5話 ジン、仲間と別れる
「買い被り過ぎだよ、俺の料理は大したもの作ってないし、誰にでも出来ることだよ」
「違うよ!ジンは凄いよ!食べられる物の知識があるし食べられそうにない魔物のお肉だって食べられるように出来るし!夜、私が眠れないときにこっそりココア入れてくれたじゃん……あれで私は救われたんだよ?ねぇ、戻ってきてよジン……」
今にも泣きそうな顔をするマーヤを見ると凄く胸が締め付けられる。
あのパーティの仲間で唯一、マーヤだけは俺のことをよく見てくれてたんだ。
「何を言い出すかと思えば、そんなやつ必要ないといってるだろ?」
突如、マーヤの後ろからワイルドが会話に割り込んでくる。
ワイルドの目は魔物に向ける時と同じ目を俺にする。
少し落ち着いた心が再び嫌悪感に包まれる。
仲間だったとしても流石に俺も睨み返す。
「マーヤ、集合時間過ぎたぞ!で?まだ出ていって無かったのかジン。そんなに俺達に未練を感じてたのか?」
「……別に未練なんてないよ。ワイルドが言った通り俺は役立たずだったし、すぐにでもこの街を出ていくつもりだよ。」
「ハッ、さっさと去れよ。弱いやつ……お前の顔も見たくもない!行くぞマーヤ!アイツの除名報告しなきゃなんねぇんだから!」
マーヤが「はい……」と言うのを確認してワイルドはさっさと戻っていく。
マーヤを待ってあげてもいいんじゃないか…?
それか、俺の近くにいるのも嫌なほど嫌われてるのか、というよりそれしかないか。
「ジン、ごめんね。力になれなくて」
「気にしないで。俺こそごめん、嫌な思いさせて。クリアアトランティスを頼むよ。」
俺に関わらなければ、怒鳴られることもなかったものを……
本当に良い子だな。
俺に魔物を倒せるくらいの力とマーヤに契約金払えるなら「俺と来て欲しい」と言いたくなるくらいだ。
「ジン…!!」
マーヤの小さな体が俺の胸元に飛び込んでくる。
「ま、マーヤッ!?」
思わず声が裏返ってしまった。
ちょ……!!胸が、胸が当たってる……!!
「この任務終わったら会いにいくから…絶対に…今までありがとう…」
マーヤは俺を数秒間抱きつき、その後胸から離れて、無理に笑顔を作って見せた。
「またね」と軽く言葉を放し、ワイルドの後を追っていった。
今までありがとう、か。
今の俺がマーヤに伝えたかった言葉だったよ。
少なくても役立たずだった俺が少しでも役に立ったと思えた。
未練なんてないよ。とは言ったけど、正直マーヤと離れることに未練はある。
「……あれで15歳なんだから凄いよ。」
心も精神も出会ったときより成長してる。
少なくても出会った時、周りを気にしながら過ごしていた時よりも。
体も胸が凄い成長…って最低だな俺。
とにかく、準備を済ませ早く前の街に戻ろう。
出来れば1人で野宿はしたくないし、この辺りの魔物は俺1人じゃ勝てない。
手持ち少ないお金で食材とバック、必要最低限の物を購入して、早めに出発することにした。
「頑張れマーヤ、そしてクリアアトランティス」
俺に出来ることはクリアアトランティスの任務成功とメンバー……マーヤの無事を祈ることだけだった。