第二話 プリンちゃんの恋愛物語 〜出会い〜
僕が高校に入学してから2ヶ月近くがたった。新しい学校生活にもだいぶ慣れ友達も増えた。入学した高校は特に勉強が盛んなわけでもなく、男女共学でどこにでもあるような普通の学校だ。自分で言うのもなんだが、僕は勉強ができる方だと思う。塾には通っていなかったが中学校の時、成績は常にトップの方でその時の先生からは有名な進学校にいけると言われていたくらいだ。しかし、僕は進学校には入らなかった。決して勉強が嫌とか面倒くさいとかという理由ではない。ある2人の友達と一緒に同じ高校に行こうと決めたからだ。僕たち3人は、幼稚園の時からの親友で何をするにもいつも一緒だった。だから、行く高校も一緒にしようと約束して皆で行ける高校を探した。それで僕らは、今の高校に入学する事になったのだ。本当はこういう進路の決め方は、良くないと思うけど僕はこれでいいと思う。僕も3人でいたいという強い思いがあったら。
いつものように今日、僕は朝8時前に家を出た。家から高校までは徒歩で10分くらいだ。家から近いところに高校があるという事は、少し寝坊もできるし嬉しいと思う。それにしても良い天気だ。心の底から頑張ろうという気持ちになれる。
すると、僕が学校に向かっていると、この辺りでは見かけない女の人が一人歩いていた。年齢は僕と同じくらいか少し下か。しかし、制服などは着ていない。そんな事よりも、その女の人がとても可愛かったので、かなり僕の印象に残った。そんな事を考えていると、その女の人と目が合った。
「おはようございます」
突然、彼女に挨拶され驚いた。あまりにも可愛い微笑みで言ったのですごくドキドキした。けれど僕は、必死で平静を保ち軽く会釈だけしてそのまま学校へと歩いていった。
1年1組、僕のクラスだ。教室に行くと、鳴海聖二君と山岸祐介君は既に登校していた。この二人が幼稚園の時からの親友である。僕たち三人は奇跡的に同じクラスになれたのだ。二人とも、すっかり髪の色が変わっていたりピアスを付けていたりと、中学校の時から比べればかなり変わっている。その点、僕は何一つ変わっていない。
「おう誠、おはよ」
誠というのは僕の名前だ。僕が自分の机の上にカバンを置くと、聖二君と祐介君が近くにやってきた。
「おはよう、二人とも今日来るの早いね」
「のん気だな、誠」
祐介君は、何か呆れたように言うが何かあったのだろうか、さっぱり分からなかった。
「今日このクラスに、転入生が来るってこの前先生が言ってたじゃん。なぁ聖二」
「ああ」
そう言えばそうだ。僕はすっかり忘れていた。
「どんな人が来るのかな・・・そうだ誠、聖二、賭けしない?」
「え、賭け?」
「今日来る人が男か女かだよ」
「賭けか・・・」
「なんだよ聖二、やろうぜ。オレは男に500円賭ける!お前もだ誠。オレたち三人は強制だぜ」
「えー嫌だよぅ。それに僕ら三人強制って、わけ分からないよ」
僕たちがくだらない事で言い争っていると、このクラスの担任の高橋先生が教室に入ってきた。すると、その後ろに女子生徒が一人。
「あれ?」
僕は、その時目を疑った。この人は今日僕が学校に来る時に見かけた女の人だ。しかし、彼女はこの学校の制服をしっかり着ている。今日、僕が会った女の人は制服なんか着ていなかった・・・。
「彼女は、この町に引越ししてこの学校の転入試験を受けた。そして今日から1年1組に入ることになりました。じゃあ、少し自己紹介をしてもらおうかな」
高橋先生がそう言うと、彼女は顔を赤めてゆっくり話し始めた。
「私の名前は美月プリンっていいます。・・・えっと、変わった名前ですけど皆さん仲良くしてください」
名前を言った瞬間、クラス中がざわめいた。美月プリン、確かに変わった名前だけど不思議な事に僕には違和感はなかった。なんだか分からないけどプリンって感じの可愛い女の子だ。僕は思い切って彼女に話しかけてみた。
「あの、プリンちゃん・・・確か朝、僕と会いましたよね?」
「ああ、あなたは、今朝の・・・」
彼女はニコッと微笑んだ。思わず顔が熱くなった。
「なんだ、誠君の知り合いか。じゃあ、彼の隣の席を使うかい?」
高橋先生は偶然僕の隣の席が空いていたのを見て、プリンちゃんを席へ誘導した。僕のちょうど後ろの席にいる、祐介君が背中をつつき話しかけてきた。
「誠、あんな可愛い女の子と朝何してたんだよ」
「別に何もしてないよ。ただ学校来る時に、すれ違ったから軽く挨拶しただけだよ」
すると、僕の前の席にいる聖二君が振り返り小声で僕につぶやいた。
「誠、彼女のこと好きならオレに相談しなよ」
実は聖二君、女子生徒にすごく人気がある。超モテるのだ。ルックスが良く話しも上手い。彼がキレイな顔を近づけ、言葉を一声かければ大体の女性はメロメロになってしまう。もうこの学校でも、女子生徒の間には聖二君の名前は行き渡っている。それに彼自身も女性には目がなく、また女性と関わる事を生きがいとしているような人だ。だから女性や恋愛の事になると、必ず何かアドバイスをしたり相談に乗ろうとしたりする。
「あ、あのね、僕はそんなこと思ってないよぅ・・・」
僕も小声で話す。しかし、そんな事を言っておきながらプリンちゃんが、僕の隣に座るとつい意識してしまう。なんか緊張する。
「ねぇねぇ」
突然プリンちゃんが僕に話しかけてきた。思わずドキッとしたが、冷静にプリンちゃんの方を向いた。
「一緒の学校だったなんて、びっくりしちゃった。えっと名前は何ていうんですか?」
「あ、ぼっ僕は鈴木誠。よろしく」
「こちらこそ。よろしく」
「そういえば、朝は制服着てなかったよね?」
「うん、今日もらったんだ。それでさっき着たの。・・・でも私って方向音痴でしょ。誠君とすれ違うんだもん。目的地は一緒なのに」
「初めてだから仕方ないよ」
すると、高橋先生は教卓の上で束ねていたプリントを配り始めた。数学のプリントだ。担任の高橋先生は、数学担当でよく抜き打ちテストをやる。
「転入生も来たことだし、早速テストをやるか!」
教室中はブーイングの嵐となった。
抜き打ちテストの結果はすぐに返ってきた。僕は100点満点中96点だ。もちろん僕は勉強が得意だから抜き打ちだろうがいつもこんな感じだ。「誠君、テストどうだった?見ていい?」とプリンちゃんが僕の答案用紙をのぞいた。
「すごーい、誠君って勉強出来るんだね!」
「そんな事ないよ。プリンちゃんはテストどう?」
彼女は僕に答案用紙を差し出した。名前の横には88点と記されていた。
「プリンちゃんだってすごいじゃないか」
「えへへ」
彼女は頬を赤く染めて照れている。その顔を見ていると、そのうち意識がなくなっていくような気がして頭がぼーっとする。我に返るまでどのくらいたっただろうか。気づくと彼女の姿が見えない、僕は自然とプリンちゃんをさがしていた。彼女はすぐ前の聖二君のところにいた。心が痛む、彼がかっこいいからこそ余計に心が痛む。既に二人も打ち解けたみたいだ。すると、プリンちゃんが聖二君に聞く。
「聖二君はどうだった?テスト」
「・・・・・」
彼は何も答えなかった。周りもシーンとしている。そして、意を決したように彼は答案用紙を見せた。
「オレは・・・3点・・・」
プリンちゃんはその場で立ちすくんでしまった。
聖二君は男なら誰でも嫉妬する美しい容姿を持つが勉強が大の苦手なのだ。この高校の筆記試験もほとんど出来なかったらしい。おそらく、どこの高校の筆記試験でも変わらなかっただろう。そんな彼がなぜ合格したかというと面接試験だ。たまたま面接の試験管が女性だったので、キレイな顔と得意の言葉でその試験管もメロメロにしてしまったという。とにかく、勉強が苦手という事は聖二君にとって唯一の欠点であり彼自身も悩んでいる。
「ご、ごめんなさい!私、何も知らなくて・・・」
プリンちゃんは慌てて聖二君に謝った。それを見ながら祐介君はニヤニヤしている。
「ハッハッハッ、気にするなよプリンちゃん。聖二はもともと勉強だけはビリだから!バカなの!この前だって分数のかけ算に30分も悩んだんだぜ!」
すると、聖二君は立ち上がり祐介君の前まで歩いていった。
「てめぇ、祐介・・・」
「あぁ?何だよ・・・」
この二人はよくケンカをするけど、こんなところでやるのは流石にマズイと思い二人を止めた。
「ちょっと、聖二君も祐介君もやめなよ。落ち着いて」
「・・・・・・」
二人は黙って自分の席に戻った。すると、プリンちゃんは聖二君を追いかけて近くに寄る。近くに来る彼女に気づき振り向く聖二君。
「プリンちゃん、祐介が言ったみたいに気にしないで。オレも気にしてないし。もっと気軽に・・・ね」
彼が、プリンちゃんに優しく接すると彼女は微笑んだ。もしかしたら聖二君、彼女を狙っているのかもしれない。無意識にそんな事を考えてしまう僕はどうかしている。
「聖二君は勉強が苦手だったんだね。私でよかったら一緒に勉強教えてあげるよ。がんばろう、協力するよ」
ニッコリ微笑みながらプリンちゃんは言うが、彼は何も答えないまま彼女をじっと見つめている。そして、聖二君はフッと笑った。まさか、彼もプリンちゃんの事を・・・。内心あせっている。どうしよう、もし本当にそうだったら僕に勝ち目はない。とりあえず声をかけてみよう。
「ねぇ、聖二君」
すると、僕の言っている事を無視して彼はプリンちゃんに話かけた。
「プリンちゃんさ、何か隠してない?」
その瞬間、彼女はドキッという反応を見せた。それにしても、突然何を言い出すのかと思えば「何を隠している?」なんて、失礼にも程がある。僕は聖二君に言ってやった。
「何言ってるんだよ聖二君!何を隠してるっていうんだ、謝ってよ!」
彼女は、何も言わず顔を伏せてしまった。
「プリンちゃん、ごめんね。聖二君たまに変な事言うからさ。別になんでもないんだよ」
「・・・・」
けれど結局、この後彼女は何も答えてくれなかった。
僕と聖二君と祐介君の三人は、いつものように屋上でお弁当を食べている。だけど、今の僕はプリンちゃんの事で頭がいっぱいだった。もしかして、聖二君の言った事をまだ気にしてるんじゃないかな。ああ心配だ。まったく聖二君は何を考えてあんな事を。
「聖二君、あのさ・・・」
「ん、何だ?」
「何だじゃないよ。プリンちゃんのことだよ。何を隠しているって言うんだよ。いきなりあんな事言って失礼じゃないか」
「ああ・・・あれか。別に根拠があるわけじゃないけどさ、何か隠してそうな感じがしたから。オレは今までいろんな女を見てきたからな。何となく分かるんだよ」
「そういう事じゃなくて・・・・いきなりだから失礼とかそういう事はないの?」
「分かってるって。それよりお前、彼女のこと好きだろ」
祐介君は、パンを食べながら僕を見てニヤニヤと笑っている。しかし、そんな事は気にせず話し続けた。
「そうだよ。今日、朝プリンちゃんに会った時から好きって分かってたよ・・・・聖二君こそ、プリンちゃんのこと好きなの?」
「あいにく、オレにはもう既に狙っている人がいてね。安心しな、むしろ応援するよ」
それを聞いた祐介君は僕を茶化す。
「あーあ・・・これから切ない恋が始まるのかぁ」
「せ、切ない恋だとぉ!この僕が初めて恋をしたんだ。真剣なんだよ!」
「はいはい」
完全にバカにされている。確かに僕は女の人と付き合った事なんてない。得意なものは勉強だけでつまらない男だと思う。そんな僕だけど恋をしてしまった。彼女のことが好きだ。
「僕は本気なんだ!彼女が振り向いてくれるのなら僕は何でもする!それくらいプリンちゃんのことが好きなんだ!」
二人で言い争っていると、聖二君が話しを中断するように僕と祐介君の肩をたたき、どこか指差す。何がなんだか分からなかったが彼が指差した方に目を向けると、なんとそこにはプリンちゃんが立っていた。
「プ、プリンちゃんっ!!!」
「や、やぁ」
彼女は少し息を切らしている。きっとここまで走って来たのだろう。しかし、そんな事はどうでもいい。まさか僕が今言った事が聞こえてしまったのか・・・?
「あ、あの、プリンちゃん・・・もしかして今の少しでも聞こえちゃった?」
「全部・・・(照)」
「!!!」
息を切らしながらだが、彼女は頬を赤くしてニッコリと笑った。僕とした事が!なんてバカなんだ、恥ずかしすぎる。もうどうなったっていいようにも思えてきた。そんな僕の事など、どうでもいいかのように祐介君は話す。
「だけどプリンちゃん。オレたちがここで弁当食べて事よく分かったね」
「クラスの人に聞いたの。三人はいつも屋上で食べてるって」
「でもどうしたの?こんなところに来るなんて。まさかオレが言った事?」
「は、はい・・・実は私、聖二君が言ったとおり隠してることがあるんです・・・」
僕は一瞬耳を疑った。じゃあ聖二君の言った事は当たりだったのか。でも隠してるって一体何の事だろう。なんか気になる。何が何であれ、僕は彼女に好きと言ってしまったんだ。気持ちを知ってしまった。僕もプリンちゃんのことを知りたい。
「もしかして、その事をオレたちに?」
「はい、教えに来ました。あっ、でも・・・・」
彼女は顔を伏せて言うのを戸惑っている。それほど重大な事なのだろうか。その様子にいち早く気づいたには、やはり乙女心のスペシャリスト聖二君だ。
「無理して言わなくてもいいよ。オレたちだって何も思ってないし」
「・・・でも、そういうわけには」
僕は彼女の近くに歩み寄った。もう恥ずかしくなんてない、自然と後ろから彼女を抱きしめていた。プリンちゃんの、長い二つにしばっている髪から優しい良い香りがする。
「ま、誠君・・・?」
彼女は当然驚いていた。震えているのが伝ってくる。
「おいっ誠!何やってるんだ。狂ったか!?」
祐介君が何か言っているようだが、今の僕には何も聞こえない。だから無視した。
「大丈夫、プリンちゃんが何を言っても僕は決して嫌いになんかならない・・・約束する」
「本当?」
「うん、本当」
「ありがとう・・・」
僕はそっと離れ、彼女の正面に立った。少し間があり、ついにプリンちゃんは言ってしまった・・・
「・・・実は私、男の子なの・・・」
一瞬、僕は何を言っているか理解出来なかった。
「ねぇ、プリンちゃん・・・男って一体どういうこと?」
「え、だから・・・私は女の子じゃなくて、男の子なの」
プリンちゃんの顔は真っ赤だ。そんな表情を見て、僕は嘘をついてるように様には見えなかった。
「・・・冗談だろう?まず、オレが見てもそんな男という感じはしなかった。何か隠してるって感じはあったけど。嘘はよくないよプリンちゃん」
「そんな聖二君、私の言ったことは嘘じゃないわ・・・!誠君も祐介君も私は本当に男よ、信じて・・・!」
「んーそうだなぁー、聖二がそんな事に気づかないなんて事ないよ。乙女心のスペシャリストの目はごまかせないってこった。まぁ、でも調べてみないとどうか分かんないな」
そう言うと祐介君はプリンちゃんに歩み寄る。
「祐介君、な、何をするんだい!?」
「だから調べるの。○○○がちゃんとあるのか・・・本当に男だったらいいよね?プリンちゃん」
「変な事言うなよ!何考えてるんだよ祐介君、そんなの男も女も関係ないよ!プリンちゃん、彼の言う事なんか聞かなくてもいいんだよ」
「調べてもいいです。そのかわり、どんな結果になってもその真実を受け止めてください・・・」
「ああ」
「ちょっ、ちょっと祐介君!!」
祐介君の手が、プリンちゃんの方へ伸びていった。
白衣を着た美人な先生が1年1組を覗いた。名前は木村怜。保健室の先生であり、また抜群のスタイルと美しい顔立ちでこの学校の人気ナンバー1を誇る美人先生。まさに男子生徒達の憧れの的である。
「あれ、怜先生だ。あの三人ならとっくに屋上に行きましたよ。たぶん先生の事を待ってますよ」
1年1組の女生徒が怜先生に言う。怜先生は微笑みながら軽くうなずき、そしてまた教室を眺める。
「先生、どうしたんですか?」
「今日、このクラスに新しい生徒が来るって言ったからちょっと見に来てみたけど・・・」
「ああ、プリンちゃんならさっき教室から出て行きましたよ。どこに行ったんだろう・・・トイレかな?」
「えっ??プリンちゃん???」
「そうなんですよ、美月プリンって言うんです。変わった名前でしょ、プリンだなんて」
「そう、変わった名前ね・・・何だぁ、いないのか。じゃあ後でまた来るわ、ありがとう」
あまり廊下にいると、男子生徒が大勢集まってくる。だから先生は、速やかに歩き出し屋上へ向かっていった。怜先生は雨の日以外は、ある三人の生徒と屋上で昼食をとっている。特にその三人組を特別扱いしているわけではない。三人が入学する前の年は、怜先生が一人で屋上に行ってお弁当を食べていたらしい。その三人組が入学してからは、いつもそろって勝手に屋上に来ていた。それから、同じ場所で一緒にお昼ご飯を食べるようになったのだ。今日はたまたま、昼食前の4時限目に体育で捻挫をしてしまった生徒がいたのでその手当てで昼食が遅れたのだ。そして、いつもはすぐに屋上に行くが、今日来る転校生の事を少し思い出し1年1組の教室に来ていた。
「あの三人、まだ屋上にいるのかしら・・・?」
怜先生が屋上への階段を上っていく。そして扉を開けた。
「・・・・・・・・・・・・」
「あ、怜先生・・・」
「ちょっとケガの手当てしてたら遅くなっちゃったわ。誠君たちもうお昼すんじゃった?・・・何か元気ないわね。どうした三人組?」
当然、怜先生の言う三人組とは、僕と聖二君と祐介君の事だ。
ちなみに、今聖二君が狙っている女性とは怜先生なのだ。僕たちが入学して間もない頃、聖二君は怜先生に告白した。だけどあっさりと断られたらしい。しかし聖二君は意地とプライドにかけて、もう一度怜先生にプロポーズをしたけど、結局ビンタ付でフラれたらしい。彼のプライドはズタズタにされた。それで、今でも聖二君は怜先生の事をずっと狙っているみたい。
まぁ話はずれたけど、怜先生はいつもここに来ていて僕ら4人で昼食をとっているという事だ。で、先生が今の状況が分からないのは当然である。
「えっと今日、僕たちのクラスにプリンちゃんって子が来たんですよ」
そう言うと、怜先生は彼女の存在に気づいた。
「ああ、あなたね。プリンちゃんでしょ!知ってるわよ可愛いじゃない、こんな可愛い女の子が来てたなんて。もしかして聖二君、早速口説こうとしてたの?前に女性を騙すのはよくないってあれほど注意したでしょう」
「別に口説いてるんじゃないんですよ・・・」
すると、祐介君の顔がゲッソリしている事に気づく。
「どうしちゃったの祐介君まで、いつもはうるさいのに・・・」
「・・・怜先生、プリンちゃんは男なんです」
「はぁ?こんな可愛い女の子が男なわけないじゃない。じゃあ何?オカマちゃんとでも言いたいわけ?」
「オレだって最初は信じられなかった。でも調べてみたんすよ・・・そしたら本当に・・・なぁ誠、聖二」
「・・・・・・・」
先生はプリンちゃんの方を見た。
「あなた、本当に男の子なの?」
「はい・・・」
「学校はこの事、知ってる?」
「いいえ、学校には秘密にしています。誠君たちに初めてこの事を言いました。すみませんでした・・・」
すると、怜先生はクスクスと笑い出した。何が面白いのだろう・・・まったく分からない。それより僕は、プリンちゃんが男ということにショックを受けていた。彼女に恋をしていただけにショックも大きい。
だけど、こんな事この学校の先生に言っちゃったら・・・でも怜先生はニコニコしながら言う。
「フフフ・・・別に謝らなくたっていいわ。どうやら男の子って言うのは本当みたいね。でも何で女の子の姿でいるの?女の子になりたかったの?」
「私、もともと子どもの頃から女の子みたいだったから、よくいじめられて・・・それで、決心したんです。本当に女の子になっちゃおう・・・って」
「なるほど。で、なんでこの三人にだけ自分の秘密を言ったの?」
「そ、それはぁ・・・・」
彼女は答えるのに困っている。でも、何故大切な秘密を僕たちにだけに言ってくれたのかは僕も気になる。聖二君が何か隠してるって言ったから?
「それは?」
先生は問い詰めると、プリンちゃんは両手で頬を覆い僕たち男三人の方を見た。
「そんなの決まってるじゃないですか・・・さ、三人とも私の好みの男の人だからですよ」
「えっ・・・・!?」
僕はゾクッと背中に寒気が通ったような感じだった。確かに僕は恋をしていたけど、男の人という事実を知るとそんな感じには・・・しかし、それでも前にいるプリンちゃんは可愛い。本当の女の人のように。
「はは・・・まさかプリンちゃんが、オカマだったなんて・・・」
流石の祐介もそんな事しか言えなかった。
「だめ、オカマなんていわないで!あと、私のことをプリン君とか男を示す呼び方もやめてね・・・は、恥ずかしいよ。体は少し男でも女として生きていくって決めたんです。女として接して下さい」
「でも可愛いし本当に女の子に見えるわよ。言われなきゃ誰も分からないわ。そういえば、あなた男の子でもスタイルがいいわね」
そう言いながら怜先生は、プリンちゃんの体をじろじろ眺める。
「あ、胸は豊胸手術しました。声だってもともと女の子みたいな声だったし・・・」
「へぇ・・・そうだったんだ。まぁ安心して、この事はここだけの秘密にするから」
「ほ、本当ですか先生!ありがとうございます!!」
「もし悩みとかあったらこの三人に何でも言っていいのよ。私もたいていは保健室にいるし。お昼もここで食べたら?私たちはいつも来てるから」
「はい、ありがとうございます!」
プリンちゃんはこの学校に来たばかりだし、「実は男の子」っていう秘密もある。確かにこれからいろいろと問題が起きてくるかもしれない。もし本当に問題が起きたら彼女を守ろうという気持ちになる。だから先生の言う事は納得できる。とりあえずこれで一事は解決したと思った。しかし・・・。
「誠君・・・」
「ん?」
プリンちゃんが目の前までやってきて、手上目使いで僕を見た。男でも流石にドキッとする。
「誠君が私のこと好きって言ってくれた時、私嬉しかったよ・・・・」
「え・・・ま、まさか、プリンちゃん・・・・!」
「うん、私も誠君のこと好きよ。大好き・・・・」
彼女は僕に抱きついた。僕はどうしたらいいのか分からず何も言えなかった。というより何を言ったらいいのか分からなかった。どうする事も出来ず怜先生に助けてもらうべく、チラリと視線をおくった。
「フフッ・・・」
またも先生は笑う。僕は真剣に助けを求めているのに・・・
「なかなかいい感じのカップルじゃない!誠君、付き合いなさいよ、プリンちゃんのこと好きなんでしょ?」
「怜先生、いくらなんでもそれは・・・男同士じゃないですか。無茶ですよ」
先生と聖二君と祐介君が、一斉に僕を睨みつける。な、何で・・・?
「誠君、プリンちゃんは女の子として生きていくって決めたのよ、分かってるの?それなのにあなたって人は何て事を言うの・・・女の子を泣かす男は最低よ!」
「誠、愛に性別なんて関係ない。愛し合う思いさえ強ければな」
「先生や聖二の言うとおりだぜ。それに、テメーはしっかりと彼女のこと好きって言ったじゃねーか、あぁ!?」
僕はプリンちゃんを見た。彼女は心配そうに僕を見る・・・その時決心した。
「プリンちゃん、付き合う?」
「・・・・本当にいいの?私、男の子だよ」
「うん、いいよ・・・・今皆が言ったとおり」
「あ、ありがとう・・・誠君」
すると、一斉に拍手が飛び交った。本当に皆は祝福しているのだろうか、よく分からなかったけどもう笑しかない。プリンちゃんも何だか嬉しそうだからいいか・・・本当にいいのか?僕は分からなかった。
その時、チャイムが鳴った。
「はい、これにて一件落着!ほら、皆もう授業よ。教室に行きなさい」
怜先生が僕たちを促す。
「ホントだ授業始まっちゃうよ。誠君、次の授業は何だったっけ?」
「えっと・・・・何だったかな・・・?」
「次は聖二君の得意な数学ですよ!」
「黙れ祐介・・・・それより先生、お昼まだでしょ?オレ授業サボりますよ。一人じゃ寂しいでしょ」
「あら聖二君ありがとう。でもあなたにとって、授業はとても大切なものじゃなくて?私は一人でお昼食べるから授業を一生懸命やってきなさい」
「・・・・・・・・・・」
仕方なく聖二君は教室に向かった。僕らも後を追いかけるように教室に向かった。
こうして、今日からプリンちゃんが加わり僕たち4人の新しい学校生活が始まった。これから先、どうなっていくのか。そして僕とプリンちゃんは・・・
とにかく何が起きようと乗り越えていくしかない。これからの学校生活がどうなるか、不安の気持ちもあるし楽しい気持ちもある。だからこそ、僕たちは皆で力を合わせていきたいと思う。さて、授業にでも集中するか。