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第九話 プリンちゃんの恋愛物語~二人のマドンナ~

 2学期が始まりました。1ヶ月以上あった夏休みは、あっという間に終わり新たな学校生活が始まっています。1学期の期末試験、僕とプリンちゃんは何の問題もなかったが、あの三人は赤点をとって追試を受けていた。せっかく僕が、試験対策として授業をまとめたものを作って渡したのに。

 夏休みは、ほぼ毎日皆で遊びに行ったなぁ。お祭りに行ったり花火をしたり、プリンちゃんの浴衣姿は可愛かった。他にも遊園地や水族館、海水浴・・・いろいろ行ったよ。そんな毎日を過ごしていたら、いつの間にか学校が始まっていたのだ。

「誠君、おはよう!」

 この一声で僕の1日が始まる。

 今日も、いつものようにプリンちゃんが迎えに来てくれた。

「おはよう、プリンちゃん」

 僕らは学校へ向かった。



 学校に着いて、教室に入るなり咲さんが歩み寄ってくる。

「おはよう咲ちゃん」

「プリンは相変わらずのん気ね。ちょっと来なさい」

「・・・?」

 教室に入ってすぐの呼び出し。何があったのだろうか、気になった僕はさりげなくついていった。そして、廊下を少し歩いたところで咲さんは足を止める。

「これ見てよ」

 そういって、彼女が指さしたところへ目を向けると、ある貼り紙が掲示されていた。内容は「ミスコン参加者募集」だ。

「当然参加しなさいよプリン」

「あ・・・うん」

 そういえば、咲さんが転入してきた目的は復讐だったなぁ。確か怜先生が、学園祭でミスコンを開催するよう生徒会に申請すると言っていたけど、まさか本当にやるなんて思っていなかった。僕はふとプリンちゃんに聞いてみた。

「本当にミスコンに参加するの?」

「うん・・・それに、やるなら勝つつもりで参加するよ」

「そうじゃないと困るわね。本気のあなたに勝たなきゃ意味ないわ」

「咲ちゃん・・・」

 その時、誰かが僕の肩に手を置く。後ろにいたのは祐介君だった。

「この二人の勝負となると大変だぜ、誠」

「どうしてだい?」

「二人を一緒に応援出来ねーからだよ」

「あ・・・」

「悪いがオレは咲側につくぜ。だからお前はプリンちゃんを応援しろ」

「うん、そうだね」

 祐介君がライバルになるのか。彼と何かを真剣に競うって事は今まで一度もなかったから変な感じだ。だけど、正直僕はそれを恐れている。自分の自信のなさや、祐介君には勝てないという概念がそう思わせているんだと思う。

 しかし、そうなると当然、少しでも心強い味方がほしい。という事で――――

「聖二君はどっち側につくの?」

「咲側に来いよ。こいつはともかくプリンちゃんは強敵なんだ!」

「オレが教室に入ってすぐにいろいろ言うな・・・眠い」

 聖二君は寝不足みたいだ。頭を掻きながらあくびをしている。

「寝るな聖二!真面目に聞けよ!相手はプリンちゃんなんだぞ!生半可じゃ勝てないんだ」

「そだな・・・咲は一度負けてるし」

「プリンちゃん側に来てよ聖二君!僕じゃ上手くサポート出来るか分からないし」

「彼女なら、誠のサポートなんていらねーだろ・・・あー寝かせろよ!」

 本当に眠たそうだ・・・本気で怒っている。

「てか、結局は生徒や一般客が投票して勝者を決めんだ。どっちも選らばねーなんて言わせねーぞ、聖二」

「分かった分かった。でも、プリンちゃんと咲か・・・確かに難しいな。けど今決める事じゃないだろ。本番可愛かった方を素直に選ぶ・・・もう寝る、喋ってくんな」

 それだけ言うと顔を伏せて寝てしまった。しかし、聖二君はどっち側につくとかはしないみたいだ。正直彼がついててくれれば、女子生徒の票はほぼ獲得出来ただろうに。

「ちぇ・・・仕方ねぇな。聖二の人気を使うのは無しにしよう。いいな誠」

「うん」



 二時間目が終わって今は休み時間、何やら祐介君と咲さんは話し込んでいる。早速、ミスコンに向けて対策を練っているのだろうか、僕は気になって二人に話しかけた。

「祐介君たち、何話してるの?」

「誠にはカンケーねぇよ。盗み聞きすんじゃねーぞ、コラ」

「裕介、別にそんなつもりじゃないよ」

 やはりミスコンの事を話しているみたいだ。何をする気か分からないけど、僕らもこうしちゃいられない。その時、二時間しっかりと寝た聖二君は目を覚ました。そして、辺りの見回し僕に向って言う。

「たく・・・女の勝負に、何で誠たちも熱くなってんだよ」

「だって彼女だもん。どうせやるならプリンちゃんに勝ってほしい」

「ふーん・・・」

 すると、彼は席を立って祐介君たちの方へ歩いていく。

「さーて遊びに行くかぁ~。祐介、咲行こーぜ」

「悪ぃな聖二、今日は止めとく。ちょっと話し合いが」

「えーつまんね・・・仕方ねぇ先輩誘ってみるか」

 そう言うと、聖二君は一人で教室を出ようとする。僕は彼を追いかけた。

「待って聖二君、僕も」

「何?誠サボんの?」

「違うよトイレ」

 僕は、途中まで彼についていく事に。それにしても、毎日毎日よく遊びに行くなぁ。今に始まった事じゃないけど、いつもそう思う。

「そういえば、聖二君が今言った先輩って、学校を抜け出すのが上手い人の事?」

「ああ、そうだよ。ずっと会ってないな・・・もしかしたら、もうサボってるかも・・・ん」

「どうしたの?」

 彼の視線の先には見知らぬ生徒がいた。おそらく上の学年の人だろう。すると、聖二君は嬉しそうにその人の方へ歩み寄った。

「先輩!久しぶりですね、捜してたんですよ」

「ん・・・聖二か」

 どうやら、この人が例のよく一緒にサボる先輩みたいだ。僕は初めて見る。

「今から遊び行きませんか?今日は祐介たちは行かないって言うんで」

「いや、オレも止めとく」

「え・・・授業受けてくんですか?」

「ああ」

 聖二君はキョトンとした顔をしている。

「マジですか・・・先輩が真面目に授業を受けてくなんて」

「まぁな・・・授業なんて意味ねーって言ってたけど、それでもやらなきゃいけないって思ってよ、急に」

「どういう事ですか?」

「今しか出来ない事をしっかりやりたいんだ」

「はぁ・・・」

「驚いた?」

「え・・・ま、まぁ」

「もうガキじゃねぇんだ、聖二も少しは自分の事考えろ。オレもあまり言える立場じゃないけどな。じゃあな」

 すると、サボりの先輩は歩いて行ってしまった。しかし、あの人の言う事は分かるような気がする。もしかしたら、あの人も期末試験で痛いめをみたのかな。だけど聖二君と話している時、微かだが何度か笑顔が見えた。嬉しそうに話していたようにも見えた。何かがあの人を変えたのかもしれない。

「一体どうしちゃったんだ先輩・・・超面倒臭がりだったのに。仕方ねぇ、やっぱ一人で遊びに行くか」

「結局サボるんだね」

「ああ、じゃあな」

 そういうと聖二君は、一人でどこかへ歩いて行ってしまった。いつか彼も、あの先輩みたいになる日が来るのかな。



 私と祐介は、ミスコンの事で話し合っている。

「いいか咲、お前とプリンちゃんとの差は何か」

「差ってどういう事よ?」

「差と言うより違いだな・・・まず歩いていて人ぶつかった時だ」

「うん」

「まずプリンちゃんの場合。相手が男だったら可愛い上目使いで謝り、そのキュートな姿に心奪われるんだ。そして、女の場合も愛想良く謝るんだ。彼女は、真面目で純粋で邪な心がないから男だけでなく女にも人気がある」

「・・・うーん、よく分からないわ。まぁそんな気もするけど」

「ところがお前の場合はどうだ。男女構わずキレて睨み付ける。そして、気をつけろって言い捨てる」

 私は思わず赤面した、祐介ってよく人を見ている。私に関しては間違いなく当っている。

「もう一つ例をあげるとしたら」

「裕介、まだあるの?」

「咲もプリンちゃんも、一際目立つ存在で多くの目を引くだろ。特に男の」

「さぁ・・・知らないわよ」

「で、男にじっと見つめられる。すると、プリンちゃんは何も言わずに微笑むんだ。しかも顔を少し斜めに傾けながら!その仕草がたまらなく可愛いんだ!」

「で、私は?」

「お前は、何見てんだよって言ってキレるだろ」

 そういやそうね。私より祐介の方が分かってるわ。

「だから、今の時点で咲はかなり不利なんだ。いいかイメージは大切だぞ」

 確かにそうだけど、どうしろって言うつもりかしら・・・?

「でだ、今からミスコンまで愛想良くしろ。とにかく可愛く見せるんだ、プリンちゃんのようにな」

「・・・きつい」

「勝つためには仕方ねーだろ。ガンつけたりキレたりするのは一切禁止な。優しく接しろよ」

 てか、私にそんなキャラは似合わないと思う。プリンには勝ちたいけど。

「でも、咲の棘のある性格が好きな奴もいるかもな。よし、Mっぽい奴には素の咲でいいか。よく見極めろよ」

「・・・・」

 裕介はそう言うが、私はたぶん今まで通りで変わらないわ。プリンの優しい性格は、彼女に合ったものだからこそ良いものになる。私が、それを真似たってもろ偽りの心がもろ出るから無意味ね。プリンのいいところは彼女だけのもので、私には私にだけのいいところがある。私の自身のスタイルでプリンに勝つわ。



 放課後、僕とプリンちゃんは一緒に学校を出た。彼女は、ミスコンに向けて何を考えているのだろうか。祐介君たちが、何を考えているかは分からない。決して油断は出来ない。

「ねぇプリンちゃん、ミスコンの事だけど・・・」

「私なら大丈夫だよ」

「ミスコンまでの間、何かやる事とかある?」

「うんん、私は何もしないよ。普通にしてる」

「祐介君たち、何か企んでるかもしれないよ」

「咲ちゃん、勝負は正々堂々とするから大丈夫。たぶん、彼女も特に何もしないと思う」

 プリンちゃんはすごく落ち着いている。

「咲ちゃんに勝てる自信なんてないけど、特に何かをするっていうのはね・・・結局は、本番でどれくらい多くの人の気を引けるかだと思うから」

「・・・なるほど、本番で与える印象かぁ」

「だから、衣装を何にするかとか一緒に考えようよ誠君」

「うん、もちろんだよ」

 流石プリンちゃんだな。僕が心配する必要は全くない。だけど一緒に勝ちを目指すよ。彼女なら絶対勝てる、何故だかそう感じた。



 翌日、僕とプリンちゃんはいつものように二人で学校に来る。教室に向かう途中の廊下で人だまりを見かけた。

「誠君、みんな集まってるけど何かあったのかしら・・・?」

「さぁ・・・僕らもちょっと見てみよ」

 僕らは人と人の間をくぐり抜け奥に進んだ。その先にあったものはポスターだ。中身を見てみると・・・

「さ、咲さんの絵だ!」

 更によく見ると『花川咲 ミスコン参加決定』と書いてある。しかもその絵は本格的だ、おそらく美術部の人にでも描かしたものだな。

「誠君、ここ人がいっぱいいて潰されちゃう」

「一回出よう!」

 僕は、プリンちゃんの手を引いて人だまりを抜け出した。

「これはどういう事なんだ・・・ポスターなんて」

 すると、すぐ後ろから咲さんの声が聞こえた。

「何やってんのあんたたち・・・てか、この人込みは何?邪魔なんだけど」

「さ、咲さん」

 振り向くと、そこにいたのはやはり祐介君と咲さんだった。二人もちょうど今学校に来た見たいだ。

「何って・・・咲ちゃん分からないの?」

「はぁ?どういう事よ?プリン」

「ポスターだよ、咲ちゃんの」

「え・・・?」

 咲さんの顔つきが変わり、一人で人たまりに歩いていった。

「邪魔。どきなさいよ」

 彼女がそう一声かけると一瞬で道が出来た、すごい。そしてポスターを見た咲さんは・・・

「ちょっと!何よこれ!?」

 彼女自身、ポスターを見て驚いている。

「ああ、このポスターオレが用意させたんだよ」

 そう言いながら、裕介君はニヤリと腕を組んでいる。

「あのねぇっ!祐介!」

「ど、どうしたんだよ咲・・・・」

 咲さんはポスターを破り剥がした。そして、ビリビリに破いて投げ捨てる。

「何すんだ!せっかく美術部につくらしたのに」

「こんなの必要ないわ、なめないでよ。それに、恥ずかしげもなくよくこんな事が出来るわね!」

「オレは・・・咲を応援したくて」

「私は、ミスコンが始まる前に票を集めようなんて思ってない。だから、昨日祐介が言った事だってやらないわ」

「どう・・・してだよ?」

「前もって票を集めるような事はしたくないの。それに、こんな事しても意味ないわ、最後はステージの姿で決まるのよ。魅力でプリンに勝たなきゃ意味ないのよ!」

「うっ・・・・」

「人気があっても魅力で負けたらダメなのよ。美に勝るものはないの・・・そうでしょ?プリン」

 プリンちゃんは無言で頷く。二人とも考えは同じだ、それに真剣である。お互いに負ける気なんて一切ない。

「・・・悪かったよ咲、お前の言う通りだ。余計な事はしないでそっと応援するよ」

「祐介・・・」

 一瞬、僕はゾクッとした。ミスコンに対して、どこかぎくしゃくしていた祐介君たち。しかし、今二人の思いは一つになったような気がした。そうなるとこの二人は相当手強敵だぞ。僕はたまらなく不安になった。

 すると、周りはざわつき始めた。しかし、プリンちゃんと咲さんがミスコンで勝負するとなれば当たり前だろう。それもそのはず、二人とも校内ではかなり有名だ。同じ時期にしかも同じクラスに来た生徒という事、更にずば抜けて美人という事で話題の転入生なのだ。だから、今にこのミスコンの話しも広まっていくだろう。

「あの頃を思い出すわね、プリン」

「・・・・うん」

 今再び、二人のマドンナは甦った。光と闇が争う、ついに決着がつくんだ。

「プリン、ちょっと来なさいよ。あんただけ」

「え・・・」

 咲さんは、プリンちゃんを誘い二人でどこかへ行ってしまった。僕と祐介君は、ついていかず二人を見送った。



 私はプリンを連れて屋上にやって来た。私を不思議そうに見ているが、怯えてる様子はない。

「そういやプリン、前のミスコンの時、前日に二人で話したよね。屋上で」

「うん」

「まだミスコンまでは日があるけど・・・あんたと少し話したくて」

「・・・・」

「祐介のした事には驚いたけど、どうしてか、ああやって私の事を支えてくれる人がいると嬉しくて」

「祐介君だからじゃないかな?」

「そうね・・・だけど、プリンにだって誠がいるわ」

「これで条件は同じだね」

「ええ」

 前の私は祐介の事で精神的に堪えていた。しかし、そんな事はもう結果には関係ない。だけど・・・

「今回は、あいつが見てくれてるから安心出来る」

「そうだね」

 祐介が、応援してくれるから負ける気もしない。だから前と同じ結果にはさせない。

「ねぇプリン、私たちあの時の仲に戻っていもいいわよ。完全に」

「咲ちゃん!」

「というより、私はもうあの時と同じ仲になってると感じてた・・・」

「私だってそうだよ。前も今も変わらない、咲ちゃんは親友だよ!」

「ええ」

 プリンは満面の笑みで私を見る。この笑みを見る度、いつも私の心は落ち着く。

「本当は私、あなたと・・・・・!」

「咲ちゃん?」

「・・・何でもないわ」

 思わず口に出してしまうところだった。本当は、あの時の仲に戻りたかったなんて。プライドの高い私には、絶対言えない事だった。

「プリン、私は絶対負けないから」

「私もだよ。咲ちゃんには負けない」

 これで私たちは互いに、いいライバルとしてミスコンに向かっていける。私はもう負けないわ。



 僕たちのクラスで学園祭の話し合いが行われた。

「というわけで、学園祭でやるクラスの出し物を決めたいと思います」

 僕がそう言うと、焼き鳥、焼きソバ、ラーメンなど(食べ物ばっかだな)教室内には様々な意見が飛び交う。

「オレはホストクラブ風の喫茶店を提案するぜ!」

「賛成!」

 聖二君が言うと、クラスの女子たちは一斉に大賛成する。それをやったら、彼目当ての女性のお客さんが大勢来そうだな。

「どうだ誠、なかなか良い案だろ?」

「却下だよ聖二君。ホストって言っても、他になれるのは祐介君くらいでしょ?このクラスの男子じゃ・・・」

 僕がそう言うと、クラスの男子たちは怒り出す。確かに僕の言い方だと、聖二君と祐介君以外の男子は・・・彼らが気分を害すのは当然だ。しかし、これはあくまでも事実。

「なぁ誠、オレは焼きソバやりたい」

「祐介君らしかぬ真面目な意見だね」

「うるせぇ、何か急に焼きソバが食いたくなったんだよ」

 彼が何故、急に焼きソバを食べたくなったか分からないが、一つだけ感じた事がある。この話し合いの最中、彼はずっと咲さんの事を見ていた。おそらく、彼女の茶色でロングの縦ロールの髪があれに見えたんだろう。て、いくら何でもそんなわけないか。決して口に出して言えない僕だった。



 昼食の時間。

「はい祐介、お弁当」

「あ、ああ・・・」

 祐介君は、プリンちゃんが毎日僕のお弁当を作っている事を感心して以来、咲さんに毎日お弁当を作って持って来させているのだが・・・

「ちっとも進歩ねーな。てか、前にロールキャベツが得意って言ってたよな、毎日入ってるけど全然美味くないぞ」

「不味いって言うの?」

「不味すぎだ・・・味付けとかそういう問題じゃなくて、作り方自体が絶対間違ってるだろ・・・」

「残したら許さないわよ」

「てか、何で自分はいつもコンビニの弁当なんだよ・・・自分の分も作れよ」

「面倒だから嫌よ。それに私、自分の料理は好きじゃないから」

 咲さんは料理が大の苦手みたいだ、そんな彼女の料理を好き好んで食べる人はそういないよ。

「おえっ・・・」

 祐介君は彼女のお弁当に苦戦している、毎日よく頑張るね。そう彼を見ながら、僕はプリンちゃん美味しい手作り弁当を食べている。

 そんなこんなで今日もいつものように、六人で話をしながらお昼ご飯を食べている。いつの間にか、話しは学園祭の話題に変わっていた。

「じゃあ何?クラスで焼きソバやるの!?」

 普通の事なのに、怜先生はものすごく驚いている。

「もっと面白い事やるかと思った。聖二君のホストやメイド喫茶とか・・・」

「ですよねぇ~オレは、ホストクラブを提案したけど誠が却下して。でも、メイド喫茶は思いつかなかったなぁ」

「メイド喫茶なんて嫌よ。バカみたい」

「何でだよ~・・・てか、絶対お前ツンデレメイドが似合うぜ、咲!そういう話し方が」

「・・・へ、変な事を言わないでくれる」

「咲のツンデレメイドか・・・確かにいいな!聖二」

「だろ?それに、プリンちゃんのメイド姿だって絶対可愛い・・・オレ自身も似合うと思うんだよな、自分で言うのも変だけど」

 確かに聖二君にも似合いそう、顔キレイだし僕としても見てみたい。それと、プリンちゃんたちも恐ろしく似合うと思う。僕は思わず彼女のメイド姿を想像してしまった。やばい・・・可愛すぎる、僕の顔がすごく熱くなった。

「聖二君のメイド姿、確かに見てみたいわね」

「先生が来てくれるんだったら、メイド喫茶を提案しとけばよかった・・・ちぇ」

 そう言い彼はがっかりしている。それより、僕はやっぱりつまらない人間なのかな。クラスの出し物を面白くしようなんて全然思ってなかった。

「でも、何で焼きソバになったの?」

「オレが提案したからだよ、先生」

「あら祐介君なの?意外にも普通の意見を言うのね」

「何か咲の髪見てたら、焼きソバ食いたくなって」

「私の髪が焼きソバ・・・?」

 まさか、僕のあの予想が当たるなんて。でも、一度意識してしまうと見えなくもない。

「祐介」

「ん?」

「バカ」

 咲さんはニッコリ笑って言った瞬間、勢いよく祐介君をビンタした。

「いてぇー!冗談も通じねーのかよ!!」

「うるさい・・・プリンも、誠にこのくらい出来るようにならなきゃダメよ」

「わ、私には無理かな・・・」

 彼女に変な事を言わないで。もし、彼女が咲さんのようになってしまったら・・・考えるだけでゾッとする。

「焼きソバだったら聖二君はウェイターやるの?」

「そう聞くって事は、先生来てくれんの?」

「何故あなたは、そういう事しか考えないの・・・聖二君がウェイターやらなくても行くわよ」

 お客さんを集めるなら、彼のウェイターは欠かせないな。それにプリンちゃんのウェイトレス姿も。・・・ちょっと待てよ、僕は突然ひらめいた。ミスコンでの衣装はメイド服なんてどうかな。メイド喫茶の話しがあったからか、ウェイトレスという言葉が頭の中に出てきて、再びプリンちゃんのメイド姿が浮かんできた。僕は彼女をちょっと見る。

「ん・・・な、何?誠君」

「いや・・・」

「?」

 やっぱり、すごくいい!僕は改めて感じた。きっと、彼女のメイド姿は全校生徒を魅了する、僕には分かる。

「そういえば、ミスコンの事だけど参加者は二人だけになりそうね」

 怜先生が、話しをいきなりミスコンの話題に変えた。

「って事は私と咲ちゃんだけ・・・なんですか?」

「そうなの。まぁあなたたち二人が参加するんじゃ、他の参加者は出てこないわね。勝ち目はないって」

「じゃあ、票は私とプリンにしか入らないわけね。分かりやすいわ・・・フフ、男である私たちを恐れるなんて」

「さ、咲ちゃん・・・」

「冗談よ」

 実は、今回のミスコンは学内でかなり注目されている。咲さんのポスターの件で、プリンちゃんたちがライバル同士で勝負するという事が、そこにいた生徒たちに分かってしまった。それから一気に学校中に広がり、今じゃ先生の中にも二人の対決を見たがっている人が多いみたい。二人以外に参加者の応募がないのは、その事もあるのだろう。

 とにかく、ミスコンは今学内で一番注目されている。簡単には負けられないという事だ。



 帰り際、オレは咲に聞いてみた。

「お前、ミスコンの衣装どうするんだよ?」

「・・・私もまだ考え中なんだよね」

 学園祭までは、まだかなり時間があるが早めに衣装を決めないとまずい。相当人の気を引けるようなのじゃないと勝てない、相手はプリンちゃんだからな。

「私とプリンの魅力の違い・・・それから考えれば、何かありそう」

「魅力の違いか・・・プリンちゃんは可愛い妹みたいな。お前はキレイなお姉さんかな?」

「・・・自分の良さ(魅力)をどこまで出せるかが勝負を決める。プリンにはない大人の魅力、それで挑むわ」

「・・・」

 大人の魅力か、そんな咲に相応しい衣装は何だろう。とオレが考えたところで何も出るはずがなかった。

「何かありそう・・・だけど分からないわ」

「焦って考えても仕方ねーさ。ゆっくり考えようぜ」

 何かありそう・・・か。咲はどんな事を考えているんだろう。


「・・・・・」


 祐介はどう考えてるのかしら。私は何か出てきそうなのに、なかなか考えが浮かばずイライラし始める。こいつは何も考えが浮かばないの?

「おい咲、何か落ちてるぜ」

「ん・・・」

 歩いている私たちのすぐ前に、蝦蟇口の金入れが落ちていた。祐介はそれを拾い、中を覗いた。

「おお!スゲーぞ咲」

 覗くと、中にはお札がぎっしり入っている。

「見てみろ、ほとんど万札だぞ!超ラッキー」

 私は、さっと祐介の手から蝦蟇口を奪い取って睨む。

「な、何だよ一人占めにはしねぇよ。ちゃんとオレと咲とで平等に分けるから」

「そうじゃないわよ」

「・・・分かったよ。届ければいいんだろ?お前って、意外と曲がった事が嫌いだもんな」

「この辺交番あったかしら?」

「知らねー探してみるか・・・それにしても古臭い財布だな」

 私たちは近くの交番を探し始めた。すると、偶然にもすぐ近くに交番があった。蝦蟇口が落ちていた場所から近いので、落とし主もすぐに見つかるかもしれない。私たちは交番に入った。

「あのーすみません、お巡りさんいるー?」

 祐介はズカズカ入る。すると、中には一人お巡りさんがいて私たちに言う。

「悪い、少し待っててくれ」

 私と祐介は中で待つ事に。お巡りさんは、着物をはおったおばあさんと話しをしている。おそらく、私たちより早くこの交番へ尋ねに来ていたのだろう。

「・・・・・」

 何もないのだが、交番の中で待つのは何か恐れ多い。だから、喋らずに待っている。

「中にはどのくらい入っていましたか?」

 お巡りさんたちの会話がよく聞こえる。

「よく覚えてはいないのですが十万くらいはあると思います」

「・・・その財布の特徴を詳しく教えて下さい」

「えーと蝦蟇口で色は・・・」

 私と祐介は顔を見合わせた。もしかしてこのおばあさん・・・!

「あの、その蝦蟇口ってこれじゃないかしら?」

 おばあさんに拾った蝦蟇口を差し出す。

「あ・・・これですよ」

「私たち、すぐ近くでこれを拾ったんで交番に届けに来たんです」

「そうだったんですか、ありがとうございます」

「君達は財布を届けて来てくれたのか、ありがとう。よかったですねおばあさん」

 お巡りさんはニッコリ笑って言う。

「本当に助かりました、ありがとうございます」

 おばあさんは、私たちに深々と頭を下げる。何となくだけどこのおばあさんは、すごくいい人だという事が分かった。きれいな笑いジワがある優しい顔をしている。

「あなた方は、キレイな心を持っているのですね」

「え・・・?」

「最近の日本は、キレイな心を持つ人が少なくなったと思います。あなた方は、優しくて澄んだ人ですね」

「ばーさん、そんな事ねーよ。オレなんか、この財布を拾ってパクろうとしたし、咲なんかよく人ぶん殴るし・・・」

「だけど、そういう君は財布をここまで届けてきてくれたじゃないですか」

「まぁ・・・そうだけど」

「若い時はそのくらいの元気が必要ですよ。それにお二人は無垢なんです、だからいいのです。きっと、お友達もいい方でしょう」

「・・・そうね、いい人が多いわね」

 すると、おばあさんは微笑みながら蝦蟇口を開けた。そしてお札を私たちに差し出す。

「これはほんのお礼です。受け取って下さい」

「あの、おばあさんこんなには・・・」

「いいんですよ。お世話になったんですから、お礼はするのは当たり前です」

 仕方なく私はお金を受け取った。

「私も嬉しいんです。久々にキレイな日本の心に触れられた」

「日本の心・・・?」

「ええ、日本のきれいな心より美しいものはない、すごく素敵ですよ。いつまでもその心を忘れないで下さい」

「・・・!」

 そういうと、おばあさんは交番を後にした。

「・・・・・」

 おばあさんが交番を出た後、私にふとあるイメージが浮かんできた。

 そして、最後のあの言葉で全てが分かったのだ・・・私の・・・・

「あのばーさん、愛国心が強いのかな・・・?まぁいいや、落とし主にちょうど会えてよかったじゃん咲、オレらも帰ろうぜ。じゃあなお巡りさん!」

「おう!」

 私たちは交番を出た。外に出てから、私はしばらく話さない。彼は、黙り込んでいる私の様子を伺っている。

「・・・咲、どうかしたのか?静か過ぎる」

「決めたわ。私のミスコンの衣装」

「え・・・!?」

 私の大人の魅力、更に淫らさをかもしだし、そして今失われつつある日本の心・・・これら全てを取り入れた私の衣装が。完全にイメージも出来た。

 今日から私のミスコンが始まる・・・



 祐介君や咲さんが、どんな衣装を考えているのかを思う帰り際、僕はプリンちゃんにミスコンの事を話した。

「今日さ、お昼にメイド喫茶とかウェイターの話しをしてたでしょ。それで僕は思ったんだ。プリンちゃんの衣装は、メイド服なんてどうかな?」

「メイド服・・・」

「絶対似合うと思うよ!どう??」

「・・・良いとは思うけど、何か違う気がする」

「え・・・?」

 彼女は少しうつむいた。そういう服、あまり好きじゃないのかな・・・?

「可愛い服を普通に選ぶだけじゃ、咲ちゃんには勝てないと思う」

「そうかなぁ・・・似合うと思ったんだけど」

「誠君は、私の衣装をどう思う?」

「可愛いらしさを強調するべきだと思うんだ。プリンちゃんの魅力を存分に出すために」

「私も、そういう衣装がいいと思ってるの・・・だけど、まだ自分の中のイメージが出てこなくて」

「・・・」

 彼女はしっかりと考えていたんだな。それに比べ僕は、簡単に考えていたのかもしれない。

「プリンちゃんは、衣装で何か表現したいものがある?」

「私は、神秘的なものを出したいと思ってる。人にはない魅力、人以上のキレイさを見つけたい」

「人以上の・・・・?」

「うん。今回はそうでもしないと。今の咲ちゃんは前とは違う・・・前のミスコン、もし祐介君の事が上手くいっていたら私は負けていた気がする。だから・・・」

「人の限界を超える!人には表現出来ないもの!いいじゃんプリンちゃん!」

「え・・・?」

「絶対それいいよ!やってみようよ!」

「誠君・・・」

「咲さんには祐介君がいる。だけど今回プリンちゃんには僕がいる!同じだよ」

 もしかしたら、彼女はミスコンの事を不安に思っていたのかもしれない。咲さんや皆の前では明るく接していたけど、本当はすごく緊張していたんじゃないかな。こんな僕でも、二人きりになれば素直に弱気になった姿を見せてくれる。それが嬉しかった、だから僕は彼女の力になりたい。

「不安に思うは事ないよ。だから僕と一緒にやってみようよ!プリンちゃん!」

「誠君、ありがとう」

 結局この日、ミスコンの衣装は決まらなかった。しかしそれでも、僕らにとってとても大切な日になりました。

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