死神の能力がないので人間界に堕とされました
未来なんてくだらないと思ってた。思うことなんて、すべてが幻想だって思ってたし、明日のことなんて何もわからないと。
だからこそ、未来を楽しみに生きている人と、未来なんてくだらないと思って生きている人に分けられているんだと思う。
私の中でも未来の位置づけはこんな感じ。どうせ明日死んでしまうんだから、今日を楽しくいきたいと思うのは当然のことなのではないかと思う。
それさえも、当然だといえない人生に足を踏み入れているなんて思いたくもなかった。
死んでいる。死ぬなんて人に言ってはいけないことだといわれていた。この死神の町ではそんな死神になるのが当たり前で、当然だった。
それなのに私には死神の能力が無かったのだ。だから人間界に落とされた。
普通人間が死神になるのだけど、この町で生まれてしまったら死神になるしかない。
その前提が覆された瞬間だった。
「ごめんね。、本当は追い出したくなんてないよ」と、母は言ったけれど、厄介ごとに巻き込まれたくなくてそう言っているだけだって知ってる。
いつでも巻き込まれるのは嫌いなのだ。
そういう人はどこにでもいる。
人間界でも同じだ。
生きていくので精一杯の人が多すぎる。その中で、見つけた生きにくさが私を「人間」にしたのかもしれない。
「このまま人生100年を生きていくなら何をやったらいいんだろう」
考えても生きているだけで偉いと思ってしまう自分には人間のように寿命などの概念は関係ないと思う。だって、明日生きているかもわからないのだから。
人間界に降り立ったのは赤ん坊の頃。というか、赤ん坊にされる。
死神の町で10年を生きた私にとって、そこでの10年は長かった。人間界で言う理不尽ないじめが横行していて、私の居場所は家だけだった。
まぁ、そこで引きこもってたら10年経ってたなんだけどさ。
というわけで、私はその10年の経験から死神の素養がない死神として捨てられたわけである。
「だけどごみ箱に捨てられるとは思わないじゃん?」
汚物のように捨てられて、回収された先はまさかの人間界。胎児として一度母体の中に入り込んだ魂は人間と融合し、死神の能力のない私は無事に堕胎されることもなく生まれることになる。
それでも、元は死神の町出身なのだ。死神の町での記憶は十分に備わっているし、忘れた記憶もない。
さすが死神!と思うこともなく、高校生になった。
勉強なんてする意味がないと思っていたけど、知らないことを知っていくのは少し面白かった。それでも、死神の町での苛めがあると思うと一人で居るほうが気が楽だと思うのだ。
「らっしゃーせー」
高校生になってアルバイトが認められた。うちの学校は緩く、バイトも許可している。社会勉強になるからだとかもあるかもしれないけど、一番は貧乏学生が多いのと、進学校ではないからだ。
勉強はとりあえずできればいい人の集まり。
家から近いバイトは極力知らない人とは関わりたくないけど、お金は稼ぎたい私にはぴったりのバイト先だ。
昔馴染みしか来ないので対応も楽でしかない。