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グルメ

作者: 岩礼ゆえん

 H氏は死んだ。

 H氏は独居で足が不自由だった。私は週に一度彼の元を訪れ、傾聴ボランティアのまね事をしていた。

 H氏はかなりのグルメで、いつも昼食に肉そばを用意して、私を迎えてくれた。

 遺骸を見る。H氏は大柄だ。冷蔵庫の大きさが気にかかる。


 以下はH氏の手記の一部である。


********************


 本日、所用で出かけた。

 用事を済ませ、夜の十時すぎに駅に着く。

 昼間に人身事故。ダイヤが乱れている。

 ホームにはだれもいない。

 来たときには気づかなかったが、ホームの端に立ち食いそばがあった。まだ灯りがついていたので入ってみる。案外穴場かもしれない。

 食券の販売機がなかったので、店の人にたずねる。肉そばしか出せないと言われた。それを注文して受けとる。

 つゆの表面に黄色いあぶらが膜を張っている。地元の熊か鹿か。いや脂の具合が違う。鴨かきじだろうか。違うな、鳥ではない。いずれにしろ獣の肉には違いない。はじめてだが、どうにもくせになる味だ。

「これ、なんの肉?」と聞いたところ、たまたま手に入った――と返ってくる。しつこくたずねたが、教えてはもらえなかった。


    ~中略~


 頭からはなれない――

 どうしても食べたい食べたい食べたい食べたいたべたいた・べ・た・い!


    ~中略~


 突き止めたぞ! なるほど、手に入れるのはむずかしい。しかし是が非でも食べたい! もう発狂しそうだ!


    ~中略~


 ――合法的で簡単な方法だ。左足のつけ根から切り落としてもらった。足の先から順序良く片付けていくとしよう。

 足をなくしたのは不幸だとみなが口をそろえる。そんなことは断じてない。私はグルメだ。なにより肉そばを食べるのが至福なのだ。

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― 新着の感想 ―
[良い点] H氏に人肉の味を伝えた立ち食い蕎麦屋が、何とも恐ろしいですね。 沿線で人身事故が起きる度に、この蕎麦屋は轢死体を回収して肉蕎麦にしているのでしょうか。 そう考えると、H氏以外にも人肉の魅力…
[良い点] H氏の飽くなき食へのこだわり。 自らの足まで食べ、人に提供していたとは。 ゾッとしますね。
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