7 安請け合いはやめましょう
時間は午後7時となり、由美の働くメイドカフェも閉店である。
「ほら、しっかり立って」
由美はミクの体を支えながらよたよたと歩く。
「あれ、由美さんどうしたんですか」
レイジは秋葉原のソフトマックスという電気店で主催された、アイドルというには微妙なお姉さんモデルの応援にドルヲタ仲間から無理やり駆り出され、『借りは必ず返す』と言質を取った後に別れ、帰り道にメイドさんからパンフレットを貰おうとして、由美達に気づき声をかける。
「おっとう!レイジ君じゃない」
体力的に限界の由美に頼まれミクをおぶさるレイジ。
「バンド仲間ですか、まさか由美さんが音楽活動してるなんて知らなかったですよ」
「まあね、色々あったの。今はこの娘と二人で組んでるのよ」
「え、バンドですよね」
「まだ二人だけど、これからよこれから。そうだレイジ君、音楽に興味ないかしら」
無くはないけど応援しかしてないしなあと思いつつ、由美と一緒にバンド活動することに興味を持つレイジ。
「僕、楽器はとくに出来ないんですけど、由美さんの為ならなんか習ってみようかなあって言っちゃったりして、えへへへ」
レイジの前を歩いていた由美はくるりと振り返る。クールビューティーがレイジに微笑む。
「やろうよ、バンド。私たちだってまだまだ素人なんだから一緒に練習していこうよ」
憧れの先輩とバンド活動。見れば背負っている女の子もかなり可愛い。これだけの美少女がバンド活動すれば芸能プロダクションが黙っているはずがない。もしアイドルバンドの一員として在籍していれば、遠くで眺めているだけだったあのアイドルたちとお近づきになれる可能性だってあると取らぬ狸の皮算用に顔がにやけるレイジ。
「レイジ君は体格が良いからドラムなんかいいんじゃない。リズム感も大事だけど、そこは練習しだいってことで頑張って」
「わかりました、由美先輩の期待に応えられるように頑張ります!」
そうこうしているうちに、ミクの住むアパートにつく。とんとんと階段を上り部屋のドアを開けると、ゴミだらけの四畳半一間であった。由美は勝手知ったるなんとやらで、手早くゴミを片付ける、というか人の座れるスペースを確保するとレイジに部屋に入るように促す。
無表情になるレイジであったが、敷きっぱなしであろう布団にやさしくミクを横たえさせた。
「ありがとう、レイジ君といったっけ。ごめんねこんなとこで」
「気にしないでください」
由美がいそいそとお茶を淹れている。
「あ、そういえばミク」
「なに」
「この前曲渡したじゃない、作詞してくれたんだよね」
「うん、そこの炬燵の上にある」
色々なものが散乱した炬燵にお茶を置きながら、ミクが指し示す切れ端に書かれた詩を、何気なく読む由美とレイジ。
『昨日出会った猫。
汚れた体を綺麗にしてあげた。
小さな猫の瞳は赤と青のオッドアイ。
ピンクの肉球が私の頬を撫でる。
私もお返しに猫の首筋を優しくなでた。
ゴロゴロご機嫌。
一緒にゴロゴロ。
猫は名前を決める前に死んじゃった』
レイジは目に涙を浮かべ感動している。
『なんてリリカルな詩なんだ!天才だよミクさん!』
突然由美が、その詩が書かれた紙を引きちぎる。
「由美さん!なんてことを!」
「ぬるい詩書いてんじゃないわよミク!二人で決めたわよね、私たちはハードロックをやるって!」
「だって、由美の書いてきたブルージーな曲にはこういうのが・・・」
「なんで猫が死んじゃったとかになんのよ!私は裏町で燻るロクデナシをイメージして曲を書いたっていったじゃない!」
ハードロックってなに、と思うレイジであった。