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第1004話 『ヌマグロ その1』



 村の広場で横たわる、フィッシュメン達。銛が転がっている所から、村の戦士だと解る。


 向こうで子供達と一緒にいたルシエルとカルビが、私に気づいてこちらに駆けてきた。



「どうしたんだ? 何かあったのか?」


「解りません。でも、怪我を負っている所から、何かに襲われたのかも」


「何かってなんだ? もしかして、人間……冒険者か⁉」



 ルシエルの言葉に、ドキッとする。フィッシュメン達と接するうちに、彼らが私達にとってとても友好的で、仲良くできる種族だと解った。でもこのパスキア王国では、彼らがどんな扱いを受けているのか、私達にはまだ解らない。この森に来るまで、彼らの事を知らなかったし……


 族長が現れた。



「ドウシタ? ナニガアッタ?」


「オオキナ、エモノダ!! カナリ、オオキナエモノ!!」



 ルシエルと顔を見合わせる。



「今……大きな獲物……っていいましたよね」


「なんだ、獲物って。もしかして、アレか。獲物と言えば、狩りだろ! そうなのか!?」



 ルシエルは、冒険者でありハイエルフでもある。そしてクラスは【アーチャー】で、狩りを得意としている。だから直ぐに族長の言葉を聞いて、ピンときたのかもしれない。



「これは、ちょっとアレだな。なんか、オレの中で何かがワクワクし始めたぞ!」


「っもう、ルシエル! 怪我をしている人もいるんですからね、不謹慎ですよ!」


「まあ、そりゃそうだ。だけどよ、もしそうならオレ達が手伝えるんじゃないかなーつって」


「それはそうですけど……」



 倒れているフィッシュメンの1人が起き上がった。皆、彼の名を口に出す。彼は、フーナさんの恋人のウオッシュさんだった。



「ヌマグロダ!!」


『ウオオオオオオーーーー!!』



 ウオッシュさんの言葉に、広場に集まったフィッシュメン達は、歓声にも似た声をあげる。ヌマグロダって言ったけど……ヌマグロ?



「ルキア。ウオッシュの奴、今なんて言ったんだ? ヌマグロダって言った?」


「いえ、ヌマグロ……では、ないでしょうか。確か、そんな魔物が本に載っていたような気が……」


「おおーー、魔物の事ならなんでも載っている、あのルキア大辞典だな!! アレ役に立つよなー!! ちょっと見せてくれよ」」


「ルキア大辞典ってなんですか、っもう」



 アテナからもらった、色々な魔物が記された本。今、ザカの家に私達は荷物を置かせてもらっているけど、その中にある。ザックの中。早速取りに行こうとすると、ルシエルが私の腕を掴んだ。



「え? ちょっと」


「ちょい待ち。やっぱ、後でいいや」


「えーー。っもう、どっちなんですか」


「ハハハ。ほら、ウオッシュが続きを話すぞ!」


「トテモ、デカイ、ヌマグロダッタ。アレハ、イイモノダ!」



 族長は、ウオッシュさんに目を向けて問う。



「ドレホドダ」


「カナリダ」


『ウオオオオーーー―!!』



 またも歓声に似た、皆の声が上がる。ルシエルが、ケラケラと笑った。



「アハハハハ、絶対ウオオオーってさ、(うお)とかけているよな、こいつら」


「え? え? そうですか?」


「まったくルキアは、このセンスが解らねーのかよー。まったく、お子ちゃまだなー」


「解りませんよ。でも今ので、皆に何が起きたのかだいたい解りましたね。ヌマグロです。感じからいっても、ウオッシュさん達は、そのヌマグロを狩ろうとして逆にやられちゃったみたいですね」


「そうだな。でも皆、大騒ぎしてっけど、その獲物の大きさが解んねーぞ」


「カナリダ……だけじゃ解りませんもんね」



 でも広場に集まった者達には、それでも獲物であるヌマグロの事を知る、十分な情報だったようだった。皆、頷いている。族長は、更にウオッシュさんに問いかける。



「ソレホドノ、ヌマグロナラ、シトメレバ、カナリノショクリョウニナル。オマエニ、シトメラレルカ、ウオッシュヨ?」



 俯くウォッシュさん。



「ヤッテミテモイイガ……ヤツハ、ホントウニデカクテ、ツヨイ。コンドハ、ダレカヤラレルカモシレナイ」


「ヌヌヌ……ソウカ。ナラ、アキラメルシカナイカ……コレイジョウ、ダレカキズツイテモコマルシ、シヌコトモアリウル」



 ざわざわと、し始めるフィッシュメン達。その中には、残念がっている者や悔しがっている者もいるようだった。ルシエルがパンパンと拳を打ち鳴らして呟く。



「仕方ねーなー」


「え? 仕方ないってなんですか?」


「そんなん決まってんじゃんか!」


「手伝ってやるって事だろ? いいんじゃないか、別に」



 今度は、ノエルの声。振り向くと私とルシエルの後ろに、いつの間にかノエルが立っていた。



「でも私達は、カトル君をラトスさんのもとへ返すっていう、別の目的でここへ来たんじゃないですか?」


「じゃあ、手伝ってやらないのか? そんなのルキアらしくないぞ」


「え? そりゃ、私達にできる事であれば、お手伝いしますけど……」


「うしゃ! じゃあ、決まりだな」



 あれ? これでいいのかな? なんとなく、ルシエルとノエルに乗せらてしまっている気がする。だけどアテナだったら、確かにこの村の人達を助けるかもしれない。


 私達の会話を、近くで聞いていたザカが言った。



「イマ、ハナシテイタハナシ、ホントウカ?」


「え? あっ、はい。私達、冒険者ですし、もしお力になれるなら……」


「ギョギョー! ヌマグロハ、キケンダゾ」



 やっぱり危険なんだ。ヌマグロ……どういう魔物だったか思い出せない。だけど本には、確かに載っていた気がするので、必死に思い出そうとしてみる。もしも、とんでもない魔物だったら大変だし……


 するとルシエルとノエルは、ニヤリと仲良く笑った。



「大丈夫、大丈夫! これでもオレら、ちょっと腕には自信があるんだぜ! そのヌマグロっての、オレ達が狩ってやるよ。なあ、ノエル」


「そうだな、任せろ、協力してやる。だけどな、冒険者ってのは本来依頼を受けて、それを達成して報酬をもらう者だ。そのヌマグロ、あたしらが見事に仕留めてやるから、そしたらその報酬として、カトルを開放しろ」



 ザカは頷いて、族長の方を見た。対してウオッシュさんは、ブンブンと顔を左右に振っている。



「コノモノラガ、ヌマグロヲシトメルダト? ワレラ、フィッシュメンノセンシデモ、テコズルアイテナノニ、アリエンコトダ。シンジラレナイ」


「マテ、ウオッシュ」



 ウオッシュさんが立ち去った後、族長は暫く私達を見つめた。広場に集まっている沢山のフィッシュメン達も、私達に目を向けて注目をしていたので、私は緊張で目が泳いでいた。だけどルシエルとノエルは、とても自信のある表情を族長に見せつけていた。



「ワカッタ。カトルハ、コンゴフーナニ、ツキマトワズ、ココヘコナイトヤクソクデキルナラバ、ノチホドカイホウスルツモリダッタ。ダガ、ヌマグロヲシトメラレルナラ、オマエタチノ、イウトオリニスル。ソシテ、オマエタチヲ、センシトミトメヨウ」



 せ、戦士? なぜ、そういう話に……


 ルシエルは、私の背中を叩いた。



 バシイッ!!


「きゃっ、痛い!」


「おっと、ごめん! 気合入魂のつもりだったが、痛かったかな。でもこれで決まりだな。オレ達がちょいと行って、そのヌマグロとかゆー魔物を仕留めてやろうぜ。感謝もされる、この村の食糧も増える、カトルも解放されて、連れて帰れる事ができる。それって万々歳だよな」


「うーーん、確かにそうですけど……」



 ザカや村の皆を助けられるのは、いいことだと思う。


 だけど、カトル君を見つけて王都に送り届けるっていうだけの話が、どんどん大きくなってきているような気もするけど……

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