕は、大出世できる。上手くいけば、救出したルーニ様と結婚できるかもしれない。そしたらどうなる? ゆくゆくは、僕は王になる! フハハハ」
ルーニ様を助けなければならない。それは、私であってもアーサーであってもいい。だけど、なんだろう。この人にルーニ様を預けてはいけない気がする。それに、セシリアさんやマリンの事。
肋骨の痛みに、太ももからの出血。砦の兵にシャノン、そしてマリンと続く連戦に次ぐ連戦。凄く、身体中痛いけど、まだ私は戦える。そう自分に言い聞かせてアーサーに向かって槍を構えると、再び尻尾が輝き始めた。
――――――――――――――――――――――――――――――――
〚下記備考欄〛
〇テトラの尻尾
テトラは九尾と呼ばれる、狐の獣人の中でも伝説級の獣人で希少種とも呼ばれている。しかし、本来尻尾が9本あるはずの九尾だがテトラには4本しか尻尾がなく、その力も九尾にしては非常に低い。しかし、尻尾は4本しかないがその力を使えば自身の力を大幅に向上させる事ができる。4本の尻尾で4段階の力の開放ができるが、体力を消耗する為普段はあまり使わない。力を使うと尻尾が発光する。
〇ホーデン湖 種別:ロケーション
テトラたちが攫われたルーニを追って縦断した湖。その湖を住処にしていた半魚人の魔物サヒュアッグの群れに襲われ、テトラは尻尾の力を使ってなんとかしのいだ。
〇噴水防壁 種別:黒魔法
中位の、水属性魔法。目前足元から水を横一列に魔力で作った水を吹きあがらせて壁を作る。水の壁であるが、魔力で生成しているためその強度も術者に比例する。
〇水蛇の一撃 種別:黒魔法
中位の、水属性魔法。魔力で作り出した大量の水を掌から一気に放水する魔法。中位魔法だが、その中でもトップスクラスに位置する威力があり、目標を凄まじい水圧で押し潰す。
〇竜砲撃 種別:剣術
アーサーの得意とする剣術。タメた所から、凄まじい勢いの突きを発射する。その威力はまるで巨大なボウガンの矢の一撃。突いた更に後方まで撃ち抜く。




