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第一力 走力①

 あの頃はまだ、僕ら家族がこんな事になってしまうなんて、微塵も思っていなかった。

 無造作に投げ捨てられた優子は、首がありえない方向に曲がっていて、左の肩だけがピクピクと痙攣していた。

 既に首をつかまれている父は、もはや抵抗する気配もなく、静かに絶命の瞬間を待っているように見えた。


 ☆☆☆


 中里善助が、「自分は普通じゃないのかも?」と気付いたのは、小学校のマラソン大会の練習の時だった。

 自分が友達のみんなより足が速いのは薄々感じてはいたが、目立つのが好きではない善助は、いつも徒競走の時はみんなのペースに合わせてトップでもビリでもない順位を獲得していた。

 マラソン大会の練習の時、同じクラスの浩二君に「善ちゃん、一緒に走ろうよ。」と言われたので、善助は浩二君のペースに合わせて走ることにした。

 一緒に走ろうと言うくらいだから、てっきり手を抜いてゆっくり走るものだと思っていた善助だったが、浩二君は走っている最中は、ひと言も喋らず、前だけを見て一生懸命走っていた。

 今考えると、小学生によくある、『一緒に○○しよう!と言っておきながら、本人は本気を出すパターン』だったのかも知れない。


 浩二君は速い方で、ゴールしたのは前から5番目だった。

 ゴールした後、「善ちゃん速いね。マラソン得意なの?」と浩二君に聞かれた。

 浩二君の頬は紅潮し、息は上がり、Tシャツは汗でびっしょりと濡れていた。

 それに比べ、善助の様子は走る前と全く変わらず、息は整ったままで、汗ひとつかいていない。

 まるでどこか日陰で休んでいたかのような状態だった。

 浩二君の前では、息が上がったフリをして、膝に両手をついて、「今日は調子が良かったみたい。」と答えたが、内心は動揺し、別の意味でドキドキしていた。

「僕は何で疲れてないんだろう・・・?」

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