驚きの真相
*
「ただいま」
家に帰ってくると、長椅子に座った夫が「おぉ」と言いながら、電子タバコを吹かしていた。白いテーブルには、タバコ専用の葉巻が置かれている。
「まさか、本社に電話したのって、貴方?」
「あぁ。番号に書いてあった通りに押したらよ、本社に繋がってたわ」
「そう。なんて?」
まさかの行動に唖然とする私。荷物を自分の座椅子の近くに置くと、更に詳しく話を聞くために座る事にした。
「まぁ。本当は君の問題だから、あまり首を突っ込みたくなかったけど、電話越しで泣いていたからなぁ」
「……」
「正直、黙ってられなかった。だから、君が今までやられてきたことを全部を言っといたよ」
「そう……」
「そしたらさ、向こうも知らなかったみたいで、かなり慌てていたぞ」
彼はそう言いながら、コップに並々と入れられたコーラをゴクリと飲む。
「そりゃぁ……。驚くよ」
でも、まさか本社にも自分がやられた事を言ってなかった事に心底驚いていた。
もし、仮に何も言わず、このまま辞めていたら隠蔽するつもりだった? それこそ相手の思う壷だった?
そんな疑いも湧いてきた。
「だから、もしかしたらよ、事実確認という事で、また調査が入るんでないかなぁ」
「なるほど……」
「んで、ついでに労基にも相談入れといたわ」
「あぁ。なんか近々行くとか言ってたね……」
「聞いた話だと、訴えることも全然可能だとよ」
しかも、訴えると聞いて、何か大騒動になってないか? と、少し不安になってしまった。確かにやられたけど……。
「でも、手間かかるでしょ?」
「まぁなぁ……」
「実はさ、あれから声がかかって、お陰様でもう、仕事も決まったんだ」
「おぉ。そうか」
「だから、訴えるのも、もういいかなぁって思ってるんだ」
「そうか。まぁ。決まったなら良かった」
だけど、そう言うと彼は、微笑みながら電子タバコを一服吹かし、ひと安堵していた。
「うん。まさか、直ぐに仕事が決まるとは思ってなかったから、正直驚いているんだ」
「まぁ。良かったじゃねーか。始まるまでの間、ゆっくり休め」
「そうだね。今日は色々ありすぎて疲れたぁー」
そして、私は座椅子から立ち上がると、奥にあるベットへと真っ先に向かい、そのままダイブする。
あぁ。至福のベットはきもちぃぃ。このまま寝たかったが、自身の腕に取り付けていた白いスマートウォッチの液晶画面には17:30と、デジタルで表記されていた。
「まぁ。俺は君をそこまで追い詰めたパートリーダーだっけ。そいつを許すことは出来ねぇけどな」
「ん?」
「徹底的にクビまで追い詰めたいのが、本音だ」
「でも、いいよ。私は、もう平気だから」
私はダイブしたベットから起き上がり、腰掛けながら笑顔で答えた。
実はこの時、もう、澤部さんに対する復讐心とかも、どうでも良くなってしまっていたのだ。別に60近いおばさんを、人生の崖底に突き飛ばそうと思う程、私は鬼畜ではない。
「そうか。まぁ。いずれにしろ、違う形で減給にはなるんでないかなー」
そして、最後にまめたろーを撫でながらも、サラッと怖いことを言う彼の風格は、経営者そのものの様に見えた。実際は在宅で、株やらポイントで稼ぎながらやりくりしているし、ネットや法律にも強いから、本気出したらきっと怖いんだろうな。
「あ。それとさ、君が勤めていた元会社、ネット検索してたら、かなり批判が多かったぞ」
「まじ!?」
思わずおどろいた私は真っ先にスマートフォンを起動し、ネット検索に『○○食品加工会社 ○○工場 口コミ』とかける。
――上司のセクハラが酷くて、言ったのに揉み消された。
――そこの会社に勤めている人のモラルがなってない。
――運転マナーがなってない。
――看板で下敷きになって運ばれているニュースを見て、上司達が『まだ生きてるんかぁ〜』と呑気に答えていたのが恐ろしかった。
――男女共に人間性が酷い。
「ほんとだ……」
すると、コメント欄には、たくさんの批判コメントが綴られていた。実際務めていた私でも思い当たる事が全部当たっていた為、よく見ているな。と感心しながらも見ていた……、が。
「ん?」
ふと、最近書かれた所のコメント欄をみると、こう書かれていた。
――ここに務める前に、みんなのレビューを見てから考えてください。星なんてつけたく無くなりますから。 byまめちゃんねる
「まめちゃんねるって……」
「あぁ。それ、俺」
「えっ!?」
まさかの投稿主が夫だった事に驚いた私は、唖然としていた。
「ちなみに、そのレビューの事も、本社に電話した際、全部伝えといたわ。『レビューを見たら分かりますけど、かなり評価低いですよ』と」
「おぉ……」
「そしたら、向こうで対応していた人かな。直ぐに検索し始めていたようで、『これは……』て、絶句していたよ」
「……」
怒らせてはいけない人。というのは、実は身近にいたんだ。と直に感じた今日この頃だった。




