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第十八力 複合力③

 貞影には殺し方の計画があった。

 先ずは自分が何者かを認識させる。

 中里家全員を殺すと宣言し、絶望させる。

 脚力だけの善助は、走らせなければいい。

 能力のない優子を人質にして、その場に這いつくばらせ、ゆっくり近づいて手刀で首を落とす。

 本当はもっと苦しみを与えたいが、反撃されると厄介なので、殺す前に優子の顔をナイフでズタズタにするのを見せれば、それなりに苦しみは与えられるだろう。

 そのあと、ひん死の優子を更に利用して、優里を善助と同じように始末すれば、あとは能力のない善一郎と優子を心ゆくまで痛めつけて殺そうと。


 貞影は自分の立てた計画が、既に成功したも同然の状態になったことに興奮し、歓喜で震えながら目の前の優子の顔を見た。

 (優子の、顔・・・? ・・・あれ?)

 ナイフを突きつけている相手は優子だったはずが、目の前でナイフから必死に逃げようとしているのは、貞影本人だった。

 (これは何だ? 鏡? 優子はどこに行った?)と貞影が混乱した表情を浮かべた瞬間を見逃さず、善助は力いっぱい『ダッシュ』して、貞影の首に蹴りを入れた。

 優子の視界では、貞影の首が真横に折れ曲がったあと、善助の姿が空中に現れた。

 子供の頃、善助と二人でよく見た仮面ライダーの必殺技『ライダーキック』のような美しいフォームだった。

 貞影は10メートル以上吹き飛ばされた。


 善助はなおも貞影を追おうとしたが、優子が「お兄ちゃん、待って!」と止めた。

 二人は動かない貞影をじっと見た。

 「死んじゃった?」と優子が言った時、貞影がヨロヨロと立ち上がって、再び倒れた。

 ズルズルと体を引きずりながら逃げようとする貞影を見て、善助は「父さんのところに引っ張って行った方が良くないか?」と言ったが、優子は「いや、あっちの方が優先だよ。」と言って、ジョギングコースに放置されているおじさんを指さした。


 ☆☆☆ 


 おじさんを病院に運んで家に帰る途中、「優子の『変身』、絶妙なタイミングで決まったな。」と善助が言った。

 「だから、変身じゃなくて『ミラクル☆チェンジ』って名前にしたんだってば!」と優子は言った。

 「ああ、はいはい。『ミラクル☆チェンジ』ね。」と善助は笑って返したが、優子は少し神妙な顔で、「あの人、お兄ちゃんの『脚力』知ってたみたいだね。」と言った。

 「・・・うん、でも優子の能力は知らなかったみたいで助かったよ。」と善助は言った。

 二人とも口には出さなかったが、またいつか「白飛」と名乗る輩が来るのだろうかと不安だった。

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