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8 満ち足りた世界

「どうしちゃったのミク!ミクがこんな詩を書くなんて思わなかったわ!」


 怒り心頭の由美を見て、ミクの書いてきた詩に興味がわいたレイジは、ミクに断って書き溜めた詩が書かれているノートを読ませてもらうことにした。


 無責任で薄情な人たちへの恨みつらみ。

 冷たい世間への憤り。 

 無理解な大人への怒り。


『こんな社会ぶっ壊れればいいんだ!』


「これは・・・」


 もう完全にアウトローである、いやテ〇〇スト一歩手前である。


「なんていうか、今のバイトをしててさ。みんな良い人ばっかでさ、世の中も悪くないかなって」


 確かに今のバイトをミクに紹介したのは由美であったが、それは当面急場を凌ぐのには時給の良い合法的なアルバイトだからだ。しかもミクは美人の自分とは違う方向性の可愛いさを持っているので、面接も簡単に通ると思ったし事実即採用だった。更にネットカフェに住んでいたミクの為に、ボロアパートであったが『倉庫代わり』と親を説得し部屋を手に入れそこに住まわせた。


 普通に良い人である。


 天使の所業である。


 まさか、それが裏目に出るとも思わなかった由美。


「やっぱり創作者は逆境にいなければ…だめよね」


 由美は思い出す。

 

 東京新宿駅西口で俯きながら歌っていたミクの詩に出会い、ジャパニーズロックから解き放されたメロディーラインとギターの旋律に衝撃を受け、即座にバンドの話を持ち掛けたのが始まり。どこに住んでいるのか連絡はどうやって取れば良いか尋ねれば『家出してきた』と答え、住まいはネットカフェ、アルバイトは矢川急送の日雇いバイトで、持っているものはギターとスマホだけ。


 はっきり言えば、住所不定無職の少女であった。


 もう一度、あの地獄に叩き落さなければミクの才能が消えてしまうのではないかと危惧する由美。


 由美のミクを見る視線に、ただならぬものを感じたレイジが話しかける。


「ミクさん、これは自分が感じた事を詩に起こしたって思うんですけど」


「うん。あの頃は色々あったから」


「じゃあ、私小説てきなもんだよね」


「そう」


 しばし考え込むレイジ。


「由美先輩」


「なに」


「こういうのが、由美さんの求める音楽なんですよね」


 レイジの頭に牧の姿が浮かぶ。


「こういう感じの世界で生きてる人の話を聞いて、作詞に生かすというのは出来ますか」


「ちょ、ちょっといくら何でもその筋の人に知り合い居るっていうの。不味いわよレイジ君」


「あ、いや同志みたいな人なんです。でも大人で色々経験積んでそうだし、話を聞いてみるのも悪くないかなって」


「同志、レイジ君なんか政治活動でもしてるの」


「そんなことするわけないじゃないですか!先輩」


「じゃあ、何の同志なのかしら」


「えっとー・・・音楽関係で知り合ったんですけど」


 音楽関係と知りホッとする由美、大人の世界を知ることも経験だと納得する。


 確かに、堅気にはとても見えない牧に話を聞けば、ミクの新たな世界が開くこともできると思い、つい牧の事を口にしてしまったレイジ。多分、由美の志向しているハードロックというものにインスピレーションを与えてくれるはず。ライブハウスで、敵対するアイドルファングループに寄ってたかってボコボコにされているとき、別のアイドルのファンにも関わらずレイジに助太刀してくれた、牧の漢気溢れる姿が今でも目に焼き付いている。


 だが、やはり『ドルヲタ』とはミクの詩と由美の態度を見て言えないレイジ。


『牧さんには、その辺は伏せてもらおう』


 幸薄い可愛い女の子が窮地に陥る事はよくないと思うレイジ。


 その時、コンコンとドアをたたく音が聞こえた。


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