第四話 プリンちゃんの恋愛物語 〜甦る想い〜
そういえば、祐介君と咲さんはどういう関係なのだろうか。プリンちゃんとの関係は大体分かり、ミスコンで決着をつけるという方向で取りあえずはおさまったけど。僕はいても立ってもいられずに祐介君に問う。
「確か、祐介君も咲さんと知り合い同士だとか・・・」
祐介君は突然の僕の言葉に驚いたのだろうか、焦ったような感じで頷いた。そんな彼を見て咲さんは言う。
「ああ、彼は私の事好きだったのよ」
すると、祐介君の顔が真っ赤になった。
「咲だって!・・・オレの事好きだったじゃねーか」
「まあね」
「なになに?二人は付き合ってたの?」
聖二君は祐介君の肩に腕をかけた。しかし彼は腕を振り払う。
「・・・両想いだったんだよ。だけど付き合った事はねぇよ」
「・・・・・・・・・」
ちょっと長めの沈黙の後、咲さんは何も言わずに歩いてどこかへ行き姿を消してしまった。おそらく、その場の空気がいきなり重くなりこの場にいられなくなったのだろう。そんな姿を見た聖二君は言う。
「お前ら付き合えば?まだ両想いなんだろ?」
「さぁな・・・今のあいつの気持ちなんか分からねぇよ」
「彼女と過去に何があったのか教えなさいよ」
怜先生は僕が聞きたい事を、何も躊躇いなく聞いてくれる。
「やっぱオレと咲の事気になる?」
皆は祐介君をじっと見て無言で頷く。すると、祐介君は咲さんの事について話し始めた。
「去年の夏休みにあいつと出会ったんだ・・・」
祐介君一家はお盆の時期になると、母親の実家に家族で何日間か里帰りをする。その時に咲さんと知り合ったらしい。二人は出会ってすぐに仲良くなり、里帰りの数日間は毎日遊んでいた。お盆の時期が過ぎてからも、夏休み中は一人で実家の方に行き彼女と遊んでいたのだ、もちろん僕も聖二君もその事は全然知らなかった。夏休みなのに祐介君と遊べない日が多くて違和感はあったけど。
「んでよ、夏休み最後の日も二人で遊んだんだけど、それから今日まで会う事はなかった」
「どうしてだい?祐介君」
「あいつ、一緒の高校に行こうってオレを誘ったんだ」
「なるほど、彼女の行きたい高校に行けなかったのか、バカだから」
「違げーよ。超バカの聖二には言われたかねーな」
「じゃあ何よ?行けるのに彼女の誘いを断って、違う高校を選んだわけ?」
「ああ・・・」
「どうしてよ?」
「オレら三人、聖二と誠・・・今までずっと一緒だったじゃねーか。オレだけ遠くに離れるなんてしたくなかった。で、断ったらあいつ、すごく悲しそうな顔をしてた。オレは遠距離でも良かったんだけど、悲しそうな顔を見たら、何だか会えなくなったんだよ」
「祐介君!」
「祐介!」
僕と聖二君は彼の名前を叫んだ。あまりにも突然だったので、僕たち二人以外はビックリしたようだ。
「まさか、祐介君が僕たちのために・・・」
「祐介、バカなんて言って悪かった!お前はいい奴だ」
聖二君は思いきり祐介君を抱きしめた。
「やめろ!気持ち悪い!」
そんな僕たちを見て、怜先生は首を傾げている。
「これが男の友情ってやつなの・・・?」
すると、聖二君はいきなり立ち上がった。そして祐介君を見るなり言う。
「オレたちで祐介と咲のよりを戻すの手伝おうぜ。やろうぜ、先生も誠も!」
「簡単に言わないでよ。よりを戻すって具体的にはどうするのさ?」
「あのなぁ誠。さりげなく二人きりにするとかあるだろ。とにかく細かい事なんて今はどうでもいいだろ!」
「聖二、余計な事はするなよ!オレは平気だ」
「素直になれよ。たぶん、まだ咲もお前の事好きだぜ。でしょ先生」
「う〜ん・・・確実にそうかは分からないけど、多分好きだと思う。彼女この場を逃げたでしょ。だから引きずってるのかなとは思うわ。でも祐介君がお節介と思うなら、何もしないわ」
「・・・・・」
祐介君は下を向いたまま黙る。まだ彼女を想っているという事が分かった。すると彼は立ち上がった。
「確かに好きかもしんねぇけど・・・余計な事はしてほしくねぇ。お節介だよ」
それだけ言い捨てるとどこかへ歩いて行く。
「祐介君、もう教室に戻るの?授業はまだ大丈夫だよ」
「今日はふける。じゃあな」
「・・・・・」
祐介君はそのままどこかへ消えてしまった。怜先生は、やれやれといった感じで溜め息をついて言う。
「全くぅ・・・好きって事は認めたけど、たぶん彼女の前では言えないわね。素直じゃないから」
「咲さんも何となく頑固そうに見えるけど・・・プリンちゃん分かる?」
「プライドは高いよ・・・ただ・・・」
「ただ?」
「えっ・・・いや・・・何でもない・・・」
「???」
何か言いかけたけど、それ以上は何も言わなかった。
「だけど、彼がお節介って言う以上、余計な事は出来ないわね。聖二君、分かったわね?」
「ちぇ・・・・」
僕たちは、祐介君を見守る事しか出来なかった。すると聖二君は大きく伸びをする。
「何だかオレも授業サボりたくなってきたな〜・・・先生どうです?次の時間オレと・・・」
「聖二君、授業頑張ってね」
怜先生はウインクしながら言う。聖二君はただ「はい」と頷く事しか出来なかった。
結局この日、祐介君が教室に戻ってくる事はなかった。(因みに聖二君は最後まで授業に出ていました)
HRも終わって、長い1日がやっと終わった。さぁ家に帰るぞ。いつもは僕とプリンちゃんと祐介君の三人で帰る。でも今日は二人きりだ。聖二君はHRが終わるとすぐに保健室に直行する。咲さんの姿は、気付いたら見えなくなっていた。
「今日は二人きりだね、プリンちゃん」
「うん」
僕らは学校を後にした。考えてみると二人きりで帰るのは今日が初めてだ。何だか緊張するぞ。
「ねぇ今日はせっかく二人きりだし、ケーキでも食べに行かない?」
「いいね、私も行きたい♪」
「この前出来た新しいケーキ屋に行こうよ」
「そうだね、まだ行ったことないし。お店に入れるかな・・・込んでなければいいなぁ」
「うん」
頷きながらニッコリと笑い僕を見ている。すると目が合った。僕は慌てて視線を反らした。真っ赤になった顔を見られたくないのもそうだが、可愛いすぎるので彼女の顔を直視出来ない。かなり照れてしまう。
「どうしたの?」
「うんん・・・・何でもない」
体が熱い、制服の中は汗でびっしょりだ。僕はプリンちゃんのことが完全に好きになっている。本当の性別なんて関係なく。
そんなこんなで歩いているとケーキ屋に着き、僕らはお店の中に入った。満席ではないけどそこそこ混み合っている。僕らは適当に空いているテーブルに座った。
「誠君、どれ食べる?」
「う〜ん・・・たくさん種類があって決められないなぁ。取りあえずいくつか頼んで一緒に食べる?」
「うん、いいよ」
一緒にケーキが来るのを待つ。が、僕はどうしても聞きたい事があった。しかし、なかなか言えないし言いづらい。聞きたい事とは、咲さんはプリンちゃんが男の子という事実を知っているかどうかだ。もし知っていたら問題はないが、知らなかった場合、プライドが高い彼女の事だ余計に癇癪を起こすだろう。まぁ、どっちにしろこの事は口に出さない方がいいので、聞きたくても我慢するしかない。
「ねぇ誠君」
「ん、何?」
「私、咲ちゃんに好きな人がいたこと分かってた。それが祐介君だったなんて知らなかったけど」
「僕も去年のお盆くらいから、夏休み中は祐介君とはあまり遊べなくなって・・・でも、咲さんの事は全然知らなかったよ」
「うん・・・それで夏休み終わってから咲ちゃんしばらく元気がなくて。もし、そのことがなかったらミスコンの結果も変わってたかもしれない」
「もしかしてミスコンって、二人が会わなくなった後に行われたの?」
「うん、わりとすぐに・・・だけどミスコンまでにはいつも調子に戻ってたよ。だけど、それは表面だけで内心は分からなかったけど・・・」
「もしかしたら、ミスコンの時も・・・いや、今も祐介君の事を引きずってるのかもね」
「うん」
その時、僕はふと視線を泳がした。
「あ・・・」
自然と声が出た。プリンちゃんは不思議そうに僕の顔を見る。ちょうど僕が店の入口を見た時、咲さんが一人で店内に入ってきていた。彼女は僕の視線に気付きこっちに向って歩いてきた。何故かまずいと感じ、慌てて視線をそらすが・・・
「なんで目をそむけるのよ誠」
「あ・・・何となく・・・」
「咲ちゃん!」
プリンちゃんはやっと彼女の存在に気付いた。
「二人きりでラブラブなところ悪いけど、私もここのテーブルでケーキを食べさせてもらうわよ」
そう言いイスに座る。いきなりの事だったので僕もプリンちゃんもキョトンとしている。
「何よ・・・?仕方ないでしょ、もうどこのテーブル空いてないんだから・・・それとも何?そんなに私が嫌なの?」
「そんな事ないよ・・・ねっプリンちゃん」
「う、うん」
「ふーん・・・あっそ」
咲さんは凄い人だと思う。ついさっき憎んでいると宣言した人の近くにいても動じずにしていられる。
「・・・・・」
僕らは一言も話さず、ちょっぴり気まずい雰囲気になった。しかし、沈黙を破るように咲さんが話す。
「やっぱ私が入ると気まずくなる?」
プリンちゃんと僕はビクッとした。僕は慌てて否定する。
「そんな事ないよ」
「じゃあ何か話してよ」
「えっ・・・・!」
「・・・・」
いきなり何か話せと言われても・・・何を言っていいか分からない。どうしようか悩んだ。僕は何でもいいから話してみた。
「あ、あの咲さんは祐介君の事をどう思ってるんですか!?」
「・・・・・」
僕は言った数秒後に気付いた。しまった慌てすぎて、核心的な事を聞いてしまった。
「さ、咲さん、えっと・・・あの・・・その・・・」
「誠って意外と度胸あるね。私はそっちに驚いたわよ」
「え・・・?」
「腫れ物に触るようにされるよりはいいわ。ストレートに聞いてくれた方が私としても気が楽だし」
僕はホッとした。てっきり激怒されるか、今以上に気まずくなるかと思っていた。すると、咲さんは話し出した。
「そうね・・・祐介の事は今でも好きね。好きすぎて仕方ないわ・・・まさかプリンを追って、あいつに会えるなんて思ってもいなかったわ」
「咲さん・・・」
「誠たちは、あいつから私の事聞いてるんでしょ?」
「うん・・・」
僕は悩んだ。祐介君もまだ咲さんの事を好きだという事を言うべきか。彼からは何もするなって言われたけど、今言わなければ後悔しそうな気がする。それに、彼女の気持ちも分かった。
「咲さん、実は・・・」
「言わなくていいわ、誠」
僕が、喋りかけると彼女はあっさり遮った。
「これはあいつと私の事だし、自分でどうにかするわよ」
すると、僕とプリンちゃんが頼んだケーキが運ばれてきた。数種類のケーキがテーブルの上に並ぶ。
「あ・・・私まだ頼んでなかった。ねぇ誠奢って」
「えっ!」
「別にいいじゃない。あんた男でしょ?ケチケチしない」
そういうと咲さんはいくつかケーキを頼む。なんて図々しい人だ!と心の中で叫んだ。そのそばで、プリンちゃんは一人で黙々と美味しそうにケーキを食べている。咲さんが現れて緊張していたけど、ケーキが目の前に出てきて少しは気が和らいだみたいだ。僕もケーキを食べた。美味しいがやはり会話が少ない。
「やっぱり私は邪魔かしら?」
と咲さんが聞く。
「うん・・・」
僕ははっきり答えた。
「はっきり言うわね・・・ちょっとカチンってきた」
「咲さん、ストレートに言ってくれた方がいいって言ったから・・・」
「何でもはっきり言えばいいって訳じゃないわよ。本っ当乙女心が分からない奴ね、ムカつく」
「うぅ・・・」
僕、この人はすごく苦手だ。本当にプリンと彼女は親友だったのだろうか。
「プリンはよく誠と付き合ったね」
「誠君はいい人よ、楽しいし。私は大好きだよ」
「まぁ、あんたにはお似合いかもね」
「うん」
ふと二人が自然な会話をしている姿を見ると、これが本来の形だと感じた。彼女はプリンちゃんを憎んでなんかいない。
「ねぇプリン・・・」
「ん?」
「私、あんたの事を憎んでる事に変わりはないわ。私を一人にしたんだもの」
「うん・・・そうだね」
「友達とまではいかないけど、前みたいに付き合ってもいいわ」
「咲ちゃん・・・」
「嫌なの?」
「違うよ・・・じゃあ約束して、ミスコンで決着をつけた後、また友達として私たち・・・」
「考えてあげてもいいわ」
「咲ちゃん、ありがとう」
「でも、あんたを憎んでいる事を忘れないでよね」
「うん!」
もしかしたら、咲さんは元の関係に戻りたかったのかもしれない。実際には、憎んでいると口にしているが、それは本心を隠しているだけで本当は彼女の事をしっかり思っている。そういった意味で、プリンちゃんはプライドが高いと言ったんだ。何となく咲さんの素顔を見れた気がした。
すると咲さんは、僕らが頼んだケーキを食べ始めた。
「あの、それ僕たちが頼んだんだけど・・・」
「あんたって本当にケチね。別にいいじゃない、ねっプリン」
「うん!」
気付けば僕たち三人の中には自然な会話が流れていた。確かに僕は咲さんが苦手だ。だけど決して嫌いではない。プリンちゃんとの関係も大丈夫だし、これからは僕もこの人と上手くやっていける。何となくそんな気がした。
「あ・・・もう一度言うけど、私と祐介は心配しないで」
「・・・うん」
「こうはっきり言っておかないと、あんたたちは本当に何かやりそうだしね」
「分かったわ・・・咲ちゃん」
「まぁ私も祐介も大丈夫よ」
しかし、その時
「こんなところで三人、何してるの?」
その声に一斉に振り向くと、そこには祐介君の姿が。
「あ、祐介君。ちょうどここで咲さんにばったり会ったんだよ」
「嘘つくなよ!誠!」
いきなり祐介君が叫んだので、周りにいたお客さんも驚いていた。
「余計な事するなって言ったじゃねーか!」
「ちょっと祐介!」
そう言いながら咲さんは勢いよく立ち上がった。
「咲は黙ってろよ!・・・外から三人が何か話してるのが見えて、来てみれば・・・」
「ち、違うよ祐介君!」
「うるせぇ!お節介なんだよ!」
ガーン!僕は心に大きなダメージを受けた。すると、祐介君は咲さんの腕を掴んで勢いよく歩き出した。
「な、何するのよ!どこに行くの?」
「いいから来いよ!」
咲さんは彼に圧倒されたのか、何も言い返さなかった。そのまま二人はお店を出ていってしまった。
「誠君、大丈夫?」
置き去りにされた僕とプリンちゃん。彼女は心配そうに僕に話しかけるが、あまりのショックで何も言えなかった。
「祐介君なら、勘違いしてることにすぐに気付くよ。大丈夫だよ誠君」
一生懸命に僕の事を元気づけてくれている。ありがとうプリンちゃん。
ここは町外れにある小さな神社。ここに人がいることは滅多にない静かな場所だ。オレは咲の腕を引いてこの場所に来た。
「祐介!いい加減しなさいよ!」
思いきりオレの腕を振り払う。咲はかなり頭にきてるみたいだ。今思えばちょっと無茶苦茶だったかもしんねぇ。だが、オレもこいつと同じように頭に血がのぼってる。もはや聞く耳なんてもってなかった。
「おい・・・誠たちから何言われたんだよ?」
「はぁ?」
「真面目に聞けよっ!」
「別に何も」
「嘘つくなよ!正直に言えよ・・・オレは、人に心配されたり世話焼かれたりするのは嫌なんだ・・・特にお前の事に関してはな」
「嘘じゃないわよ。自惚れないで。あの二人、あんたの事なんて一言も喋らなかったわ」
「・・・・でもお前、私たちの事なら大丈夫とか言ってたじゃねぇか」
「だって、あの二人お人よしじゃない。凄く心配してそうだったから。だから忠告しただけよ。私も自分の事を心配されるのは好きじゃないしね」
「・・・・・」
オレは勘違いしていた事にようやく気付いた。そんなオレに咲は容赦なく言う。
「あんたの勝手な勘違いよ。いい迷惑だわ。それに誠たち、かなり傷付いたんじゃない?どうすんのよ?あの二人は何も悪くないのに」
「・・・・」
「やっぱ何も言えないわよね。まぁあんたが悪いんだもん」
「・・・誠たちには素直に謝る」
「そーね。あの二人ならすぐ許してくれるわね」
「・・・・・」
オレは頭の中が真っ白になった。自分がこんなにも惨めに思うのは初めてだ。しかも咲を無理矢理ここまで連れ出して、これからどうすればいいのか分からなかった。でも、はっきりしている事がある。今この場にいたくないという事だ。オレの性には合わないが、情けねぇけど逃げるしかない。しかし、逃がさんと言わんばかりに咲は言う。
「あんた、まだ私に惚れてるでしょ?でなきゃ、ここまで我を忘れたりしないわ」
「な、何言ってやがる!」
「隠しても無駄よ。あんたって分かりやすいんだから。素直になりなよ」
「・・・お前に言われたくねぇよ」
「私は素直よ。だってまだ祐介の事好きだし」
「えっ・・・!」
「怒りたいのは私よ。去年の夏休みが終わってから一度も会いに来てくれないし・・・あなたが来るのをずっと待ってたのよ」
「だって・・・オレがお前と一緒の高校には行けねぇって言ったら、すげぇ悲しそうな顔してたじゃねーか。それ見たら会いにくくて」
「馬鹿じゃないの?確かに悲しかったけど、私は我が儘じゃないわ。だから高校なんてどうでも良かった」
「え・・・」
「それから一度も会いに来てくれないから、嫌われたかと思ってた・・・」
今の咲の表情は、去年の夏休み最後の日と同じ顔だ。オレはずっと咲を苦しめていたんだな。こいつの気持ち全然気付いてなかった。オレは、咲の気持ちを知るのが怖くて逃げてただけ。もしかしたら、オレは誰よりも臆病だったのかも。咲は逃げてない。オレは・・・
「咲、心配させちまって悪かった・・・・ごめん」
「あんたが私に謝るなんて・・・らしくないわね。でも悪くないわ」
「・・・オレもお前の事好きだ」
「知ってる・・・私もよ」
人気も寄らないこの場所なら誰かに見られる事はない、しかし今は見られても構わない。オレは咲を強く抱きしめた。
「もう二度と咲を手放したりしねえよ・・・ずっとお前だけを見てる」
「言ったわね、約束よ。もし破ったら今度は承知しないから」
「ああ」
オレたちは再び互いの気持ちを知った。そして互いに素直に・・・いや、オレが素直になったんだ。オレ、少しは変われるかな。
すると、咲はそっとオレから離れた。
「誠たちのとこ行ってきなよ。私、ここで待ってるから」
「・・・いいのか?」
「ええ。たぶんかなり落ち込んでると思うからから、早く行った方がいいわよ」
「そう・・・だな・・・悪りぃな、ちょっと行ってくる。すぐ戻るから」
「はいよ」
その後、オレは急いで誠たちのところへ向かった。さっきのケーキ屋に着いた時には、もう二人とも店にはいなかった。オレは走って誠の家の方へ。
運が良かったのか、誠たちが二人で帰っているところに追いついた。オレは息をきらして汗だくだ。当たり前のように二人は驚いている。
「咲から全部聞いたよ。オレの勘違いだった・・・酷い事言って悪かった!」
オレは素直に謝った。すると、咲の言った通りすんなり許してくれた。というより、オレの事を少しも悪く思っていなかったみたいだ。本当にお人よしだ。ただ、誠に関しては少しウザかった。オレが現れるまで死んだような顔をしていて、そして謝ると泣いて抱きついてきやがった。キモかったけど誠はかなり傷付いていたみたいだ。マジで反省。
当然だが咲の事を聞かれた。で気持ちを分かり合えたと伝えると、自分の事のように喜んでいた。本当に純粋な人だな。この二人と親友で良かったと心から思った。
そして、オレは急いで咲のところへ。
翌朝、いつものように僕はプリンちゃんと一緒に教室に入った。聖二君と祐介君はまだ来ていない。何もない普通の日は、遅刻かギリギリだからいるはずがない。
あの後、祐介君と咲さんはどうなったんだろう。詮索する気はないけど気になる。とその時、まさに噂をすれば影、ちょうど祐介君と咲さんが教室に入ってきた。僕は二人で一緒に登校してきたところを見て安心した。しかし、周りの生徒たちざわついている。二人が付き合っているという事は、見れば誰でもよく分かる感じだったからだ。僕とプリンちゃんの時と一緒である。転入初日に付き合うのだから当然かも。しかし、祐介君はどこか浮かない顔をしていた。
すると、咲さんは小さく舌打ちをした。おそらく、周りのざわつきが気に入らなかったのだろう。
「咲さん、おはよう!」
僕が挨拶をした瞬間、彼女は思いきりカバンを机に叩き付けた。
「・・・・・」
クラス中が一瞬にして静まり返った。ちなみに一番驚いたのは僕だ。
「変なクラスね。いちいちざわついて。祝福の一つもしてくれないわけ?ね、祐介」
「・・・・・」
「ちょっと祐介!」
「ん・・・あ、ああ」
「・・・・・」
この後、気まずい雰囲気になるかと思ったが、そんな事はなかった。祐介君も咲さんもビジュアルがいいから、自然と二人に人が集まってくる。恐るおそる咲さんに近づいて話しかける女子、しかしすぐに自然な会話になっていく。祐介君も男子から人気があるし、意外に女子にも人気がある。一見近寄りがたい雰囲気がある彼だが、聖二君に次ぐいいルックスを持っている。だから、聖二君と二人で話している様子は絵になると女子がうっとりするくらいだ。
その時、聖二君が教室に入ってきた。
「聖二君、おはよー!」
クラスの女子が一斉に呼びかける。彼は爽やかな微笑みで手を振った。女子生徒たちの多くがうっとりしている。そして、彼は祐介君たちの存在に気づいた。
「二人、より戻したんだ。良かったじゃん!」
「聖二!てめぇ!」
祐介君はいきなり怒りだし、聖二君の胸ぐらを掴んだ。
「何だよ?オレは心から二人を祝福してるんだぜ」
「聖二、とぼけんな・・・お前知ってただろ?何で言わなかったんだよ」
「はぁ?何が?」
聖二君はニヤニヤしている。僕は二人が何の事を言っているのか分からなかった。すると、プリンちゃんは僕の制服の裾をクイクイと引っ張る。
「しらばっくれんなよ、聖二!」
「はぁ〜?何の事かさっぱり分からないなぁ」
「て、てめぇ〜」
祐介君がそう言うと、咲さんは彼の肩に軽く手を置いて言う。
「聖二がもし、その事を言ってたら、あんたはどうするつもりだったの?」
「どうするって・・・・」
「あんた言ったわよね?二度と私を手放さないって」
「ああ・・・もしオレが知ってたとしても、今と変わってないと思う・・・だけどな!」
「ならいいじゃない、ねっ聖二」
「なぁ〜咲」
僕は、祐介君たちが言い争っている事の内容をやっと理解した。プリンちゃんが耳元でそっとささやいた言葉、それは―――
・・・実は、咲ちゃんも男の子なの・・・
プリンちゃんが男の子という事も彼女は知っていたらしい。というより、お互いに男の子という秘密を守り合っていたみたいだ。
「でもいいの?この秘密を僕なんかに教えちゃって・・・」
「うん、誠君ならいいと思う。聖二君や祐介君も知ってるみたいだし。私のことも知ってるしね」
「そう・・・」
咲さんが男の子という事には驚いたが、それほど衝撃を受けた感じではなかった。変な言い方だが、そういうのはプリンちゃんで慣れてしまったからだと思う。男の子という事実があっても、本当に女の子という感じ強い。少なくとも、僕は二人が男の子である事を忘れられるだろう。
「てかよ、何で聖二がその事知ってんだよ!?」
「私が教えたのよ。それに何となく見透かされてたし・・・恐ろしい勘よ」
聖二君、流石。
「で、そういう祐介はどうやって知ったんだ?咲が自分から言うとは、あまり思わないが・・・まさか祐介、早まったか?」
「な、何言ってやがる聖二!」
「当たりよ」
「うるせー!咲だってなぁ!」
言い争いが多いけど、心の中では嬉しいんだろうな。祐介君も咲さんも。
そして、この日から咲さんも加えて六人、屋上で昼食をとることに。怜先生も咲さんの秘密には驚いていたけれど、祐介君との事を喜んでいた。ちょっぴり照れる祐介君に、何一つ動じない咲さん。そんな二人の様子を見れるのが僕も嬉しい。二人が結ばれて良かった。
二人が出会う事で、祐介君の知らなかった部分を見れたような気がする。幼なじみで、ずっと一緒にいたのに分からない事があったなんて。これからはもっと親友を見ていこう。もちろんプリンちゃんのことも。
僕はそっと心の中で祈った。プリンちゃんのことをずっと好きでいる。絶対離したりしないから。