第1話 『森林ウルフと森キャンプ……そして私は森ガール』
※本作品ですが、より物語が解りやすくなればと各話末に〖備考欄〗を入れました。〖備考欄〗は、読み飛ばして頂いても物語には影響はありません。
話数が多く最新話投稿も行っておりますので、順々に付け足していく予定です。
――――ネバーランの森。
そこは、鬱蒼とした森だった。
そして先程から、ビリビリと殺気を感じている。きょろきょろと周囲を見回してはみたが森の中は、草木が生い茂っていて見通しが悪くしっかりと確認はできない。だが、確実に何かに狙われていた。
「魔物かな。恐らく何処かに魔物が潜んでいて、じっとこちらの様子をうかがっているのかもしれない」
ぼそりと呟くと、背負っていたザックを地面に置いた。そして、ザックの中から大きな葉に包んだグレイトディアーの肉のブロックを取り出す。その肉をナイフで少しカットすると、その辺に生えている木から手頃なサイズの葉を引きちぎり、その葉に切り取った肉を乗せて地面にそっと置いた。
―――――よし!
剣を抜く。――――暫くすると、置いた肉につられて草木の陰から15匹ものウルフが姿を現した。
ガルウウウウウウウ
こんな鬱蒼とした森で人間一人……しかも女。この数のウルフに取り囲まれたなら、普通の女なら恐怖を感じるだろう。
だけど、私は違った。この程度の魔物じゃ微々たる恐怖も感じない。言ってしまうと、こういったシチュエーションは、極めて慣れっこなのだ。
「ふむ。ウルフか。ビッグボアかグレイトディアーだったら当たりだったんだけどなー。ウルフかーー」
頭をかいて、残念がった。本当に残念がった。本当だよ? だってビッグボアやグレイトディアーは街などに持って行けば普通に良い値段で取引できる。つまり、美味しいのだ。
だから、もしかすると、もしかするかもって期待したんだけど…………ウルフか。
しかし勝手にそんな風に思っていてもウルフ達は、そんなこちらの気持ちなどは、お構いなしに距離を縮めて迫りくる。私を獲物として認識しているからだ。だけど、きっと後悔するよ。間もなく自信満々のウルフ達は、実は立場が逆だったって事をこれから思い知るのだから。フフフフ。
「あっ……でも、確か以前何処かの村で森に出てくる森林ウルフは、荒野などに生息しているウルフと違って美味しいって言っていた人がいたっけ?」
よだれ……気が付くと、今私に襲い掛かろうとして卑しくよだれを垂らしているウルフ達と同じく、私もウルフを見てよだれを垂らしている事に気がついた。全くお恥ずかしい。はたから見ると、双方よだれを垂らして向き合っているという異様な光景。…………ハンカチを取り出してよだれを拭く。
……ごしごし。
すると、その動きに反応して1匹が飛び掛かってきた。軽く、避ける。続けて3匹飛び掛かってきたので、今度は避けるついでに剣で斬りつけた。悲鳴と共にウルフ達が距離を取る。斬りつけたウルフのうち2匹は、首を狙って斬ったのでその一撃で絶命していた。
更にウルフ達に向かって左手を突き出し、火球魔法の魔法を詠唱し始めるとウルフ達は、四散。逃げ出した。
「去ったか……まあ良しとしよう。もう、襲って来る事はないだろう」
その場には、倒したウルフ2匹が転がっていた。それを見つめる。またよだれ……そして、
グーーーーーー
――――腹の音。
「あっ。お腹、鳴った! ………………ふーーーーむ。こうなってしまっては、森林ウルフが美味いって言う話を本当か嘘か検証する必要があるわね。決めた! 今日は、ここでキャンプを張ろう」
決断すると、早い。いそいそと荷物から、聖水を取り出して周囲に撒く。魔物避けだ。これをやっておくだけでも、低級の魔物は寄ってこない。でも、つい忘れがちなんだけどさ。
テントを取り出して組み立てる。丈夫で簡単に組み立てられるうえに自分好みの可愛いテントで、気に入っているんだけどもなかなかのお値段だったのは、言うまでもない。しっくしっく……。
テントの組み立てが終わったら、今度は周囲で薪を拾ってきて焚火を作る。枯れたスギの葉を焚火場所の中心に置いてその上に、十分に乾いた枯れ木をセット。
「よし! 準備完了ね」
マッチを擦ってスギの葉に点火。スギの葉は、みるみる燃え上り枯れ木に火が燃え移る。焚火の出来上がり。パチパチと木の燃える音が心地いい。
ここは、鬱蒼とした森なのでそもそもそんなには、日が差し込まないがそれでも夜よりは明るい。だから、暗くなる前に森林ウルフの解体も済ませる。
荷物からロープを取り出し、2匹とも後ろ足を縛って木に逆さに吊るす。倒すときに、意図的に狙って首を斬ったのでそこから大量に出血しており、すでに多少の血抜きはできている。でもそれだけじゃ足りないので、こうして更によく血抜きをするのだ。
剣を抜いて吊るしたウルフの前に立つ。剣を横一閃。一刀のもとに森林ウルフの首を斬りとばした。大量の血。斬りとばした頭は、内臓や骨などと一緒に地面に穴を掘って埋める。こういう作業も簡単に行えるようにザックには、最近購入した組み立て式のシャベルが入っている。
次はナイフを取り出し、森林ウルフの皮を剥いでいく。これも、慣れるまではとんでもなく時間はかかるわ、筋肉痛にはなるわだったが今の私にとっては、ウルフ2匹位じゃすぐに作業は完了する。
フフ……手慣れたものよ。
内臓も傷つけないように綺麗に取ると、次はいよいよ肉だ。骨から順に肉を削いで切り取っていく。
気が付くと、夕方になっていた。
「はあーー、終わった。じゃあ、ちょっと早いけど晩御飯にしよう」
鍋に水を注ぎ、火にかける。そこへ、森林ウルフの切り分けた肉と骨を入れる。骨は良いダシになる。
暫く、火をかけるといい匂いがしてきた。――いいね。更にそこへ森を歩く途中で見つけて採取していた野草とキノコを投入。
味付けに塩と胡椒。胡椒は、高級品だが冒険者になる時にいくらか持ってきたのだ。料理には、絶対かかせないと思っている。簡単に手に入ればいいんだけどなあ。
そして、また暫く火にかける。煮立ってくるとアクが出てくるので、大きな木のお玉で取り除く。お玉は、一生懸命ナイフで削って作ったお手製だ。
「よし、そろそろできたかなー」
スープを掬って顔に持って行くと、たまらない匂い。――――味見。
「美味い!! 森林ウルフが美味しいって話は、本当だったわ! こんなに美味しいなら売れるかもしれないわね。…………これは、いつかまたその事を教えてくれた人に出会ったら、お礼を言わないとね。香ばしくて、弾力があって美味しい肉。そう……まるで口の中で、森林ウルフが駆け巡っているみたい」
お腹が減っていたというのもあるが、あっと言う間に平らげてしまった。
食事の後片付けをした後、今度は小さな鍋でもう一度湯を沸かした。そして、そのお湯でお茶を入れた。
そして一息ついたら、火を絶やさないように焚火に薪を追加してテントへ入って横になった。
毛布に包まって目を閉じると、心地よい焚火の暖かさと木の燃える音、それに森のあちらこちらから虫の鳴き声が聞こえてきた。
――――うん。今日も、よく眠れそうだ。
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〚下記備考欄〛
〇私
めっちゃキャンプ好きの冒険者、それが私。腰には二振りの、特別な剣を差している。これがあれば誰にも負けません。
〇ネバーランの森
クラインベルト王国にある、とある鬱蒼とした森。魔物も沢山潜んでいる。
〇ビッグボア 種類:魔物
猪の魔物。森に生息している事が多い。その肉は、とても美味しいが猪同様に豚よりも脂身が多い。焼いて食べてもいいけど、やっぱり野菜と一緒に鍋がいいかも。大きい個体もいて、気性は激しく冒険者でも狩るのに緊張する。
〇グレイトディアー 種別:魔物
鹿の魔物。立派な角を持ち、追い詰められるとその角で反撃する。その一撃は強烈で、人間がまともに喰らうと死ぬ事もある。ビッグボア同様に、大型のボス個体がある。お肉はやはり美味しく、煮て良し焼いて良しの上質なお肉。冒険者はよくグレイトディアーの肉を、干し肉にして所持している。
〇ウルフ 種別:魔物
狼の魔物。森や草原、荒地、雪山と至る所に出没する魔物。集団で行動し、集団で獲物へ襲い掛かる。群れの規模が大きいと、稀にその中にボスクラスのものがいる場合がある。協調性はまあまあ。
〇森林ウルフ 種別:魔物
狼の魔物。通常のウルフと違って、森林に生息している。ウルフは雑食だが、基本的に肉を喰う。森林ウルフも雑食で肉も喰らうのだが、通常種と違うところはキノコや山菜なども好んで食べるようで、その肉は弾力があってとても美味しいと噂されている。
〇聖水 種別:アイテム
街のアイテムショップ、教会、冒険者ギルドにて販売している。グレードがあり、その効果も違う。その辺に撒くと、魔物を寄せ付けない効果があり、アンデッド系や悪魔系の魔物に対してはダメージを与える事もできる。冒険者の御守り的なアイテム。
〇胡椒 種別:アイテム
高級品調味料。もちろん村では手に入らないし、運が良ければ街で買う事もできるがコネクションがないとなかなか手には入らない。その為、コネクションを持つ料理屋や貴族、王族などが好んで手に入れる。砂糖もやや高級品である。
読者様
この作品を読んで頂きまして、ありがとうございます。
読者様より、誤字脱字のご指摘を頂きまして、修正させて頂きました。
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初めてのチャレンジで、書き出したばかりですが、少しでも皆様に楽しんで頂けたらいいなと日々思いながらも一生懸命書いてますので、よろしければ引き続きどうぞよろしくお願い致します。(´ω`)