異変
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あぁ。何か今日の私、変だなぁ……。
異変に気づいたのは、コンベアに流れてきた商品を掴んで、包装機に入れる作業中での出来事でした。突然、強い睡魔に襲われそうになったので、瞼を常にパチパチと見開いては、なるべく下を向かないように前を向いたりしていました。が、一向に良くなる気配がありません。
本当は早退したいんだけど、あと少しだし。どうしよう。
時間を見たら午後の3時半。なので、あと1時間ほど我慢すれば帰れると思い、頑張って仕事をこなそうとするが、未だに頭がぼーっとしていた。
そう。私を大きく悩ましている悩みは、『あまり眠れない事』です。
実は、眠ろうとベットに横になるのですが、目は瞑っているのに、何故か頭の中だけは常に起きていて、活発に動いている状態が続いてしまうのです。そのせいか、常に疲れが取れないことがあり、もう時期アラサーになる私を大きく悩ませておりました。
今日、早く寝た方が良いかなぁ。でも最近、長く寝ても寝足りない。あぁこのままだったら……。
「佐藤さん! さっき寝てたよね!?」
すると、突然、私の近くで怒鳴り声が聞こえてきました。
「いや。ちゃんと起きていましたし、変な形のも、ちゃんと捨てました!」
なので、咄嗟に反論をしました。だって、きちんと商品を見ていたのは確かだし、形が変なのもちゃんと捨てているから寝てなかったのは本当だ。
「いや。さっき白目むいて寝てたのを見たわよ!」
「えっ?」
しかし、リーダーの澤部さんはイライラした口調で言ってきたので、私も躍起になって言い返そうとしました。
でも、このまま言い合っていたら埒が明かない。と、思った私は、内心イライラしながらも、
「そう思われてしまっていたなら謝ります。ごめんなさい」
と懇切丁寧に謝り、それ以降、澤部さんには何も言わないようにしました。澤部さんは私より30程歳が離れてる人で、目も最近狐っぽくなってきていて、顔から見てもやつれているのが分かる。昔は仏のような優しい顔だったのになぁ。
それに、睡魔が襲いかかってきてからというものの、かなり風当たりが強くなってきた様な気がする。気の所為かもしれないけど、もしかしたら、知らずに意識を失ってしまっていたのかもしれない。
私はモヤモヤとした心を抱えながらも、今日の仕事を終え、送迎車に揺られながらも外を見る。すると、もう夕暮れ近くなっていた。アパートに着くと、もう空は夕焼け色に染っていて、早く愛犬のまめたろーの散歩に行かないと。と気が走る。
そして、その夜、結局は自分が悪い。自分が悪いと言い聞かせながら、早く寝ようと思い、ベットに入った。だけど、深夜1時を廻っても、なかなか寝付けず。
あぁ。寝れない! なんで!
と、夜になると頭の中で大暴れし、昼頃になると急に動かなくなったりする脳みそに、直接喝を入れたくなる。そのせいか心身共に休まらない日がずっと続いていた。
それからというものの、作業中、度々強い睡魔が襲いかかってくることが多くなったので、カフェインが多めのコーヒーを摂取したり、昼飯を食べ終わったら、昼寝をしたり。自分なりに眠気をコントロールをしようとしていたんです。しかし……
*
ある日のこと、いつも通りに作業をしていたら、
「佐藤さん!」
とまた、毎度の如く、澤部さんが突然、遠くから怒鳴り声を上げてきました。
下を向いていただけなのに、何で。怒られるんだ。
理不尽な言動に苛立ちを込み上げながらも、半分は軽く聞き流す感じで作業をしていました。
「またお前寝てたんか」
そしたら、今度は私の背後で、水色の制服を着た40代ぐらいの黒縁メガネをかけた社員が、腕を組みながら、見下した様な口調で言ってきました。
「違います。ちゃんと起きていました」
なので、また言い返しながらも作業をしていましたが、未だにモヤモヤとした気持ちが収まりません。
実は、普段は若くて、お兄さん的存在で、みんなからも絶大な人気がある優しい社員の永井さんが、目まぐるしそうに対応していたりするけど、今日は休みだった様です。
その為か、代わりにあの性格が難ありそうな曲者顔をした、社員の楠田さんが来たのです。正直迷惑ですが。
「あれ?」
そして、今度は左から右に商品が流れるコンベアの方向とは逆方向で、商品が1つ、音を立てながら私の目の前に飛んできました。
変だなぁ。と思った私は、顔を上げて周囲を見渡すと、遠くの方で笑い声が聞こえてきたのだ。
どういうこと?
状況が飲み込めなかった私は直ぐ様、澤部さんに聞いてみました。
「あのー……、さっき、作業をしていたら、商品が飛んできたんですけど、何かあったのですか?」
恐る恐る聞くと、「あぁー」と言いながら面倒くさそうにこう話してきたのです。
「佐藤さんがまた白目むいて寝ていたから、楠田さんにどうすればいいか相談していたのよ」
「相談!? いやいや。そもそも寝てないですし……」
「そしたらね、楠田さんが『アイツに商品投げれば大丈夫だろ』と言ったから、楠田さんの近くにいた川口さんに頼んで投げてもらったんだよ」
と、悪びれもない様な口調で言っては、結局「寝ていた私が悪い」と言って難癖をつけながら、その場を後にして行ったのです。
は……。え……?
暫く唖然としていた私はその日、多分、澤部さんも疲れていたんだよなぁ。目のクマ凄かったし老け込んでいたし。と自分に言い聞かせていました。
だけど、家に帰って、ベットに横になっても、未だに寝付けず。その日も自分が悪い。と泣いて責めながら、布団にくるまっていました。そして、その時から私はみんなの事が怖くなり始めて……。




