第8話
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今回は少し短めです。
登校してきたフィルミナとエレナが仲良く連れ立って教室に入ると、人だかりができていた。アンジェリカの席の辺りである。
「ごきげんよう。皆様。どうなさったの?」
「フィルミナ様。エレナ様。ごきげんよう。それが……」
アンジェリカの席に視線を向けると、机いっぱいにキズがついていたり、落書きがされていた。
「まあ、ひどいことを!」
「すぐに代わりの机を用意していただきましょう」
アンジェリカは席の前でうつむいている。細い肩が震えているので、泣いているのかもしれない。
「何の騒ぎだ」
エドワルドとトームスが教室に入ってくる。エドワルドの声が聴こえた瞬間、アンジェリカは駆け出し、エドワルドの胸に飛び込み抱きついた。隣にいたトームスがギョッとする。
「殿下! わ、私の机が……」
教室にいた生徒たちがざわつく。
「な!?」
「フィルミナ様の前でなんと大胆な!」
「アンジェリカ様。王太子殿下はフィルミナ様の婚約者ですのよ」
口々にフィルミナを擁護する生徒たちを制したのはフィルミナ本人だった。
「アンジェリカ様は怖かったのです。仕方がありませんわ。わたくし先生を呼びに行ってまいります」
フィルミナは教室を出て教員室へと向かう。慌てたエドワルドはトームスに命じる。
「フィー! トームスお前もついて行け!」
「了解した。殿下」
トームスはフィルミナに追いつくと「大丈夫か?」と声をかける。平然としてはいるが、内心は穏やかではないだろう。フィルミナは前を見据えたまま、ポツリとつぶやく。
「ねえ。あの場合『この泥棒猫!』とか言った方が良かったかしら?」
「やめとけ。悪役令嬢路線まっしぐらだ」
「そうですわよね(でも、ちょっと嫌だったわ)」
「へえ。お前可愛いところもあるじゃないか」
日頃、フィルミナにいじられているトームスはニヤリとする。頭を軽く撫でてやると、フィルミナは嫌がる様子もなくされるがままだ。艶やかな髪で触り心地がいい。
「心配しなくても殿下はお前一筋だ」
「トームスのくせに生意気ですわ」
「……なんでそうなる?」
それ以降、アンジェリカはエドワルドに何かと話しかけてはまとわりつくようになった。フィルミナがいようがいまいがお構いなしだ。
エレナがそれとなく注意してみたのだが。
「この学園では身分差に関係なく平等なのですよね? エドワルド様にお話するのは悪いことですか?」
と返されてしまった。論点がずれている。これ以上注意しても無駄だと思ったエレナはフィルミナを慰める側に回った。
人が滅多にこない裏庭で、怪しげな影が二つある。何やらこそこそと密談しているようである。
「トームス、明日からお前が王太子になれ」
「しっかりしろ! 殿下は疲れているんだ」
エドワルドの綺麗なアメジストの瞳が死んだ魚の目になっている。
「私はぐいぐいくるタイプは苦手なんだ。フィーのような慎ましい女性が良いんだ。おまえアンジェリカ嬢を口説いてこい」
「いやだね。いくら可愛くてもああいうタイプは俺も苦手だ。どうせならエレナの方がいい」
ほおとエドワルドは眉尻を上げる。
(エレナ嬢とトームスか。悪くないな)
「それにしても フィーが足りない! フィーと手をつなぎたい! 抱きしめたい!」
「おいおい。令嬢たちの憧れの王太子殿下が台無しだな」
端正な顔が崩れてしまっているエドワルドである。おまけに天に向かって両手を掲げ、背中がのけ反っている。
(こんな残念な殿下を見れるのって俺だけだよな)
「明日は休みだ。おまけにフィルミナの家でお茶会だぞ。頑張れ、殿下!」
「そうだった! 明日はフィーを堪能するぞ!」
はっとすると背筋を伸ばして、いい笑顔になる。フィルミナと思う存分いちゃつく気満々だ。
「俺とエレナも参加するんだぞ。程々にしとけよ」
次回、フィルミナとお茶会です。エドワルドはわくわくでしょうね。
 




