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第1009話 『ヘドロプール その 2』



 ザブーーーンッ!!



「ヒャッホーーーーイ!!」


「ちょ、ちょっとルシエル!! あまりはしゃがないでください!!」


「シッカリ、ツカマッテイロ!!」



 ザバババババ!!



 私とルシエルが、揃ってザカの背に乗ると、彼は大きく跳躍して沼へ飛び込んだ。泥の飛沫が飛び散って、ノエルが悲鳴をあげる。ルシエルは、大笑い。


 ノエルの悲鳴を背に、私達3人はこのフィッシュフォレストにある、凄く大きな沼の中を突き進んだ。


 大きさは、非常に大きいということ以外は詳しくは解らない。なんとなく、クラインベルト王国にあるラスラ湖位のサイズかなと思った。


 ラスラ湖は、一度だけ行った事がある。とても綺麗な湖で、クラインベルト王国では3本の指に入る位に綺麗な湖として有名な場所として知られている。


 アテナやルシエルも、私と出会う少し前にそこでミャオやローザさんという人と、湖畔キャンプをしたらしく、その話を聞いて羨ましいと思って、心のどこかでラスラ湖というワードが残っていたのかもしれない。だから、なんとなくそう思ったのかも。


 でもザカやフィッシュメンの村の皆には申し訳ないけど、この『ヘドロプール』は見渡す限りドロっとした沼で、透き通るような水のラスラ湖や、ミューリやファムと旅したノクタームエルドにある地底湖の透明度とは大違いだと思った。


 そんな事を考えながらも、私達はヌマグロを探す。ルシエルは、とても楽しそうな声をあげていた。



「うっひょーーーい!! こりゃええわ!! ザカ、もっとスピードでる?」


「え? ちょっとルシエル、これ以上は……」


「デルゾ。デモ、フリオトサレナイカ?」


「大丈夫だ。な、ルキア」


「だ、大丈夫じゃないですよ!! っきゃああ!!」


「いっけーーー、ザカーーー!!」


「シッカリツカマッテイロ!!」


 ザバアアアアア!!



 大きな沼の中を、凄まじい速さで移動する。他のフィッシュメンもそうだけど、ザカは陸では普通の人間とほとんど変わらない動作だった。歩く速度もそうだったし。でも泳ぎは、まるで飛んでいく矢のように早い。



「きゃああああ!! こ、怖い!! 怖いです!!」


「ヒャッホーーーーーイ!! 大丈夫大丈夫。ルキア、しっかりとオレに掴まっていろよ」


「つ、掴まっていろって……そもそもヌマグロを狩りに来たのに、こんなに速度を出す必要ってあるんですか!!」


「え? それは……」



 ルシエルが言葉に詰まると、ザカは速度を落とした。



「ナイナ。オアソビハ、コノヘンニシテ、ソロソロヌマグロヲサガソウ」


「ちゅーーーっす」


「あ、ありまりふざけないでくださいね。村じゃ、カトル君も待っているんですから」


「そうだな。早く、カトルの奴を牢から出してやらねーとだしなー。そんじゃまあ、探し始めるか。ザカ、ヌマグロがいそうな辺りに向かってくれ」


「ギョ! ワカッタ」



 見る限りでは、いない。でもこの大きな沼の何処かに、ヌマグロは潜んでいる。パッと見渡していないという事は、沼底にいるかもしれない。ルシエルもそれに気づいたのか、ザカにその事を尋ねた。



「見る限りいないなー。こりゃ、沼の底に沈んでいるのかもしれないな。ヌマグロってのは、でかいんだろ?」


「デカイ」


「ならこの沼は、相当深いって訳だ」


「フツウニフカイ。モチロン、アサイバショモアルガ」


「そうか。じゃあ、あまり沼になんて潜りたくないけど、潜るしかないかー」


「それじゃ、やっぱり服を脱いでくれば良かったですよ」


「ソレハ、ヤメタホウガイイ」


「え? なぜですか?」


「コノモリ、ヌマニハ、サマザマナ、マモノガイル。キケンナヤツモ。ダカラ、チャントフクヲキテイタホウガイイ。タトエ、ヨゴレテモ、フクハ、アラッテカワカセバイイカラ」


「危険な魔物ですか。確かにフィッシュフォレストに入ってすぐに、泥濘でそういう魔物は見ました。そうですね、言われてみれば確かに服は着ていた方が、安全かもしれない。それじゃこのまま行きましょう。いいですか、ザカ」


「イイヨ。デハ、モグル。ルシエルト、ルキアハ、シッカリト、メヲフサイデオケ」


「ザカは大丈夫なんですか?」


「ギョギョ! オデハ、ダイジョウブ。シカイハワルイガ、ドロノナカデモ、メハアケテイラレル。マカセロ」



 私とルシエルは、頷いてザカに任せた。そして目を瞑る。


 次の瞬間、沼の中に潜ったのが解った。目を閉じても解る。泥沼の中を、ザカが背に私達を乗せて直進している。私は泥に身体を持っていかれないように、ルシエルの背中にしっかりと抱き着いた。ルシエルはルシエルで、ザカに抱き着いている。


 泥の中を進む。少し進むと、曲がった。目を閉じていても、右に曲がったのか左に曲がったのか解る。ザカから、伝わってくる。どちらにしても、泥の中で視覚は役に立たない。だから目を閉じていても同じ。身体で感じるしかない。


 何度か曲がり、真っすぐに泳いでいると何かを感じた。泥の中、目も開けられなければ会話もできない。だけど周囲にある泥から伝わってくるもの。何か、振動のようなものが近づいてくる。物凄い勢いで、それは私達を追ってくる。


 泥に身体を持っていかれないように、思い切り前傾姿勢になっているルシエルの身体が僅かに動いた。すると沼の中を泳いでいたザカは、水面の方へと上昇し始めた。



 ザアッパアアアア!!


「プハーーー! く、苦しいい!! でもなかなか泥の中を泳ぐっていうのは、面白いものだなー」


「そんな事より、ルシエル!!」


「ああ、どうやら獲物が餌に喰いついたようだな。まあこの場合、餌っていうのはオレ達の事だから、実際喰いつかれたら大変だけどな。アハハ」


「そ、そんな餌に喰いついたって……」


「ルキア、ルシエル、キヲツケロ!! キタゾ!!」


 ザブウウウウン!!



 巨大な沼。まるで沼に爆発物でも投げ込んだように、飛沫が舞い上がり大きな魚が姿を現した。そして大きな口をバックリと開けると、私達の方へ物凄い勢いで迫ってきた。



「きゃあああ!! 襲ってきた!!」


「あれがヌマグロかー。よし、とりえず狩る方のオレ達が喰われちゃまずい。ザカ、ひとまず逃げよう!!」


「ギョギョ! ワカッタ!」


 キシャアアアア!!



 凄まじい勢いで、追いかけてくるヌマグロ。あれだけ大きな口だと、私達3人なんてきっと、ひと呑みに食べられてしまうだろう。必死に逃げる。全力。決して諦める気のないヌマグロ。


 こんなとても恐ろしい状況に陥っているのに、ルシエルはニヤニヤととても楽しげに笑っていた。

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