第6話
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昼の休憩を告げる鐘がなると、エレナは席で教科書を片付けているフィルミナの元に行く。
「フィルミナ様、本日は中庭でランチをいただきませんこと? うちの料理長が腕によりをかけて作ってくれましたの? フィルミナ様にも召し上がっていただきたいですわ」
「わたくしは食堂でテイクアウトをしようと思っていたのだけれど、お言葉に甘えてごちそうになろうかしら?(エレナのところのお料理は美味しいのよね)」
エレナは周りを見渡して、エドワルドとトームスを探す。
「あら? エドワルド様とトームスはおりませんのね」
「先ほど2人で出ていったわ。お仕事の話ではないかしら?」
「そうですか。4人分あるのですけれど。では、先に準備をさせましょう」
エレナは教室の入り口で待機していた侍女に目配せをする。あらかじめ打ち合わせをしてあったのだろう。侍女は一礼すると準備するため中庭へと向かった。
フィルミナとエレナは放課後に寄り道する例のパンケーキの店での話をしながら、中庭へと向かう。
「ご覧になって。四重奏のお二人よ」
「フィルミナ様はお美しいし、エレナ様はお可愛いし、素敵ね」
すれ違う生徒たちがフィルミナとエレナに賛辞をおくる。ちなみに四重奏とはエドワルドとトームス、フィルミナとエレナの4人のことである。いつも一緒に行動しているので、誰ともなく四重奏と呼ぶようになった。
4人とも成績優秀で美男美女。1人ビン底眼鏡がいるが、鼻と口の形は良いので、あの眼鏡をはずせば美形だろうと令嬢方は勝手に思っている。おまけにあの若さですでに子爵家の当主だ。全生徒の注目の的なのだが、当人たちはどこ吹く風である。
フィルミナとエレナはすれ違う生徒たちのつむじをチェックすることを忘れない。今日の考察の主題は『つむじ』である。ほんの一瞬で気づかれることなく、つむじを見るのだ。もはや名人芸と言っても過言ではない。
中庭に続く回廊に差し掛かった時に、庭にある木の下にいる2人に目がとまる。エドワルドとアンジェリカだった。
「あれはアンジェリカ様とエドワルド様……ではありませんわね」
「トームスですわね(つむじが逆向きよ。まだまだね)」
エドワルドに変装した(といってもメガネをはずしただけだが)トームスとアンジェリカが何事か話をしている。フィルミナとエレナは近くの木陰に移動するとそば耳を立てる。
「エドワルド様。よろしければ今日の放課後お茶をご一緒していただけないでしょうか?」
「すまぬが、今日はどうしても抜け出せぬ用事があるのだ」
アンジェリカはしゅんとすると「どうしてもですか?」と上目使いで偽エドワルドを見る。なんとも庇護欲をそそる様だ。
(うっ! 断わりづらいけど、今日は絶対パンケーキを食うんだ!)
「女性には優しく」と父に言われて育ったが、パンケーキの誘惑が勝った。
「すまぬ、アンジェリカ嬢。また埋め合わせはしよう」
(殿下がな)
心の中でこっそりとつぶやく。
「絶対ですよ」
アンジェリカはにこりと微笑むと駆け出し、回廊の奥へと消えていった。トームスはアンジェリカが去ったのを見届けるとふぅと息を吐く。
「そこの木陰にいる2人と木の上にいる殿下、出てこいよ」
フィルミナとエレナは木陰から出ていき、エドワルドは木からひらりと飛び降りる。ビン底メガネをかけている。
「エド、そこにいらっしゃいましたの(木登りは得意ですものね)」
「フィーこそかくれんぼが上手だね」
「いや。わりとバレバレだったぞ」
「あら? 気配は隠していましたのに」
それぞれ会話が合っているようでかみ合っていない。エレナが中庭の反対側を見ると侍女が待機している。ランチの用意ができたようだ。
「用意ができたようですわ。さあ、まいりましょう」
「ところでエドとトームスはどうして入れ替わっていましたの?(このテリーヌは絶品ですわ)」
美味しいランチに舌鼓を打ちながら、フィルミナが首を傾げる。
「殿下に頼まれたんだよ。アンジェリカ嬢に呼び出されたから、影武者の出番だとか言って。なあ」
豪快にサンドウィッチを頬張りながら、エドワルドに同意を求める。
「フィー以外の女性と2人きりになる気はないからな」
トームスとは正反対に上品にサンドウィッチを食べるエドワルドは眉間にしわを寄せている。フィルミナに見られたことがいやだったようだ。サンドウィッチは美味しいらしく「美味だ」とつぶやいている。
「まあ、エド。わたくしのことを想ってですのね(うれしい)」
「フィーは本当に可愛い。抱きしめていいか?」
「だから、いちゃつくのは2人きりの時にしろ!」
今にもフィルミナを抱きしめそうなエドワルドを窘める。
「人の恋路は邪魔してはいけませんわよ」
静かにランチを味わっていたエレナに、大きな鶏肉のソテーを口に突っ込まれたトームスは噛み砕くのに時間がかかった。
午後の授業が始まる予鈴が鳴るまで、楽しい? ランチの時間を過ごした4人だった。
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