第六話 プリンちゃんの恋愛物語 〜謎の視線〜
最近、僕は誰かの視線を感じる。それは何となくであり確証はないのだが。しかし、ふと視線を感じた瞬間、いつも辺りを見回すが特に変わった様子はない。ここずっと僕は気になって仕方がなかった。
「誠君、どうしたの?」
「えっ・・・」
呆然としている僕に話しかけてくれたのはプリンちゃんだった。
「最近、ぼーっとしてるよ。何かしたの?」
「ん・・・いや、ちょっと考え事してて。あ、大丈夫だよ、悩み事とかじゃないから」
「考えごと?」
「うん・・・実は・・・」
結局、僕は彼女に誰かの視線を感じている事を話した。僕の事を真剣に聞いてくれるのは彼女くらいだ。
「誠君、それは考え過ぎかもしれないよ?」
「そうかなぁ」
「もしかしたら・・・それ私かもしれない」
「え?」
「私、いつも誠君のこと見てるよ」
僕はドキッとした。真顔でそんな事を言われると照れてしまう。真っ赤になった僕は軽く下にうつむいた。
「エヘヘ・・・誠君、照れてるの?」
「うん・・・プリンちゃんだって顔赤いよ」
彼女が、僕の事を見てくれている事はよく分かる。だけど、最近よく感じる視線は何か違う。プリンちゃんの眼差しのように、ほわ〜ん(←意味不明)とした感じではなく全くの別物だ。分かる事は悪い感じがするものではないという事だった。
「私もちょっと照れるかな」
「照れてるプリンちゃんも可愛い」
「誠君たらぁ!」
と、僕たちがいいムードで話しているとまたあの視線を感じた。
「ん・・・!?」
僕は慌て辺りを見回すが・・・やはり何もない。もしかしたら疲れているのかもしれない。
「誠君?」
「また、誰かに見られてたような気がしたんだけど・・・気のせいかな」
「きっと疲れてるのよ」
「うん・・・そうだね」
その時、僕は何者かにいきなり目隠しをされた。
「だ〜れだ?」
その声は毎日よく聞いている。
「聖二君でしょ?」
「ハズレ、私よ」
目隠しから解放され後ろを見ると、聖二君と祐介君、咲さんの三人が立っている。
「何だぁ三人いたのか」
「あなたたち、教室の中でもお熱いのね」
「そんなぁ咲ちゃん・・・エヘヘ・・・」
「調子に乗らないでプリン。私たちには及ばないわ」
「は、はい・・・」
「ところで誠たち、これから一緒にふけない?」
祐介君は僕の肩に肘をかけながら言う。どうやら三人は授業をサボる気が満々のようだ。
「これからって、もう二時間目が始まるよ」
「だから速く決めなさいよ。サボるの?どっちよ誠」
「僕は授業受けるよ」
「私も」
流石、僕とプリンちゃん。というより、僕はサボった事がないから真面目に授業を受けたい。
「誠はともかく、プリンちゃんも授業受けてくのかぁ・・・じゃあ仕方ないなぁ」
すると祐介君は諦めて、僕の肩に乗せている肘をどかしプリンちゃんに言う。
「昼ご飯の時には戻ってかるから、じゃまた後でね」
「うん」
三人は足速に教室を出た。
そういえば咲さんが来てから、あの三人で授業をサボるのが多くなったような気がする。その際には僕らも誘ってくれるのだが、一緒に抜けだした事は一度もない。だけど、あんな風に堂々とサボる事が出来ると、たまに羨ましく思う。そう思うのはどうかしているが、ずっと一緒にいた僕たち三人の中で、僕だけ違うという感じがして気が進まない。
「誠君、先生来たよ」
「あ、本当だ」
僕らは授業の準備を始めた。しっかり授業を受けよう、これが僕なんだ。
午前中の授業が終わるのはあっという間だった。僕にとって授業はそれほど苦じゃない。わりと勉強が好きだから、いろんな事を学ぶのに退屈はない。
「確か聖二君たち、お昼に戻って来るって言ってたよね」
「うん」
僕たちはお弁当を持って席を立った。そして教室を出ようとした直後またあの視線を感じた。やたら気になったけど、僕は振り返らずに教室を出た。もう無視しよう。辺りを見回したところで意味はない。考えなければ気にならなくなるだろう。それに思い過ごしかもしれないし。
屋上に来た僕とプリンちゃん。まだ誰も来ていない。
「まだ誰も来てないみたいだね。先にお弁当食べちゃおうか」
「そうだね。私もうお腹ペコペコ・・・」
僕たちはお弁当を開けた。
「いただきまーす」
やはり授業をしっかり受けた後はお腹が空く。と、僕はお弁当を食べながら、ふとプリンちゃんのお弁当を見た。女の子らしい可愛い手づくり弁当だ、自分で作ったのかな。普段はあまり二人きりでお昼ご飯を食べないから、つい彼女を見てしまう。そういえばいつも可愛いお弁当を待ってくるなぁ。
「誠君?」
「ん?」
「どうしたの?」
どうやら、僕は無意識の内にプリンちゃんのことをずっと見ていたらしい。
「可愛いお弁当だなぁって・・・・自分で作ってるの?」
「うん、そうだよ。お父さんのも私が作ってるもの」
「へぇ・・・それにしても料理上手だね」
「そんなことないよ。あんまり美味しくないし」
「どれどれ、ちょっと食べさせて」
僕がそう言うと、恥ずかしそうにお弁当を差し出す。だし巻き卵を食べた。
「・・・・」
「ど、どぉ?」
「う・・・うまい・・・!」
だしの取り方がこっている。味付けもちょうどよくされていて美味しい。正直、僕のお弁当(お母さんの手製)よりも美味しい。
「美味しいよ!料理上手いんだね!」
「じゃあ誠君のお弁当も作ってあげようか?」
「え!いいの!?」
「うん」
やったぁ嬉しいな。プリンちゃんの手づくり弁当。我慢しようとしても、自然と笑顔になってしまう。二人きりだと思いきり鼻の下を伸ばせるからいいな。
「仲良いわね二人とも」
怜先生の声が聞こえた。振り向くと先生が立っていた。
「ラブラブねぇ。私来ない方がよかったかしら?」
僕たちは顔を赤くしながら首を横に振る。怜先生はニコニコと笑いながら僕らの近くに座った。
「で、今何の話ししてたの?」
「お弁当の話しです。誠君のお弁当も私が作ってあげようかなぁ・・・なんて」
「あ〜ら良かったじゃない。それじゃあ誠君が鼻の下を伸ばすわけだ」
「先生、失礼な・・・鼻の下なんて伸ばしてないですよ」
「照れるな照れるな」
そう言いながら怜先生は笑っている。
「ところで、あの三人はどうしたの?」
先生はいきなり話しの話題を変えた。とは言うも、あの三人が授業をサボることは日常茶飯事たがら、大体予想はついているだろう。
「二時間目を受ける前に、どこか行ってしまいましたよ」
「全くぅ・・・仕方ないわね、あの三人は」
「でもお昼ご飯に戻って来るって言ってたから、そろそろ来るかもしれないね」
プリンちゃんがそういった直後、聖二君たち三人が現れた。
「お待たせ先生。オレがいなくて淋しかったでしょ?」
「いいえ」
怜先生はニッコリ笑いながら聖二君の言葉を受け流す。
「あなたたちはよくサボるわね。試験どうなっても知らないわよ。特に聖二君」
「もしかして、オレの事心配してくれてるんですか?」
「もちろん、ただし試験に関してだけね」
「聖二と違ってオレは大丈夫だよ先生。咲に勉強教えてもらうから。それに誠もいるし」
テスト前になると、僕は聖二君と祐介君のために試験範囲をまとめたノートを作って渡している。それは、僕にとっても試験勉強になるから嫌じゃない。
「じゃあ私も。誠、頼りにしてるわ」
どうやら、今年から咲さんも加わるみたいだ。僕っていい人だなぁ。
「ねぇ誠君、一緒に試験勉強しない?」
「え、プリンちゃん・・・!」
僕は頭の中で考えてみた。プリンちゃんと一緒に試験勉強・・・という事は僕の家、もしくは彼女の家で二人きりで。何か嬉しいぞ。彼女の部屋ってどんなのかな・・・?
「二人きりで勉強だなんて・・・誠君ははかどらないんじゃない?」
「何言うんですか先生。いつも以上に集中出来ますよ」
というが、怜先生の言う事は正しいかもしれない。たぶんプリンちゃんばかり見てしまいそうだ。
「僕は大賛成だよ。一緒に勉強しようよ」
「うん!」
そんな僕らを見て咲さんは言う。
「私たちは一緒に勉強するって感じじゃないわね」
「ああ、そうだな」と祐介君も頷く。
「じゃあオレは先生に勉強教えてもらおうかな」
聖二君は怜先生をじっと見つめる。
「そうね。しっかり教科担当の先生方に見てもらいなさい」
「ちぇ〜先生つまんないなぁ・・・仕方ない、誠で我慢するかぁ」
「我慢って・・・聖二君」
「大丈夫だよ誠、彼女との二人きりの時はいいから」
祐介君や先生が「ヒューヒュー」と僕の事をからかう。しかし今の僕にはそれが嬉しかった。そして更には聖二君までもが茶化す。
「ちょっと、みんな照れるよぉ〜・・・ねっプリンちゃん」
つい顔がニヤけてしまう。プリンちゃんはそんな僕を見てクスクス笑っている。
こんな感じで盛り上がっている中、誰かの声が微かに聞こえた。僕たちは一瞬だけ顔を見合わせた。そして、すぐ空耳だろうと感じた時・・・
「あ、あの、すみません・・・」
今度ははっきりと聞こえた。声の方を向くとそこには僕たちと同じクラスの女子生徒、杉本千里さんが立っていた。
「え・・・誰?」
祐介君はキョトンとした顔で言った。
「同じクラスの杉本さんだよ」
プリンちゃんが彼に教えてあげる。しかし、それでも祐介君は呆然としている。
「あんた、クラスメイトも分からないの?私、転校してきたばかりだけど顔くらいは知ってるわよ」
杉本さんは大人しい性格の人だ。小柄でショートカットの髪の可愛いらしい女の子だ。人と話しているところなど、見た事がほとんどない。決して地味ではないが、かなり静かな女の人だ。そんな彼女が、僕たちのとこに来るなんて誰も想像出来ないだろう。
「あ、あの・・・」
杉本さんは何か言いたそうだが、緊張しているのか中々言葉が進まない。
「あ、分かった」
祐介君が突然何かをひらめいた。
「聖二に用があるんだろ?連れてっていいよ」
「杉本さん、オレに何か用?何でも言っていいよ」
聖二君は颯爽と杉本さんのところへ歩み寄るが・・・。
「わ、私、誠君に用があって・・・」
「え・・・?」
「・・・・・」
皆はポカーンとしている。予想外であった。僕に用事って何だろう。
「僕に用って何ですか?」
「高橋先生に誠君を呼んで来てって頼まれたから・・・」
「高橋先生が・・・?」
僕、何かしたかな?考えてみたが何も思い当たらない。皆も心あたりがないみたいだ。少なくとも、普段から真面目に物事をこなしていると自負しているから、先生に呼ばれると不安な気持ちになる。
「じゃあ、僕ちょっと高橋先生のところに行ってくるよ」
僕はそう言い残し、杉本さんと屋上を後にした。
僕と杉本さんは無言で階段をおりていく。本当に静かな人だなぁ。考えてみると彼女と話した事はない・・・いや、一度だけ喋った事があった。確か入学して間もない頃、彼女が歩いていてハンカチを落としたんだ。それに気付いた僕が、ハンカチを拾って渡した時に話した。話したといっても「ハンカチ落としましたよ」「あ、ありがとうございます」これだけだったからあまり話したとは言えないか。
「ま、誠君」
「ん?」
僕に気を遣ってくれたのだろう。彼女は話しかけてくれた。
「いきなり呼びに来たから・・・その、迷惑でした?」
「迷惑じゃないよ。先生が呼んでるんだし」
「じゃあ・・・もし、先生の用事じゃなかったら迷惑でしたか?」
「え?・・・どういう意味?」
「いえ・・・ご、ごめんなさい。やっぱ何でもありません」
「???」
杉本さんは何を言いたかったのだろうか。普段話していないから、分からない事ばかりだからだろうけど、彼女は謎多き人だ。その後、杉本さんが話しをする事はなかった。
高橋先生は職員室にいるらしい。彼女は、何も言わないが近くまでついて来てくれるみたいだ。やっぱり僕に気を遣っているのだろう。しかし僕と二人きりでは気まずそうだし、これじゃ杉本さんに迷惑をかけてしまう。
「杉本さん、わざわざありがとう。大丈夫だよ一人で行くよ」
「え・・・」
「杉本さんは優しいからさ。僕に気を遣わせたなって思って。ごめんね」
「そんな・・・私、気を遣ってなんて」
「いや、いいんだ。じゃあ僕先生のところ行ってくるよ」
そう言い残して僕は職員室に向かって歩き出した。あまり話し込んだら、もっと気を遣わしてしまうので足速に歩いた。これが杉本さんのための行動だったのだと、勝手に考えてしまった僕は振り返らずに進んだ。これが正しいのだと思っていた。だからこの時、僕は彼女が悲しそうな表情をしている事に気付かなかった。
職員室前までついた。僕は緊張した面持ちで中に入ると、高橋先生は慌ただしそうに書類をまとめていた。すると、僕の存在に気付いた先生は僕を呼ぶ。
「誠君、わざわざありがとう」
「用って何ですか?」
「実は今日、午後から出張でね。皆に伝えるのすっかり忘れてた」
「はぁ・・・」
「それで、このアンケートをクラスの生徒に配って放課後回収して生徒会に提出してほしい」
僕はアンケート用紙を受け取った。ちらっと用紙を見ると学園祭のアンケートという事が分かった。
「最近忙しくてな、この事をすっかり忘れてた・・・今日提出なんだ、悪いけどお願いしたい」
「分かりました」
僕は職員室を出た。内心ホッとしている。僕に限って、悪い意味で先生に呼び出されるなんて事はない。因みに、まだ語った事はないが僕は級長なのである。何故僕になったのかというと、級長決めの時に聖二君と祐介君に無理矢理押し付けられたからだ。まぁ級長になる事が嫌ではなかったから、問題ないんだけどね。そんなわけで、級長の僕にアンケートを頼んだんだろう。(正直なところ、僕がクラスの皆に呼びかけをしても全員のアンケートがそろうかどうか・・・)
僕は再び屋上に向かった。その時ふと思った、屋上にいるプリンちゃんたちにアンケートを渡したら書いてくれるかな。プリンちゃんは絶対書いてくれそう。あの三人(聖二君、祐介君、咲さん)は書いてくれなさそう。これじゃ今日中に集めるのは厳しいぞ。僕は屋上の扉を開けた。
皆は僕に気付かずに楽しそうに話しをしている。歩いて近づくとやっと僕の存在に気付いた。
「あ、誠君。高橋先生の用事って何だったの?」
一番初めに声をかけてくれたのは、やはりプリンちゃんだ。可愛いなぁ。
「何か高橋先生、午後から出張みたいで・・・今日中に学園祭のアンケートを頼まれた」
僕は皆にアンケート用紙を見せた。
「これは面倒くせーな・・・これじゃ今日中には厳しくないか?」
聖二君は僕と同じ事を思っている。おそらく三人は出さないだろう。しかし違かった。
「誠一人じゃ無理だろ。仕方ないオレも手伝ってやるよ。女子の分はオレがまとめとくから。誠が言っても聞かねーだろ」
「え・・・」
「私も手伝うよ」
プリンちゃんも僕の事を気遣ってくれている。
「聖二君、プリンちゃん・・・ありがとう」
すごく嬉しかったが、予想外の事だったので驚きの方が大きかった。すると、怜先生は眉間にしわを寄せて言う。
「聖二君はクラスの女の子たちと関わりたいだけじゃないの?」
「先生、それは違うよ。わざわざそんな事しなくても、オレの周りにはいつも女の子たちがいるからさ」
「ふーん・・・あっそ・・・」
「あれ?もしかして妬いてるんですか?」
「バカ言わないで、聖二君」
こう見ると聖二君と怜先生はすごく合っている。美男美女だし、結ばれたら辺りは映えるんだろうな。
「ねぇ一つ聞いていい?」
「ん?」
突然、咲さんが話しかけて来た。
「このアンケートなんだけど、どうしてわざわざ誠に頼むの?」
「あ、僕級長なんだ。たぶんそれで僕に頼んだんだと思う。クラスの事だから」
「え!誠って級長なの!?」
彼女は驚いている、それほど意外だったのか。
「どうせ祐介や聖二に押し付けられたんでしょ?」
流石、咲さん・・・当たりだよ。
「それにしても高橋先生、最近忙しそうねよ。困ったものね、あの人・・・」
怜先生は上の空な感じで言う。確かに高橋先生はこの頃忙しそうに見える。慌ただしいとミスだってしやすい、だから僕は何も悪く感じない。少しでも手助けが出来たらいいなと思う。
すると五時間目のチャイムが鳴った。聖二君はすごく嫌そうな顔をしている。僕たちは教室に戻った。
今日一日の授業が終わり、僕は自分の席に座っている。机の上にはクラス全員が記入したアンケート用紙が置かれていた。収集に困難を極めるかと思われたが、あっさりと終わってしまった。しかし、これはプリンちゃんたちのおかげだ。クラスの女子のアンケートは聖二君が一人で集めてくれた。男子の分は、僕とプリンちゃん(ほとんどプリンちゃん)で集めた。やはり僕が頼んでも書いてくれない人がいたけど、祐介君や咲さんが「書けよ」と言うとすぐに書いてくれた。結局、僕が一人で集めたアンケートは一枚もない。何だか情けないな。そういえば、子どもの頃から聖二君や祐介君には助けてもらって生きてきたな。
ふと僕は思う。確か二人に初めて会ったのは幼稚園に入った時。入園したばかりの頃は、いつも隅で一人泣いていた僕に二人が話しかけてくれたんだ。それから二人と仲良くなり親友になった。よく僕をからかったりするけど、僕が虐められた時には、いつも助けてくれた。そして今回も・・・皆は僕がどんなに頑張っても出来ない事を簡単にこなしてしまう。皆が簡単に出来る事は、僕がどんなに努力したって出来ない。唯一、努力が実ったものと言えば勉強である。しかし、それが出来たところで役に立った事は特にない。それを思うと、皆は遠い存在に感じる事がある。そして、何をしても皆のようにはなれない。
それより、集めたアンケートを生徒会に提出しに行こう・・・つい思いにふけってしまった。
「プリンちゃん、僕ちょっとアンケート出してくるよ」
「うん」
「・・・・」
僕は心の中で予想していた。彼女なら必ず一緒に行くと言ってくれる。それを待っていたのだが・・・
「あ・・・ゴメン誠君。今日用事があるの、だから私先に帰ってるね」
「え・・・?いや、いいんだ。用事があるなら仕方ないね」
「ありがとう誠君、本当にごめんね」
そう言うと、彼女は一人で教室を出ていってしまった。
「・・・・」
やるせない気持ちになる。思いにふけった後で、あっさりとすると心の中が一気に淋しくなった。
僕は一人で生徒会室まで向かった。つい考えてしまう。プリンちゃんの用事って何だろう。毎日一緒に帰ってたのに、それより大事なものって何かな。いや、そういう風に考えるのは止めよう。ただの我が儘だ。
生徒会室の入口のところに提出ボックスがある。僕はアンケートを提出して、何事もなく教室に戻った。
「今日は一人かぁ・・・」
誰もいない教室でつい独り言が零れる。僕はバックを持ち帰り仕度を始めたその時、また例の視線を感じた。僕は無意識の内に後ろを振り返っていた。すると教室の入口にいたのは杉本さんだ。
「あれ・・・?杉本さん」
「誠君・・・」
今感じた視線と、今まで感じていた視線は全く同じものだった。だとしたら例の視線は杉本さんだったのか・・・?
「どうしてここに?」
「わ、私、教室に忘れ物したから・・・」
「そうなんだ」
「・・・・」
杉本さんは、何も言わずに自分の机のところに行き中を覗き込む。教科書を探しているのかな。教科書がないと課題や勉強が出来ないからね。
「あの杉本さん」
「何・・・?」
僕の事を見ていたかを聞こうとしたが、何となく聞けなかった。
「ゴメン、やっぱ何でもない」
「・・・・」
杉本さんは自分の机の中を探り出した。どうやら数学の教科書を忘れたみたいだ。課題が出てたから、持ち帰らなければいけない。彼女は教科書をカバンにしまい教室を出ようとする。僕は呼び止めてあの事を聞こうとしたが、やっぱりダメだった。
「あの、誠君・・・」
「ん」
教室を出る直前、彼女は僕に話しかけてきた。
「今日、皆は?」
「皆?プリンちゃんたちの事?」
「・・・・うん」
「今日は僕一人だよ・・・全員用事があるみたいで、先に帰ったよ」
祐介君は咲さんと二人で帰っちゃったし、聖二君は怜先生のいる保健室に行ってると思うし・・・何か一人は淋しいなぁ。
「プリンちゃんは・・・?」
「彼女も帰ったよ、用事があるみたい」
「・・・ね、ねぇ誠君。良かったら一緒に帰りませんか?」
「え・・・僕は構わないけど」
もしかして、また僕に気を遣ってくれてるのかな。
「い、いいの?」
「うん」
どのみち一人で帰るのはつまらないし、僕としては全然構わない。それに、気を遣ってまで僕を誘ってくれるんだから断るのは失礼だ。
「じゃあ帰ろう、杉本さん」
「は、はい」
僕らは教室を後にした。
外に出た僕と杉本さんは校門で足を止めた。今思えば、彼女がどこに住んでいるか分からない。
「杉本さんは電車通学だっけ?」
「はい」
「じゃ僕も駅まで行くよ、通学路の途中にあるからさ」
「あ、ありがとう誠君」
僕はそう言って歩き出した。駅までの道のりは僕の家と同じ方向なのだ。学校から僕の家は近いが、登下校の際には駅の近くを通るからちょうどいい。
しかし、二人で家路を辿るがなかなか会話がない。やはり気まずいのかな。僕は意外とそういうのは大丈夫で、初対面の人やあまり話さない人と一緒でも何ともない。もちろん会話がなくても大丈夫。昔からそうではなかったのだが、聖二君や祐介君と接していく内に変わっていったのかもしれない。基本的にあの二人は人見知りしない。初対面にしては失礼だろ、という事の方が多いような気がする。
「あの誠君・・・」
「ん?」
杉本さんが話しかけてきてくれた。
「私と一緒だと迷惑ですか?」
「迷惑だなんて、そんな事ないよ」
「ほ、本当に?」
「うん。むしろ一人だったから嬉しかった」
「誠君・・・」
杉本さんは、僕の顔をじっと見つめている。
「どうかしたの?」
「私、お昼に誠君を呼んだ時から、ずっと迷惑だと思われてると思ってた・・・」
「え・・・?」
「人の心を理解するのは難しいと思うんです。わ、私は話しだけで、それを理解するのはなかなか出来ない。それも、少しの会話だから・・・」
「・・・・」
「お昼にも迷惑かどうか聞いたけど、迷惑じゃないって言ってくれた。だけど、誠君はすごく優しい人だから嘘でもそう言うと思う」
「僕が言った事は本心だよ」
「うん・・・それが今分かってきたんです。誠君はずっと本心を言っている事に、私は気付かなかったんです。自分の事しか考えてなくて、私ってダメです」
「杉本さん・・・」
「でも安心した。本当に迷惑だと思われてるって感じていたから・・・良かったです」
「僕も同じような事思ってたよ。杉本さんは、ずっと僕に気を遣っていると思ってた。すごく心配だったんだ」
「・・・・」
「でもそれは違う。心から僕に迷惑をかけないように、思っていてくれてたんだ。杉本さんは、しっかり人の事を考えてくれる優しい人だよ」
「ありがとう」
「お互いに本心を知れて、何だかすっきりした・・・」
そう言って杉本さんを見ると、彼女は微かに微笑んだ。彼女の笑った顔を見るのは初めてだ。こんなに可愛い笑顔なんだなぁ。彼女とはあまり話した事がなかったけど、これからは友達として楽しく話せるような気がした。
「何だか誠君の事、よく知れたと思う」
「僕もだよ。これからは友達として気軽に話しができるね」
「え・・・う、うん・・・・そうだね」
杉本さんとここまで話しをしたのは僕だけだろうなぁ。彼女は、クラスの女子ともあまり話しをしないし、いつも一人でいる。僕はちょっぴり聞いてみた。
「ねぇ、何で杉本さんはあんまり話さないの?いつも一人でいるから気になって・・・」
「私、話したりするの苦手なんです。それに地味だし・・・人と一緒にいるのが出来ないの」
「・・・僕は杉本さんの事、可愛いなぁって思ったけど」
「え・・・!ほ、本当?」
「うん。物静かな人柄だから、そういうイメージをもっちゃってるんじゃないかな?僕は地味じゃないと思うよ」
「・・・そうかな」
「そうだよ。なかなか難しいかもしれないけど、もっと、自分に自信を持ってもいいんじゃない?」
「ま、誠君がそこまで言うなら・・・」
気がつくと、僕が人にアドバイスをしている。つい感じている事を言ってしまった、こんな事を言える程の人間ではないのに。もしかしたら、杉本さんは可笑しいと思っているかもしれない。
「何か僕がこんなこと言うの変だよね・・・」
「うんん・・・嬉しい」
「なら良かった」
彼女はまた微笑んだ。本当は、こういう風に話しをしたかったのかな。だったらこれからは、少しずつ杉本さんと話しをしてみよう。
「そうだ、プリンちゃんとも話してみれば?すぐに仲良くなると思うよ」
「・・・・」
「あれ?・・・どうしたの?プリンちゃんは優しくて話しやすいよ」
「私・・・プリンちゃんを見ていると自分がやるせなく思ってくるんです」
「え?」
「彼女が羨ましいんです。可愛いし、明るいし、いい人だし・・・それに・・・」
「それに・・・?」
すると、杉本さんは我に返ったようにハッとなった。
「か、彼女は、私の憧れだから緊張しちゃって話せないよ」
「・・・・」
僕には、杉本さんは何かを言いたかったんじゃないかと感じた。何だか少し嫉妬しているようにも見える。そして、彼女の「それに・・・」と言いかけたその先が気になった。その事について聞いてみようとしたが、もう駅についてしまう。残念だけど諦めよう。
「あ・・・誠君・・・」
「ん?」
杉本さんはふと僕の名を呼んだ。少し間があった後、気付いた。僕たちのちょっと前によく知る人が歩いている。それは、プリンちゃん、聖二君、祐介君、咲さんの四人だ。プリンちゃんは用事があるって一人で帰って、聖二君は怜先生のいる保健室に行ってるはず。祐介君と咲さんはいつも二人で帰るのに。
「何で皆一緒にいるんだ・・・?」
もしかして僕、仲間はずれにされたのかな。やっぱり僕と皆は違うのかな・・・?
「ま、誠君・・・?」
杉本さんは、心配そうに声をかけてくれた。僕は彼女の顔を見てニコッっ笑った。しかしそれは作り笑いだ。動揺している事を察されないために、必死で平然を保っている。すると、ふと後ろを振り返った祐介君が僕らの存在に気付く。
「ま、誠!」
祐介君は何やら驚いている。そんな彼の様子に、プリンちゃんたちも僕の存在に気付いた。すると、皆は僕の方を一斉に見ると焦った感じでヒソヒソ話しをする。
まさかとは感じてたけど思った通りだ。僕は仲間はずれにされていたんだ。何だか無性に悲しくなってきた。
「・・・・」
僕は何と呼びかければいいか分からなかった。すると祐介君が話しかけてくる。
「よう誠、奇遇だな」
「・・・皆で何してたの?」
「え・・・いや・・・まぁ」
言葉が渋る祐介君。次第に僕の苛々は溜まってく。
「何してたのっ!」
僕が大きな声を出すと皆は驚いた。というより滅多に怒らない僕が、怒りをあらわにしている事に驚いているのかもしれない。
「何怒ってんだよ?」
「僕は何してたのかを聞いたんだよ」
「べ、別にいいじゃねーか。誠には関係ねーだろ」
「関係ないって・・・どういう事なの?」
「う、うーん・・・」
祐介君は明らかに困っている。
「ん・・・あれ?昼休みの子、確か杉本さんだっけ?誠と一緒だったの?」
「は、はい」
「祐介君、話しを変えないでよ!」
僕は頭に血がのぼっていて、杉本さんの事を忘れていた。こんな展開で一番驚いていたのは彼女だろう。しかし、今の僕は自分の事しか見えていない。するとプリンちゃんが歩み寄って来た。そして僕に謝る。
「誠君、ごめんね」
「プリンちゃんの用って、僕以外の皆と会う事だったの?」
「そ、それは違うよ」
「違うって・・・僕が来たらヒソヒソ話しをして、何してたのかも教えてくれないじゃないか!」
「あ、あのね・・・!」
「僕はっ!・・・日頃から皆には助けてもらってる。今日のアンケートだって感謝してるし、僕は皆に助けてもらわないと僕は全然ダメで・・・」
「ま、誠君・・・?」
「僕には皆がいないと・・・仲間はずれされたら僕は・・・!」
「仲間はずれ・・・?」
僕は半べそをかいている。そんな僕を見て、プリンちゃんたちはキョトンとしていた。そして顔を見合わし、聖二君、祐介君、咲さんの三人は僕の回りを囲む。
「え・・・?」
そう言った瞬間、三人は一斉に僕の頭を殴った。(しかもグーで)
「何すんの!痛いよ!」
「少し頭を冷やせよ」
聖二君は言いながらまたしても殴る。
「痛い・・・!」
「あのなぁ・・・オレらが何してたのかは知らない方がいいぜ」
「聖二君、意味分かんないよ・・・僕に知られちゃいけない事なの?」
「別に・・・そうじゃないけど」
「いいから教えてよ!」
プリンちゃんたちはまたも顔を見合わせる。しかし、僕があまりにも必死でしつこかったので四人は決心したようだ。
「全くバカね誠は・・・仕方ないわプリン、言ってあげれば?」
咲さんはプリンちゃんを促す。
「あのね・・・」
彼女は言うのを躊躇っている。プリンちゃんまで言いたくないなんて、僕の事が好きなら言ってほしい。
「分かったよ誠君、言うわ」
「うん・・・」
「明日って誠君の誕生日でしょ?」
「・・・?」
「だから、皆と一緒に内緒でプレゼントを買おうとしてたの・・・」
「誕生日・・・プレゼント・・・あぁー!!」
そういうことだったのか!しまったぁ!!
「プリンちゃんが、明日の誕生日にプレゼントを渡したいって言うから、誠の事をよく知るオレらと一緒に何がいいかを選ぼうと・・・そこまで言えばもう分かるよな?」
「はい・・・祐介君」
「しかし誠は酷いな。彼女の優しい想いを台無しにした」
「勘違いが激しい泣き虫バカ男最低」
うっ・・・祐介君と咲さん、キツイ事を言う。しかし当然の制裁だ。
「ごめんね・・・私、誠君をびっくりさせたくて」
「謝らないでプリンちゃん。悪いのは僕だよ・・・ごめん」
彼女に謝られると心が激しく痛む、それだけ僕の事をすごく想っていてくれたんだから。それに引き換え、僕はプリンちゃんの用事って何だろうとしか考えていなかった。なんて最低な男なんだ。
「てか、この男の処分はどうするよ?」
祐介君は、僕の頭を掴んでグラグラと横に振る。
「そうねぇ〜・・・プリンどうする?」
「どうもしないよ。誠君だって私のこと心配してくれてたんだもん」
プリンちゃんは優しいなぁ。ありがとう。
「おい誠」
「ん?」
聖二君が何やら険しい顔で話しかけてきた。それほど、誕生日プレゼント計画を台無しにしたことを怒っているのだろうか。女性に関してはうるさい彼だから、プリンちゃんの心を傷つけた事を相当怒っているのだろう。
「オレらに助けてもらってるって言うけど、オレだってかなり誠に助けてもらってるぜ」
「え・・・?」
「お前がいなきゃ高校なんて入れなかったし」
「確かにそうだよな!成績まずかったもんなぁ聖二」
「祐介も危なかっただろーが」
「二人共バカってわけね・・・」
咲さんはっきり言い過ぎ。そう思う僕もかなり失礼だが。
「まぁ、これからの試験や進級に関しては全て誠にかかってるんだ。オレだってマジで頼りにしてんだから。あまり気にすんなよ」
「聖二だけじゃねーな。その事はオレや咲だって頼りにしてるからな」
「そーね」
「皆ぁ・・・」
やっぱり皆は優しい。僕にはこんなにいい友達がいるんだ。今思えば、凄くくだらない事で悩んでいたんだなぁ。馬鹿らしく思えてくる。
「誠君、友達同士なら助け合うのは当たり前だよ。だから私も気にしないでいいと思う」
「プリンちゃん・・・」
「今から誠君も一緒に行く?皆でプレゼントを買いに行くに。誕生日より一日早いけど」
「来なさいよ。プレゼントの事がバレちゃったんだから、もう別にいいでしょ」
「うん、僕も行く・・・」
何だか変だな。自分の誕生日プレゼントを買うのに一緒に行くなんて。でもいいや。
すると聖二君はふと杉本さんを見た。
「てか誠、何で杉本さんと一緒なの?」
「え・・・いや、偶然会ったから一緒に帰ってたんだよ。ねっ」
「う、うん・・・」
「ごめんね、ちょっと混乱してた。杉本さん、すごく驚いたでしょ?」
「うんん、私は大丈夫だよ・・・・あ、もう電車が来るから私行くね」
「え・・・」
杉本さんは、走って駅の方へ行ってしまった。僕の勘違いかもしれないが、杉本さんの走り方は、この場から逃げているように見えた。周りに皆がいたから緊張したのかな。明日、しっかりと彼女に謝ろう。
「こんなところで立ち話もなんだ。オレらも行こうぜ!」
祐介君が、そう言い歩き出すと皆も歩き出した。皆は僕の誕生日プレゼントを買うのに、自分の事のようにはしゃいでいる。そして僕もついていこうとしたその時、聖二君が肩を軽く叩いた。
「何・・・?」
「誠、もしかしたら杉本さんは・・・」
「彼女がどうかしたの?」
「・・・悪いやっぱいいや」
「なんだよそれ」
「お前、プリンちゃんのこと好きか?」
「好きに決まってるじゃないか」
「だよな・・・その事を忘れず今のままでいろよ誠」
「え・・・?」
そう言うと聖二君は歩き出した。彼は何を言いたかったのだろうか。はっきり分からないけど今はいいか。僕も皆の方へ歩き出した。
私は、急いで電車に乗り込んだ。誠君たちと別れる時、いきなり走り出したのは変だったかな。でも、あの時はああするしかなかった。
誠君は、プリンちゃんのことが本当に好きなんだね。告白しなくて良かった。もし告白なんてしていたら、本当に彼は困ってしまう。彼の事が好きだから、想いを伝えるのは諦めよう。誠君にはプリンちゃん以外はいない。
でも、心の中でそっと好きでいるのはいいよね。
「ただいま!」
家に着いた私は、似つかわしくない明るさで扉を開けた。台所に行くと、お母さんが夜ご飯の支度をしている。お母さんは、私の妙な明るさに少し驚いているみたい。
「やけに元気ね、何かいい事あったの?」
「別に〜・・・そういえば今日仕事終わるの早いね、早番だったの?」
「そうよ」
私は、冷蔵庫から麦茶を取り出しコップに注いだ。
「あ、お母さんのも入れて」
「うん」
二人分の麦茶をテーブルの上に置いた。私とお母さんは、食卓のイスに座り麦茶を一気飲みした。
「プハー!冷たくて美味しいわ!」
私のお母さんってどこか男っぽい。
「ねぇ・・・」
「ん、どうしたの?千里」
「お父さんは運命の人だったの?」
「い、いきなり何て事を聞くの」
「ねぇ!どうだったの?」
「う、う〜ん・・・・・お父さんの前では言えないけど、私の運命の人は別にいるわ」
「そうなの?何でその人と結婚しなかったの?」
「うん、すごく好きだったけど・・・・その人はずっと前に亡くなったから」
そんな事、全然知らなかった。お母さんの運命の人ってどんな人なんだろう。気になる。
「でもね千里。必ずしも運命の人と一緒ならないといけないって事はないと思うわ」
「え?」
「運命の人と一緒になっていたら千里は生まれてこなかったし、今でも充分幸せよ」
「でも、何か心残りがあるんじゃないの?一緒になれなかった悲しみとか」
「全くないと言うと違うかも知れないわ。だけど、悲しんでなんていられないわよ」
「・・・・」
「ていうか、あの人が私の事を好きだったかさえも分からない。だけどね、その人は私の憧れの人として心の中で永遠に生き続けているの」
「憧れの人・・・」
「結ばれるかとかじゃなくて、憧れとしていつでも心の中に大きく存在するかが大切なんだと思うわ・・・・まぁ、運命の人と言っても、私が勝手にそう思い込んでるだけだけどね」
憧れの人・・・か。私にとって誠君は憧れでもある。心の中でそう想う、それもいいか。初めて会った日から一目惚れをして、それ以来誠君の事ばかり考えていた。級長として、皆をまとめる姿や友達と話しているところ・・・好きだった。
もう誠君の事をじっと見つめるのは終わりにしよう。誠君と結ばれる事は出来ないけど、心の中ではこれからも大きな存在になるんだと思う。彼と出会えた事が、私にとって大切なもの。それだけで私は・・・
「何?千里にもそんな人がいるの?」
「さぁね〜」
怪訝な顔つきで見てくるお母さん。でも、私は何だかすっきりしていた。彼が言ってくれたように、私も少しだけ自信を持ってみようかな。そう思うと彼に感謝したくなる。明日、ありがとうって言おう。
そして、これからもきっと私は誠君の事を好きでいるんだろう。心の中でそっと、いつまでも・・・