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第二十力 実行力

 河川敷で善助と優子が「白飛」と名乗る輩に襲われてから、半年が経った。

 事件後すぐに優里の実家にも連絡したが、あちらでは特に変わったことはないという。

 お互い十分用心しようという話になった。


 中里家では再度襲われた時を想定して、一番能力的に戦闘に向かない優子を一人で行動させないように、常にペアになるよう徹底した。

 「私より、お父さんは大丈夫なの?」と優子は言ったが、善一郎は「お父さんは、いざとなったら妄想の世界に逃げ込むから。」と笑って答えた。

 「いや、何度も言うけど、お兄ちゃんほどじゃないにしても、あの人たちホントにすばしっこいから、呑気に妄想してる間にやられちゃうよ?」と優子は心配そうに言うのだが、優里も「お父さんはきっと大丈夫だから。」と言うので、優子はしぶしぶ了解した。


☆☆☆


 ある4月の日曜日の朝、優子は優里に頼まれてガーデニングの手伝いをしていた。

 遅くまで受験勉強をしていた善助は、昼まで起きて来ないだろう。

 縁側でコーヒーを飲みながらガーデニングの様子を見ていた善一郎が、手元の新聞に目を落として、もう一度顔を上げると、突然現れた全身黒ずくめの大男が優子の首をつかんで立っていた。

 優子は声も出せず、苦しそうにもがいている。


 「誰だ!?優子を放せ!!」と善一郎が叫んだ。

 大男は、「オレの名前は白飛影仁。全員殺す。弟の仇だ。」と言った。

 優里がすかさず影仁との間合いを詰めようとしたが、影仁は優子を盾にして間合いを取った。

 影仁は「知ってるぞ、お前の『腕力』。」と言った。

 次の瞬間、影仁と優子の姿が見えなくなり、「バキッ」という鈍い音がした。

 影仁の姿が見えた時には、優里の左足は折れて反対方向に曲がり、影仁は次に優里の顔面を砕こうと拳を振り上げているところだった。

 「善助ーーっ!!」と善一郎が叫び終わる前に、優里の首が飛んだ。

 優里の残された胴体だけが、その場に倒れた。

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