恋をしたら人が殺せるようになりました
恋に目覚めたらそのまま人を殺せるようになってしまった。
そう、自分に恋をさせるとそのままその人が死んでしまうのだ。なんで死んでしまうのか、どうやらドキドキして心臓発作を起こしてしまうらしいのだ。
だけどそれを知ってるのは自分だけ。
なんで知っているかはニュース番組を見ていれば自分の地域の最近見た相手が死んでいたから。
「まぁた死んじゃった」
閑散としたカフェでコーヒーを飲みながら新しく入ってきたニュース記事を読む。1週間で10人死んでいれば閑散としていくだろう。それでも店を閉めるわけにはいかないようで、いつ自分が心臓発作で死ぬかびくびくとしている人がこの町にはその空気が漂っている。
「私のせいなんだろうな」
どうしてドキドキさせてしまうのか分からないけど、とりあえず好きにさせてしまったのは自分なのでドキドキさせなければいいんだけども。
「あ、メールが来てる」
携帯をスワイプしてメールの文面を見る。
『お前をいつも見ている』
差出人は不明。このアドレスを知っているということは知り合いかもしれない。だけど、よくあるいたずらメールである可能性もあった。
さて、この差出人は誰なんだろうな。いたずらじゃないような気がする。
本能がそう告げていた。
「あのこ……でもなさそう」
きょろりと辺りを見回してみるが視線は感じない。ちょっとカウンターでグラスを磨いている店員がいたけど微笑まれただけだ。
ん?
でもおかしい、この町はここ1週間で人と目を合わせようとする人がいない。返信をしてみようか。
【恋してますか?】
返信を送れば着信音が鳴った。
ビンゴ。
やっぱあの店員何か知ってる? それともいつも見てるだけなのかな。だけど、このカフェの周りで私に恋をする人が多いのは確かだ。
まさかね。
「お客様、ご注文がないのでしたら席を移動していただきたいのですが」
グラスを磨いていた店員の名前は「音無とわ」変な名前だ。
人の名前を変だと言う自分の名前も気に入っていない。
「ごめんなさい、もう出るから。これ捨てておいてくれる?」
「かしこまりました」
小さなメモをポッケに入れてくる店員は何を考えているのだろう。私はそのポッケに入れてきた手を握った。
「ありがとう」
そうして次の日、あの店員はどうしたかと言えば。
「死んでない」
代わりに死んだのは近くに座っていた女の子だった。どうやら私は女の子すら殺せてしまうらしい。
「あ~あのメモ洗っちゃった……」
見る間もなく洗濯機を回してしまったからかポケットの中身から紙の欠片が出てきた。
嫌な予感がする。
ブブ、と携帯が震える。
「やっぱり……最悪、変なのに目をつけられた」
自分を見ても死なない。
自分の目を見れる人間。
「音無とわ、何者だ」