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第1001話 『フーナのお・も・て・な・し』



 ルシエルとカルビは、まだフィッシュメンの子供達と遊んでいる。ノエルも何処かへ出かけているので、私とザカでフーナさんに会いにいく事にした。ルシエルにその事を伝える。



「おおー、そうか! いいんじゃねーか」


「ルシエルは、一緒には行かないんですね」


「気が向いたらいくさ。でも今は、もうちょいこの子供達と遊んでようかなー」



 エルフは、魔物を好ましく思わないみたい。だけどルシエルがフィッシュメンの子供達に向ける笑顔と、楽しそうに追いかけっこをしたり戯れている姿は、私の目には本物に映った。



「まあ、ノエルもその辺にいるだろーし、この村の奴らは、基本的に皆優しい。カトルだって、そのフーナって子を連れて逃げたりするから牢に入れられているだけで、暴力的な危害を加えられてない。素直に謝って、王都へ返してくださいって頭を下げれば帰れるみたいだもんな」


「そ、そうなんですか?」



 ザカに視線を向けると、彼は頷いた。



「カトルヲジユウニスルト、フーナノトコロニイク。ソウナルト、ウオッシュガ、オコッテナニヲスルカ、ワカラナイ。デモ、アイスルモノ、ウバワレルナラ、キモチハ、ワカル。ダカラ、ロウニイレテイル。オウトヘカエル、ヤクソクデキルナラ、ダシテヤレル」


「解りした。それじゃ、フーナさんの所へ連れて行ってください。ちょっと行ってきますね、ルシエル、カルビ」


「おう、行ってこーい!」


 ワウッ!


「キャハハ、エルフノオネエサン、コッチコッチ!」


「ごらー、なぐごは、いねがーーー!!」


「キャアアアア!!」



 あんなに子供達と大はしゃぎできるなんて……もしかしたら、ルシエルはいいお母さんになるんじゃないかなって思った。


 いつもはふざけていて、余計な事ばかりするけど、いざという時は頼りになるし、それでいて面倒見もいいし……でも私をよくくすぐったりするから……って私はもう子供じゃないんだから!



「ドウシタ? ルキア」


「え? あっ、大丈夫です。それじゃ、行きましょう」



 ザカの案内で私は、フーナさんの住んでいる家へと案内された。


 そこへ行く途中、村の中をまた見回してみたけれど、やっぱりここは大きな村だった。



「ココダ。ココガ、フーナノウチ」


「ここですか……」



 この村にある家のほとんどには、扉がない。家の出入口には、何本もの蔓をぶら下げて簾のようにして覆っている。



「フーナ!! フーナハイルカ!!」



 それでも、いきなり家の中に入る事はない。考えてみればフーナさんは、フィッシュガールだし、女の子だから勝手に家の中へ入るのは良くないと思う。



「誰かしら……」



 家の中から、とても可愛いらしい声が聞こえてきた。姿を見せる。ピンク色の魚人……



「あっ、あなたは……!!」



 驚いた顔を見せる。この子がフーナさん。私達がここへ来たことは、もう騒ぎになっていたし、族長にも会っている事から村の全体が知っているはず。だから彼女が驚いたのは、その人間が自分の家にやってきた事に対してだと思った。


 あとそれにしても……フーナさんは、他のフィッシュメンと違ってとても言葉が上手い。



「フーナ。ハナシガシタイ」


「解ったわ。それじゃ、ここじゃなんだし、家の中へ入ってください」


「デハ、オジャマスル」



 ザカと一緒に、フーナの住む家に入った。


 家の中には、沢山の草を折り重ねて作った草のソファーがあった。フーナさんは、私とザカにそこへ座るように進めた。



「それじゃ、失礼します」



 草のソファーにザカと共に腰かけると、フーナさんはいそいそと何かをこちらに運んできた。緑色の飲み物と、食べ物だと思うけれど何かの乗ったお皿。



「こ、これは……ひ、ひえ!!」



 フーナさんは私の目の前に、緑色の飲み物とお皿をおいた。お皿の上には、白い何かの幼虫が緑色の豆と一緒に蠢いていた。そう、虫だけでなくよく見ると、豆もゆっくりと鼓動している。こ、これはいったいなに⁉



「フフフ、あなたは人間でしょ?」


「え? あ、はいそうです」


「じゃあ、こういう食べ物は珍しいですよね」



 あっ……やっぱりこれ、食べ物だったんだ。ザカに目をやると、幼虫と動いている豆を一点に見つめている。



「コレハ、ウマソウダ。タベテモイイカ?」


「ええ、どうぞ召し上がって。あなたは……」


「ルキアと申します。ルキア・オールヴィーです」


「ルキア。とてもいい名前。私はフーナ。人間のあなたに、私達の食べ物が気にいってもらえるか解らないけれど、良かったら召し上がってね」


「え? あ、はい!」


「シンパイナイ、シンパイナイ。オレ、ルキアタチニ、ゴチソウニナッタ。トテモウマカッタ。ツマリ、オレトルキアタチ、ソレホドミカクガカワラナイ」



 ザカの言葉に耳を疑う。


 確かにそうかもしれないけれど、こういう食べ物に関しては、人によって好みが解れるんじゃ……



「イタダキマス。モッシャモッシャモッシャ、ウマイナー!! ホラ、ルキアモタベロ! デナイト、ゼンブ、オデガクッテシマウゾ。ギョハハハ」



 食べられてしまってもいいかな……もう一度、お皿に目を向ける。見た事もない幼虫に、得体のしれないピクピクと小さく鼓動する豆。なにこれ、なにこれー!! や、やっぱりルシエルと一緒にくれば良かったかな。ルシエルなら、こういう食べ物も、ペロリと平らげてくれそうだし……



「ルキア! ホラ、タベテミロ! ウマイゾーーウ!」



 ザカは、幼虫を手に取るとそれを私の口へ運んだ。うう、こうなったらもうどうしようもない。口を開ける。



「アーーーン」


「あ、あーーーん」



 口の中に、なんだかよく解らない幼虫が投げ込まれた。思い切って噛む。口の中で暴れる幼虫。するとまるで全身に電気が走ったように、耳の毛と尻尾の毛が逆立った。


 頑張って呑み込む。ごくん……


 なんとか吞み込めた。うーん、モニョモニョする。


 ちょっとまだ良かったのが、幼虫は食べたら苦そうなイメージだったのに、いざ思い切って食べてみると、実際はなぜかクリーミーで甘めの味がした事だった。

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