4 幸せの対価
軽音楽部の部室について入っていく由美と遥。誰もいないのを確認し鍵をかける。由美は持っていたバッグを開けて制服を取り出す。
「じゃああとは宜しくね」
そう言うと部室の鍵を渡して部屋を出て行く由美。遥は詰め襟の学生服を脱ぐと由美の持ってきた女子の制服に着替え喉に湿布のようなものを張る。鏡の前にたち自身の姿を確認し頷いて部屋をでるとそのまま由実のいた教室へ向かう。
中学時代にも同じような事を繰り返したが流石に高校となると不安がよぎる遥。レイジを実験台にしてはテストを繰り返し女子特有のスキンシップが無ければ問題ないはずである。
レイジと遥がすれ違う。
レイジはニコッと笑って遥に頭を軽く下げる。遥も澄ました顔ではあるが僅かに微笑む。
なんどもなんども騙されたレイジ。横目で睨む。
これはまずいと思った遥はポケットを弄る。
『あった!』
遥はクルッと振り返りレイジの肩をポンポン叩く。
何だろう、振り向くレイジの目の前にスマホの画面と小さな紙。
『ないしょで』
何が内緒だこのやろう、と思ったが遥の手にかざされる紙を見て固まるレイジ。
遥はレイジにその小さな紙を渡す。
「友よ!」
レイジは遥を抱きしめる。その場にたまたま居合わせた学生たちのどよめき。
ハッと気づき離れるレイジ。
男女の中と思えば状況的にはこれでいいっぽいのだが遥の顔色が仄かに赤い。たしかに状況的には問題ないし事実、由実とレイジの関係が噂になったのだ。
むろん遥としてはいきなりレイジが抱き着いてきたので、避けがたいものだったと言い訳は立つのだが。なぜそこでそれを出す!と由実にこっぴどく怒られるのが目に見えるような気がする遥。
レイジはアイドル研究会に行ってみる予定をすっかり忘れてチケットを握り締め、いそいそと教室へ向かう。
東京に来た目的の一つが達成される。
しかも無料で!
手に入れようにも人気が加熱して手に入れられないアイドル予備軍がしのぎを削る喫茶店形式のシアターのプラチナチケット。しかも出演者はメイド服で接客さえする。自慢してやる、牧さんに自慢してやるとぶつぶつと呟く強面きもヲタと一体誰が友達になりたいというのか。
必然的にこの後レイジの居場所はアイドル研究会にならざるを得なくなった。
『幸せというものは何かを失うことでもある』と、後日ひかる棒を握り締めた牧に諭されたレイジであった。